KADOKAWA Technology Review
×
テスラの自動車工場はブラックか? ホワイトか?
What It’s Like To Be a Worker in Tesla’s Car Factory

テスラの自動車工場はブラックか? ホワイトか?

テスラモーターズの工場は「自動車工場労働者の天国」と話す人がいる一方、「過去の時代の労働環境」だと話す人もいる。実態はどうか。 by Jamie Condliffe2017.05.22

オムレツを作るためには、卵を割らなければならない(訳注:フランスのことわざ。「冒険なくして目的を達成することはできない」との意味)。未来の電動移動手段を作り上げるためには、どのような犠牲を払わなければならないのだろうか? ガーディアン紙は、カリフォルニア州フリーモントにあるテスラモーターズの巨大な自動車製造工場の労働環境について調査した結果を報道した。その結果は非常に興味深いものだった。

ガーディアン紙の記事では工場に勤務する何人もの労働者の声を紹介し、読者に対してネガティブな印象を与えることに成功している。過酷な労働時間、倒れ込む従業員、繰り返される過緊張状態、そして平均を超える傷病発生率——といった具合だ。

記事の大部分は、テスラで働く労働者ホゼ・モランを名乗る人物が、今年2月に世界に向けて発信したコメントと重なっている。モランは、工場で働くスタッフの多くが「未来の企業に雇われて、過去の時代の労働環境のまま働いている」と感じ、労働組合の結成へ向けて動いているとブログ記事に書いた。

だが、ガーディアン紙の記事には、正当な扱いを受け、きちんと対価を受けていると感じている労働者たちの声も隠れており、テスラの工場で働くことに対する誇りの声も明らかに高まっている。ある労働者は、テスラで職を得ることは「自動車工場労働者の天国に行ったような経験」だと話す。また、別の労働者は、テスラが「世界を変えている」ように感じているという。

モランが今年2月にブログ記事を発表した当時、テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、モランの主張を「明らかに(中略)事実に反する」ものだと話した。マスクCEOは、時間外労働を50%減らすためのシフトの追加などによる新しい労働環境を紹介しながら、テスラが労働者たちが直面している問題にすでに対応していると主張した。また、ガーディアン紙も、テスラの傷病発生率が、現在では業界の平均値より32%も少ないことが、新しいデータによって示されていると報じている。

少なくとも、テスラの従業員はある程度の報酬を得ている、とマスクCEOは主張する。テスラの社員は4年間の合計で見れば、平均的な自動車産業労働者よりも10万ドルも多く財布を膨らませているという。

これらの混沌としたメッセージを、すべて額面通りに受け取るのは難しい。また、テスラの工場で働く将来性を、スタートアップ時の労働環境と比較するのも困難だ。テスラは来年、50万台の生産計画を立てており、雇用者は数千人に上るものの、実のところさまざまな点でテスラはいまだスタートアップ企業のままなのだ。テスラは今も収益を上げておらず、間違いなく生産力は過大評価されており、厳しい戦いを強いられている。

だからといって、問題のある労働環境を擁護する理由にはならない。だが、ガーディアン紙の記事が伝えるメッセージは、別の形で読み直すこともできる。見込みのない、単なる破滅状態にある企業の例ではなく、自動車産業分野における発展途上企業としていまだ模索し、初期の過ちを正し、労働環境を従業員とともに最善の努力で向上しようと試みている企業の一例として、捉えることもできるだろう。

(関連記事:The Guardian, “Building Tesla” “テスラモーターズは2018年に年間50万台も自動車を製造できない“)

人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
タグ
クレジット Photograph by AFP/Stringer | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. The AI Act is done. Here’s what will (and won’t) change ついに成立した欧州「AI法」で変わる4つのポイント
  2. Apple researchers explore dropping “Siri” phrase & listening with AI instead 大規模言語モデルで「ヘイ、シリ」不要に、アップルが研究論文
  3. Advanced solar panels still need to pass the test of time ペロブスカイト太陽電池、真の「耐久性」はいつ分かる?
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る