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AI新製品ラッシュで見せた、「巨人」グーグルの意地
Google
Google's big week was a flex for the power of big tech

AI新製品ラッシュで見せた、「巨人」グーグルの意地

ジェミニ2.0、量子コンピューターの新チップ、動画生成AI——。グーグルは年末に向け、矢継ぎ早に新製品を発表した。その背景にあるのは、チャットGPTで存在感を示すオープンAIへの対抗意識だ。結局のところ、最先端の技術開発を独占的に推し進められるのは、グーグルのような巨大テック企業だけなのかもしれない。 by Mat Honan2024.12.17

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

先週、このコラムではオープンAI(OpenAI)の「シップマス(shipmas)の12日間」について取り上げたが、今週の主役はグーグルだ。同社は、このホリデーシーズンに向けて、新製品やアップデートを次々と発表し、まるで疾走しているかのようである。これらの発表の組み合わせは、単なる一企業の動向にとどまらず、テクノロジー業界全体の力を象徴するものだと言える。たとえそれが、「もっと高尚な目的に向けられれば良いのに」という願いを抱かせるものだったとしても。

まず、グーグルは先週、新しい動画生成モデルである「Veo(ベオ)」と、画像生成モデルの新バージョン「Imagen 3(イマジェン3)」を発表した。

続いて、12月9日(月)には量子コンピューティング分野でのブレークスルーとなる「Willow(ウィロウ)」チップを発表した。この新しいチップは、「現在最速のスーパーコンピューターでも10の25乗年かかる標準的なベンチマーク計算を5分未満で実行できる」と同社は主張している。今年8月に研究者が査読前論文(プレプリント)を発表した際、MITテクノロジーレビューはこのWillowの研究の一部を記事にしている。今回の発表はメディアで大きく取り上げられ、シリコンバレーを大いに沸かせた。私もここ数日間、過去に例を見ないほど多くの量子コンピューティング関連の売り込みを受けた。

11日(水)には、グーグルは次の「贈り物」を発表した。「Gemini 2(ジェミニ)」のリリース、「Project Astra(プロジェクト・アストラ)」のアップデート、そしてWeb閲覧が可能なエージェント「Mariner(マリナー)」、コーディング・アシスタント「Jules(ジュールズ)」に関するニュースだ。

まず「Gemini 2」について。性能の向上は確かに目覚ましいものがある。しかし正直なところ、言語モデルの性能向上に関する発表は聞き飽きており、個人的にはほとんど無関心になりつつある。少なくとも、実際に何かを「やってみる」姿を見たいところである。

その点で、より興味深かったのは次に挙げられた「Project Astra」である。まるで未来のSF映画から出てきたAIのようだ。グーグルは今年5月の開発者会議でこのAstraのデモを初めて披露し、大きな話題を呼んだ。しかし、デモは製品を最も洗練された状態で見せる機会でもあるため、何が現実で何が舞台演出なのかを見分けるのは難しい。それでも、本誌のウィル・ダグラス・ヘブン編集者が最近、実際に台本なしで試す機会を得た際、大部分でその評判に見合う内容だったという。多少の不具合はあったものの、それらは簡単に修正可能だと指摘している。ヘブン編集者は、この体験を「驚異的」と表現し、生成AIの「キラーアプリ」になる可能性があると評価している。

さらに、この忙しい一週間の中で、グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)のデミス・ハサビスCEOがスウェーデンでノーベル賞を受賞したというニュースもあった。それを聞いて、「自分はこの一週間で何を成し遂げただろうか」と考えずにはいられない。

Willow、Gemini、Astra、Veoに代表されるこれらの進歩は、数年前には多くの人が「不可能」、あるいは「実現にはまだ時間がかかる」と考えていたものである。

テクノロジー業界にありがちな批判として、「約束しすぎて期待に応えられない」というものがある。しかし、ポケットの中のスマートフォンはその批判が必ずしも正しくないことを証明している。今週、私が利用したウェイモ(Waymo)の自動運転車もそうだ(しかもウーバーの推定待ち時間よりも早く到着した。スマホでウーバーを呼べるだけで画期的だった時代はそう昔のことではない)。量子コンピューティングは実現にまだ多くの課題を残しているが、Willowの発表は特筆すべき進展だと思う。それが決定的な転換点ではないにせよ、長い道のりにおける重要なマイルストーンにはなるだろう。

一方、チャットボットに関しては、私はまだ完全には納得していない。チャットボットはコンピューターとの新しい対話方法を提供し、情報検索に革命を起こしたが、人類にとって有益かどうかは議論の余地がある。特にエネルギー・コスト著作権問題、そして幻覚(ハルシネーション)を起こす性質などを考えると、議論すべき点は多い。しかし、それでも先週のグーグルとオープンAIの発表には、かなり驚かされた。

そして、巨大テック企業の力を抑制すべきだという議論が長らくされてきたにもかかわらず、これほど多くの分野で同時に画期的な進展を遂げる能力を持つのは、グーグルやアップル、マイクロソフト、アマゾン、メタ、バイドゥ(Baidu)といった資金力を持つ巨大企業だけである。

とはいえ私は、さらに多くのガジェットを買ったり、スクリーンを見つめる時間を増やしたりすることを望まない。他者とのやり取りが電子デバイスのみになるような物理的孤立も望まない。空気を二酸化炭素で満たし、土壌を電子廃棄物で汚染するような未来も受け入れられない。これらが進歩の代償であるべきではないのだ。テクノロジー業界が貧困や飢餓、病気、戦争を終わらせることにもっと集中すれば、人類にとってはるかに有益であることは間違いない。

それでも時々、シリコンバレーがこの数年推し進めているAIブームのような、誇大広告やナンセンスな話題が渦巻く中で、人間が成し遂げる可能性に畏敬の念を抱き、驚嘆する瞬間がある。そして、より大きな問題を実際に解決できる能力について、希望を抱く瞬間でもある。たとえそれが、より愚かではあるが、信じられないほど複雑な問題を数多く解決できるからという理由であったとしても。今週は私にとって、まさにそんな一週間だった。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
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MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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