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モルディブを水没から守れ、海流を利用して島を再構築する試み
INVENA & SELF-ASSEMBLY LAB, MIT
The quest to build islands with ocean currents in the Maldives

モルディブを水没から守れ、海流を利用して島を再構築する試み

サンゴが砕けた砂が海流で運ばれて作られたモルディブ諸島は現在、侵食と海面上昇で水没の危機にある。移動している砂を水中で捕らえて砂浜を再建しようとするプロジェクトが始まっている。 by Matthew Ponsford2025.05.07

衛星画像では、モルディブの20あまりのサンゴ環礁は、まるで骸骨か犯罪現場に引かれたチョークの線のように見える。しかし、インド洋の海底に消えた山脈の峰々を囲むこれらの地形は、そんな生気のないたとえとはほど遠い。それらは生き生きとしたプロセスの産物である。サンゴが何十万年もかけて海面に向かって成長した場所なのだ。その同じサンゴが砕けてできた砂が、変化する海流によって徐々に押し流され、海面の上に突き出る1000以上の他の島々を作った。

しかし、それらの海流は極めて一時的であることもあり、数週間のうちに新しい砂州を築いたり、砂州を洗い流してしまったりする。世界で最も低い場所にあるこの群島国家には、およそ50万人が暮らしている。こうした人々の今後数十年の日常生活は、そのように姿を変える砂地の中で、しっかりとした足場を維持する方法を見つけることにかかっている。 島々の90%以上が深刻な浸食に見舞われており、気候変動によって今世紀半ばまでに国土の大半が居住不能になる可能性があるのだ。

モルディブの首都マレのすぐ南に位置するある環礁の沖合で、研究者たちが戦略的な場所で砂を捕らえるテストを実施している。その砂を島へと成長させ、砂浜を再建し、海面上昇から沿岸のコミュニティを守ろうというのだ。エンブードホフィーノルー・ラグーンに向かって10分ほど泳ぐと、丈夫な外面に囲まれた安定繊維材製の袋6つで構成される珍しい構造物「ランプ・リング(Ramp Ring)」がある。「グローイング・アイランズ(Growing Islands)」プロジェクトと呼ばれる最近の取り組みの一環であるそれらの水中袋は、間が90メートル離れた一対の丸括弧の形を作っている。

それぞれ高さが2メートルほどのそれらの袋は、2024年12月に設置された。そして2025年2月までに、それぞれの袋の表面に1.5メートルほど砂が堆積していることが、水中画像で確認された。これは、受動的な構造物がすばやく砂浜に砂を補給し、やがて新しい陸地のための強固な基礎を構築できることを実証するものだ。「内部には大量の砂があり、非常に良好な状況です」。建築家で、MITセルフアセンブリー・ラボ(MIT Self-Assembly Lab)の創設者であるスカイラー・ティビッツ准教授はこう話す。MITセルフアセンブリー・ラボは、マレを拠点とする気候テック企業インベナ(Invena)と共同で、グローイング・アイランズ・プロジェクトを実施している。

セルフアセンブリー・ラボでは、重力、風、波、太陽光といった自然の力を利用して、空中や水中で変形したり「自己組織化」したりするようにプログラムできる材料技術を設計している。 同ラボが生み出したものの中には、水しぶきがかかると三次元構造物になる木質繊維のシートがあり、研究者たちは工具不要の平箱包装家具に応用できると期待している。

グローイング・アイランズ・プロジェクトは、同ラボのこれまでで最大規模の事業である。2017年以来、このプロジェクトはモルディブで10の実験を展開し、インフレータブル構造やメッシュネットなど、さまざまな素材、場所、戦略をテストしてきた。ランプ・リングはこれまでよりも何倍も規模が大きく、過去の実験の最大の限界を克服することを目指している。

モルディブでは、季節によって海流の向きが変わる。過去の実験では、1つの季節的な流れしか捕らえることができなかった。つまり、実験は1年のうち何カ月も休止状態になるのだ。それとは対照的にランプ・リングは「全方向性」であり、1年中砂を捕らえることができる。「基本的には大きなリング、大きなループです。季節風や波の方向に関係なく、同じエリアに砂を蓄積させます」と、ティビッツ准教授は言う。

このアプローチは、群島を保護するためのより持続可能な方法を指し示している。拡大が続くモルディブの人口は、白い砂浜と多くのサンゴ礁に惹きつけられる年間200万人の観光客に対応する経済によって支えられている。同国の187の有人島のほとんどは、海を埋め立てて土地を作ったり、侵食から土地を守るためにコンクリートブロックや突堤、防波堤などを設置したりするなど、すでに何らかの形で人の手が加えられている。1990年代以降は、水底の土砂等を掘りあげる浚渫(しゅんせつ)が群を抜いて最も重要な戦略となってきた。高出力のポンプシステムを装備したボートが海底の一部から砂を吸い上げ、別の場所にその砂を撒いて蓄積させるのだ。

この一時的な処理によって、リゾート開発業者やマレのような人口密度の高い島は、砂浜にすばやく砂を補給し、無制限にカスタマイズ可能な島を構築できる。しかしこの方法は、砂が採取された場所に死水域も残す。さらに、巻き上げられた土砂が、息が詰まるような海のスモッグとなって水を濁らせてしまう。モルディブ政府は2024年に、海水温の急激な上昇によってすでに苦しめられていたサンゴ礁生態系へのダメージを防ぐため、浚渫を一時的に禁止した。

ノーサンブリア大学の地理学者ホリー・イースト上級講師によると、グローイング・アイランズ・プロジェクトの構造物は浚渫に代わる魅力的な方法を提案するものだという。しかし、同プロジェクトに関与していないイースト講師は、すでに島の海岸線を作り上げている砂の流れを妨げないように、慎重に設置する必要があると警告する。

そのため、ティビッツ准教授と、インベナの共同創業者サラ・ドールは、環礁の周りの土砂流の動きを理解しようと、エンブードホフィーノルー・ラグーンの長期衛星解析を実施している。この研究をもとに、プロジェクトチームは現在、「リトラル(Littoral)」と呼ばれる予測沿岸情報プラットフォームを開発中だ。リトラルが「土砂移送のためのグローバルな健全性監視システム」になることが狙いであると、ドールは言う。このプラットフォームは、砂浜が砂を失っている場所を示すだけでなく、「浸食が起こるであろう場所を教える」ことも目的としており、政府機関や開発業者はその情報を利用して、ランプ・リングのような新たな構造物の最適な設置場所を知ることができる。

グローイング・アイランズ・プロジェクトは、ナショナルジオグラフィック協会(National Geographic Society)、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スリランカのエンジニアリンググループであるサンケン(Sanken)、および複数の観光リゾート開発業者から支援を受けている。 2023年には米国際開発庁(USAID)から25万ドルの助成金という大きな支援を得た。ランプ・リングの建設資金源となったこの助成金は、このアプローチを拡大する機会をもたらすはずだった。しかし、トランプ大統領の就任後、USAIDとの契約がほぼすべて解除されてしまったため、プロジェクトは現在、新たなパートナーを探している。

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マシュー・ポンスフォード [Matthew Ponsford]米国版 寄稿者
ロンドンを拠点に活動するフリーランスの記者。
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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