ダークマター探索を阻む
「ニュートリノの霧」
それでも科学者は挑む
宇宙の物質の83%を占めながら、姿を見せないダークマター。その有力候補「WIMP」を、巨大なキセノン検出器が地下深くで探し続けてきた。だが、検出器が高感度になるほど、この「ニュートリノの霧」が本命の信号をかき消す。それでも科学者は諦めず、探索の場をアクシオンや木星の衛星へと広げている。 by Dan Garisto2026.06.24
- この記事の3つのポイント
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- WIMPダークマター検出器がニュートリノの霧に直面し、従来の液体キセノン型探索手法は限界を迎えつつある
- LHCでも超対称性粒子が未発見のまま、探索対象はWIMPからアクシオン・低質量ダークマターなど多様な候補へ拡大している
- 量子センサーや液体ヘリウム検出器、惑星大気観測など新技術が台頭する一方、発見の保証はなく探索は数十年規模の長期戦となる見通しだ
イタリアのアペニン山脈の麓、中国・四川省の錦屏山脈の下、そして米国サウスダコタ州の鉱山の最深部で、宇宙探索が進められている。
そこには、岩盤の盾で隔離された地中深くに、液体キセノンで満たされた巨大な検出器が設置されている。目指すのは、長年探し求められてきたダークマター(暗黒物質)を、初めて直接的に検出することだ。ダークマターは、その重力が私たちの宇宙を形作ってきた、目に見えない物質である。
いつの日か、「弱相互作用大質量粒子(WIMP)」と呼ばれるダークマターの少量がキセノン原子と衝突し、光と電荷を瞬間的に放出することが期待されている。長年にわたる実験を経て、最近では、検出器に衝突するまで通常物質の中を幽霊のように通り抜けていくある粒子がまれに発する微弱な信号が観測され始めている。残念ながら、この新たな信号はダークマターが生み出しているものではない。その代わりに検出器が捉えているのは、同じように実体はないが、はるかにありふれたものである。太陽や他の恒星が大量に生み出す非常に軽い素粒子、ニュートリノだ。
物理学者たちは何十年も前から、このニュートリノの背景信号が存在することを知っていた。ただ彼らは、まずWIMPダークマターを発見したいと願っていたのだ。現在、そのチャンスは薄れているように見える。現在のWIMP検出器の一部は、単純に規模と感度が高すぎて、いわゆる「ニュートリノの霧」と呼ばれる状態に入りつつある。この状態に入ると、メインの観測対象が発する信号を、通常物質の粒子がかき消してしまう可能性が高い。地球そのものを容易にすり抜けるニュートリノから、これらの検出器を遮蔽する手段はない。そのため、長年にわたってWIMPダークマターの探索に用いられてきたこの手法は、次の実験が最後になるかもしれない。
しかし、ニュートリノの霧にぶつかったからといって、ダークマターの探索が終わるわけではない。研究者たちが探索の焦点を移す必要があるだけだ。「WIMPダークマターは観測されていません」と、カリフォルニア工科大学の素粒子理論物理学者、キャサリン・ズレック教授は話す。ズレック教授によれば、フランスとスイスの国境にまたがる強力な陽子衝突装置である「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」でも、新たな粒子は発見されていないという。「そのため、当然ながら、人々は探索範囲を広げています」と、ズレック教授は言う。探索範囲が広がる中で、発見されるのを待ち構えているさらに多くのダークマター候補の粒子が存在する。
つまり、ダークマターの探索は、狭い範囲の調査から、自由競争のようなものへと変わりつつある。これは大きな転換である。今日、ダークマターに関する素粒子物理学者たちの確信は、探索を始めた当初よりも薄れている。彼らは、基本的なことさえ推定できないことを率直に認めるだろう。たとえば、ダークマターを構成する物質は地球より重いのか、それとも電波より軽いのか、あるいはダークマターは1種類の粒子なのか、それとも十数種類あるのかといったことも分からなくなっている。
この不透明さは、私たちを苛立たせるだけでなく、謙虚にさえさせることもある。「候補となる物質が存在する可能性のある範囲はものすごく広いため、1つの小規模な実験でその粒子を発見する確率は、極めて低いのです」と、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のダークマター実験研究者、ヒュー・リッピンコット准教授は言う。
しかし、存在すると考えていた場所でダークマターを発見できなかった物理学者たちの失敗が、数多くの新たな探索手法の提案にもつながった。量子センサー、液体ヘリウムを用いた検出器、木星の大気での探索などだ。「現在、期待が大きく高まっています。そしてついに、そのための技術も整いました」と、ワシントン大学の物理学者、グレイ・リブカ助教授は言う。リブカ助教授は、超軽量のダークマター候補物質であるアクシオンを探す実験を、共同責任者として率いている。
そうだとしても、探すべき場所がそれほど多い中で、物理学者たちは改めてどこから始めるのが理にかなっているのだろうか?
天文学上の無知
その第一歩となるのが、宇宙の誕生だ。ダークマターは宇宙の始まりから存在しており、そういう初期の時代から多くを知ることができる。宇宙マイクロ波背景放射(宇宙の初期に放たれた最初の光)の地図には、不均一に存在していた基礎的な物質の影響を受けた分布の揺らぎが、数多く見られる。このような宇宙の残滓を読み解くことで、宇宙に存在する物質のうち、陽子や中性子といった通常粒子で構成されているものは、わずか17%に過ぎないことが分かっている。残りの83%がダークマターだ。ダークマターは、重力を介した影響を除き、光や通常物質とはほとんど、あるいはまったく相互作用しない。
そのような重力の影響から、ダークマターについて多くのことが言える。天の川銀河の中には、ダークマターのハローが存在することが分かっている。私たちの太陽系は銀河の中心の周りを回っているが、そのスピードは、通常物質の引力だけではとてもつなぎとめておくことができないほど速い。ダークマターの重力によるロープがなければ、私たちは銀河間空間へ放り出されてしまうだろう。また、銀河に存在するダークマターの重量が、地球上の望遠鏡に向かって進む光の経路を歪める様子を観察することもできる。さらに、最も壮大なスケールでは、超銀河団が、まるで蜘蛛の巣に付いた露の玉のように、不均一に宇宙空間に分布しているのも観察できる。ダークマターの存在を想定しない宇宙理論では、これらすべての現象を説明することができない。
しかし、どのような天文学的・宇宙論的なエビデンスであっても、ダークマターが実際に何で構成されているのかということについては、ほとんど何も説明できない。「個々の構成要素については何も教えてくれません。ただ、それらがまとまって及ぼす影響を教えてくれるだけです」と、サウスダコタ州の旧ホームステーク鉱山で現在稼働しているWIMPダークマター検出器「LZ」の実験を率いてきたリッピンコット准教授は言う。
WIMPという概念は1980年代に浮上した。当時、理論家たちは、宇宙のすべての基本粒子とその相互作用を説明する素粒子物理学の包括的な理論である「標準模型」へ追加する要素を模索していた。標準模型は強力な理論ではあるが、すべてを説明できるわけではないため(特に、重力が組み込まれていない)、何らかの修正が必要と考えられていた。最も支持されていた考え方は、超対称性(SUSY、非公式な理論)と呼ばれる類の理論だった。この理論では、宇宙に存在する既知の種類の粒子ひとつひとつが、まだ観測されていない「スーパーパートナー」と対を成していることが予測された。これまで検出を免れてきたことを説明するためには、スーパーパートナーが(既存の粒子衝突型加速器の検出能力を超えてしまうほどの)大きな質量を持ち、相互作用が弱く、幽霊のように物質を通り抜けることができなければならない。つまりそれは、WIMPということになるだろう。WIMPがダークマターの有力な候補でもあることに物理学者たちが気づくまで、長い時間はかからなかった。この粒子1つで、2つの問題が解決されるのだ。
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