足元に眠る天然水素、21世紀の「ゴールドラッシュ」が始まった?
クリーン水素の競争は、再生可能電力で水を分解する方法と、化石燃料由来の製造を炭素回収でクリーン化する方法の間で争われてきた。だが、どちらもコストの壁に阻まれている。そこへ、水素そのものを地下から掘り出そうという動きが世界で加速してきた。アフリカからオーストラリア、北米まで、天然水素の探索が相次いでいる。クリーンエネルギーの新たな鉱脈になるのだろうか。 by Casey Crownhart2026.08.21
- この記事の3つのポイント
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- 天然水素の探査が世界各地で急拡大し、21世紀のゴールドラッシュとも呼ばれる段階に入った
- 鉄に富む地層と水の反応や人工的な地下刺激など、複数の生成・回収アプローチが並走している
- 輸送・貯蔵の工学的難題が残るものの、解決できればクリーン水素の主要供給源になる可能性も
水素の新たな供給源を求める探索が進んでいる。その気体(あるいは少なくとも、それを生成するのに適した条件)は、私たちの足元に隠れているかもしれない。
水素は、大型トラックや航空機から製鉄まで、幅広い用途で燃料として利用できる。燃焼時に水と酸素を生成し、気候変動の原因となる炭素排出が一切ないことから、気候変動対策の手段としてしばしば期待されている。
新しい記事で、フリーランス記者のジェームズ・ディニーンが、天然に存在する水素ガスをめぐる21世紀のゴールドラッシュを取り上げた。これは私が最近強い関心を持っている研究分野なので、その可能性と、なお残る疑問について見ていこう。
現在、水素の圧倒的大部分は化石燃料、主に天然ガスを使って製造されている。そして、その大部分は石油精製に使われるか、肥料やその他の化学品の製造に使われる。しかし近年、気候変動対策に取り組む人々の多くが、水素の製造自体もクリーンになる未来を思い描いている。
数年前に聞かれていたら、クリーン水素をめぐる競争は、再生可能電力で動かす電解装置を使う方法と、既存の化石燃料ベースの製造法を炭素回収によってクリーン化する方法との間で繰り広げられている、と答えていただろう。しかし、どちらの方法も、主にコストの高さから普及が進んでいない。
最近、新たな分野が勢いを増している。天然水素だ。企業はアフリカ、アジア、欧州、オーストラリア、北米の各地で、天然に存在する水素資源を発見している。
米国地質調査所(USGS)は、米国内の水素賦存可能性を示す地図を公開している(要するに、水素が天然に存在する可能性が最も高い場所を示したものだ)。注目されている地域の一つが中西部、具体的にはカンザス州からミシガン州に延びるミッドコンチネント・リフトだ。約10億年前、この地域では地殻が引き伸ばされて割れ、溶融した岩石がその亀裂を通って上昇した。その結果、現在では鉄に富む岩石が大量に存在し、水と反応して水素を生成しやすい環境が整っている。
オーストラリアのハイテラ(HyTerra)は、ネブラスカ州とカンザス州で水素を探しており、すでに水素濃度が最大96%に達するガスのサンプルを発見している。この分野で最も多額の資金を調達している企業の一つで、総調達額が4億ドルを超えるコロマ(Koloma)も、この地域で探査を進めている。
これらの企業が抱える大きな疑問の一つは、自然のプロセスによってどれほどの水素が生成されるのか、そしてそれを効果的に回収できるのかということだ。水素は分子量が小さく、非常に軽い気体であるため、岩石のごく小さな亀裂からも漏れ出してしまう。
ディニーン記者が記事で取り上げたように、有望な兆候もある。研究者たちがオンタリオ州北部の鉱山にある数十本のボーリング孔を調べたところ、それぞれから年間8キログラムの水素が放出されていることがわかった。この1カ所だけで1万4000本を超えるボーリング孔があることを考えると、回収できる可能性のある水素は相当な量になる。
天然の供給源を探すのではなく、自ら反応を促進しようとしている企業もある。いわゆる「刺激型天然水素(stimulated geologic hydrogen)」とは、水素生成に適した条件はあるものの、水素が蓄積していない場所を見つけるという考え方だ。水や触媒、あるいは反応に必要なその他の要素を加えることで、そのプロセスを始動させることができる。
ヴェマ・ハイドロジェン(Vema Hydrogen)はテキサス州に拠点を置く企業で、坑井を掘削し、水と触媒を注入して反応を促進することで、地下の岩石から水素を生産しようとしている。同社はケベック州の坑井でこのプロセスを試験しており、2028年に本格生産を開始することを目指している。
水素生産の別の側面に取り組む企業もある。たとえばエデン・ジオパワー(Eden GeoPower)は、電気を使って岩石に亀裂のネットワークを形成し、水が入り込める経路を増やしている(この技術は、地熱増産プロジェクトにも利用できる可能性がある)。
この分野には、まだ多くの未解決の問題がある。水素は輸送や貯蔵が非常に難しいことで知られており、気体のまま貯蔵するには大きな容積が必要で、液体にするには超低温まで冷却する必要がある。しかし、工学面と物流面の課題を解決できれば、水素の新たな時代の始まりとなるかもしれない。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。