AI電力需要の増加、
家庭の電気料金に
将来しわ寄せか?
AIの利用拡大に伴い、米国ではデータセンターの新設が急ピッチで進んでいる。だが、これらは電力供給や送電インフラの拡張、さらには地域社会の開発との整合性をほとんど考慮せずに進められており、コストの一部が一般家庭の電気代に転嫁される可能性もあるという。 by Casey Crownhart2025.06.11
人工知能(AI)ブームによって急増するエネルギー需要。前回の記事「エージェント、LRM——電気食い虫のAIが国中の電力を貪る日」では、その需要を満たすために天然ガスなどの炭素強度の高いエネルギー源が用いられていることを明らかにした。また、大規模推論モデル(LRM)や動画生成などの普及に伴い、近い将来さらに莫大な電力が必要となる可能性についても触れた。
今回は、AIのさらなる利用拡大は今後、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか? 大手AI企業と研究者への取材から考えてみたい。
第4部:これからの未来
ローレンス・バークレー国立研究所はこれまでに16人のノーベル賞を輩出してきた名門研究所である。同研究所は米エネルギー省の資金援助を受け、AIの普及がエネルギー需要に与える影響を測定しようと試みた。その結果をまとめたのが、2024年12月に発表された報告書である。
研究チームは公開情報と機密データの両方を用いて、米国のデータセンター全体のエネルギー使用状況、およびAIに特化したニーズを分析した。その結果、明確な結論に至った。すなわち、米国のデータセンターは2024年において、およそ200テラワット時(TWh)の電力を消費しており、これはタイ王国全体の年間電力消費量に匹敵するということだ。このうち、AI専用のサーバーによって消費された電力量は、53〜76テラワット時と推定されている。上限値で見れば、これは米国の一般家庭720万世帯分の年間消費電力に相当する。
仮にこの大部分がAIの推論処理に使用されたとすれば、米国だけで、地球上のすべての人々が1人あたり4000回以上チャットボットとやりとりするだけの電力が消費されたことになる。もちろん実際には、この電力の多くは一般ユーザーではなく、スタートアップ企業や大手テック企業によるモデルの検証、熱心なパワーユーザーによる新機能の探索、あるいは動画やアバターの生成といったエネルギー集約型の用途に費やされていると考えられる。
研究チームは、2028年までにAI向け電力使用量が165〜326テラワット時に達するとの見通しを示している。現在米国全体のデータセンターで使われている総電力量を上回っており、米国の全世帯の22%分の電力に相当する。地球と太陽の間を往復1600回以上、約4800億キロメートル以上の距離を車で走行するのと同等の排出量となる可能性がある。
研究チームは、ここ10年以上横ばいだったデータセンターの電力需要が急増し始めた主因は、AIの導入と、それを支える高速サーバー技術の進展であると明言している。2024年から2028年にかけて、米国の総電力使用量におけるデータセンターの占める割合は、現在の4.4%から最大12%にまで3倍近く増加する可能性がある。
こうしたAIによる前例のない電力需要の急増は、主要企業の発表とも整合している。ソフトバンク、オープンAI(OpenAI)、オラクル(Oracle)、およびアラブ首長国連邦の投資会社MGXは、今後4年間で米国内に新たなデータセンターを建設するために総額5000億ドルを投資する計画だ。最初のプロジェクトはテキサス州アビリーンで着工しており、野球場ほどの大きさの建物が8棟建 …
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