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海運業界で見直される風力、
燃料30%節約も実現
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気候変動/エネルギー Insider Online限定
How wind tech hopes to help decarbonize cargo shipping

海運業界で見直される風力、
燃料30%節約も実現

世界の年間温室効果ガス排出量の約3%を占める海運業界において、風力は十分に活用されていない資源であり、同業界をより環境に優しい未来へ導く可能性を秘めている。 by Sofia Quaglia2025.01.08

太平洋の中央に浮かぶ一連の環礁(リング状のサンゴでできた島)から成るマーシャル諸島共和国の住民は、島から島への人々の移動、遠く離れた国々からの日用品の輸入、地元の農産物の輸出といったほぼすべてを海上輸送に頼っている。マーシャル諸島の住民は何千年もの間、航海には主にカヌーを利用してきたが、現在の海上移動の多くには、汚染物質を大量に排出するディーゼル燃料の大型貨物船が関与している。

もちろん、これはマーシャル諸島に限ったことではない。貨物輸送は世界の年間温室効果ガス排出量の約3%を占めている。現在の成長率で拡大していけば、2050年には同業界は世界の排出量の10%を占める可能性がある。

マーシャル諸島の船舶による影響は、地球全体の温室効果ガス汚染から見れば、大海の一滴に過ぎない。マーシャル諸島より大きな工業先進国は、はるかに多くの汚染を引き起こしている。しかしマーシャル諸島は、海水温の上昇、異常気象の頻発、海面上昇など、人為的な気候変動の影響を不釣り合いに受けている。

こうしたあらゆる状況から、マーシャル諸島の首都マジュロに住み働くアルソン・ケレンのような人々の間には切迫感が募っている。ケレンは、マーシャル諸島のカヌー団体「ワーン・アエロニ(Waan Aelõñ)」の創設者で、同地域に古くから伝わる、より環境的に持続可能な海事の伝統を守り続けることに力を注いでいる。そうすることで、ケレンは自国の船舶の完全な脱炭素化に貢献したいと考えている。その取り組みには、地元の若者に、モーター駆動の小型スピードボートに代わる伝統的なマーシャル諸島のカヌーや、中型貨物船に代わる太陽光パネルを取り付けた大きめのヨットの建造を指導することも含まれる。

ケレンはまた、伝統的なマーシャル諸島の船にヒントを得た帆走貨物船「ジュレン・アエ(Juren Ae)」(右の写真)の建造顧問も務めた。Juren Aeは2024年に処女航海をし、300トンの貨物を運ぶことができる。マーシャル諸島海運公社(Marshall Islands Shipping Corporation)は、Juren Aeが太平洋を横断する、より環境に優しい貨物輸送の青写真となることを期待している。燃料を動力とする貨物船に比べ、Juren Aeは温室効果ガス排出量を最大80%削減できる可能性がある。「私たちの小さなカヌーの美しい姉妹船です」とケレンは述べる。

ケレンの活動は極めて地域密着型のものだが、2050年までに貨物輸送において船舶から排出される温室効果ガスを実質ゼロにするという国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)の世界的プロジェクトの一環でもある。IMOの目標を達成するためにこの小さな島々以外で実施されている取り組みの多くでは、ガソリンをアンモニア、メタン、原子力、水素などの代替燃料に置き換えることに重点が置かれている。この他にも、マーシャル諸島の人々が長年頼ってきた風力もある。風力は選択肢のひとつに過ぎないが、風力推進装置の利用なしには、業界の脱炭素化はIMOの目標達成に間に合わないと、政治人類学者で『貿易風:海運の持続可能な未来への航海(原題はTrade Winds: A Voyage to a Sustainable Future for Shipping、未邦訳)』の著者であるクリスティアン・デ・ブウケラーは考えており、「目標達成までの時間を考慮するなら、風力は不可欠です」と語る。いくつかの研究によると、船舶に風力を導入すれば、海運産業の二酸化炭素排出量を20%削減できる可能性があるという。

「風力は、いくつかの不確定要素を効果的に排除します」とデ・ブウケラーは説明する。不確 …

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