KADOKAWA Technology Review
×
Why Waymo’s Partnership with Avis Makes Sense

グーグルの自動運転車はなぜレンタカー会社と提携するのか

自律運転テクノロジーの開発企業は、自動車のメンテナンスには手を出さない。一方でレンタカー会社は車の所有形態が変化する中、自らの存在意義を探すのに必死だ。 by Jamie Condliffe2017.07.04

レンタカーの大手企業エイビス(Avis)はアルファベット(グーグル)の自律自動運転車を開発する子会社ウェイモ(Waymo)と契約を交わし、ウェイモが新たに本格的に展開を開始する自律自動運転サービスの車両メンテナンスを請負うことになった。

ブルームバーグの報道によると、自動車サービス会社が自律運転車開発企業と結んだ初めての本格的な提携契約の主な内容は、車両の管理を引き受けるというかなり地味なビジネスだ。オイル交換、タイヤ圧の点検などあらゆるものが含まれる。しかし、未来の車所有のあり方に適応するために、自動車産業が再構築を迫られていることは興味深い。

ウェイモが提携を結んだ動機は単純だ。最近になってウェイモはアリゾナ州のフェニックスにおいて、クライスラー(Chrysler)のミニバン「パシフィカ・ハイブリッド」とレクサス(Lexus)のSUV「RX450h」を使った自動運転サービスを本格的に開始することを発表した。何百もの家庭が、オンデマンドで自動運転車を利用できる。用途は通勤から食料品の買い出しなど何でもありだ。しかし、ウェイモはそれら多数の車両については、メンテナンスをしていない。ウェイモの目的は、単に自動運転テクノロジーを開発することにある。

エイビスは、もともと膨大な数の車両を管理することにかけては実績がある。そこでエイビスは、コンピューターやセンサーなど自律運転技術の要となるハードウェアは除き、フェニックスで展開するウェイモの自動運転システムを搭載した車両のメンテナンスを一手に引き受ける。今回の取引で、エイビスがどの程度の利益を得られるのかはわからない。

エイビス自身も、オンデマンド型レンタカー・サービス企業ジップカー(Zipcar)という子会社を抱えている。エイビスがジップカーを買収した理由は、自律運転車の開発がまだ先のことと考えられていた時期に、ジップカーが画期的なサービスを持つ会社だと判断したからだ。しかし、ジップカーがエイビスの傘下にあることは、ウェイモにとっては好都合かもしれない。将来、ウェイモが自動運転サービスを提供するにあたって、最適な顧客ネットワークを提供してもらえるからだ。それどころか、今回の提携に関するブルームバーグの記事では、ウエイモのジョン・クラフチク最高経営責任者(CEO)がエイビスと提携する魅力を感じた大部分は、ジップカーだったという。しかし、現実にはジップカーがどの程度役に立つかははっきりしていない。ウェイモはすでにリフト(Lyft)とも提携している。リフトも、オンデマンドの配車サービス分野では膨大なノウハウを持っている。

一方で、エイビスはレンタカー産業の行く末を案じている。車の利用法が変化していくことは、今後の既定路線と見られている。自動運転車が主流となっていくにつれて、人は自家用車を持たなくなり、オンデマンドで利用できる車をシェアする方向に大きく変化すると予測されるからだ。ボストン・コンサルティング・グループが出した予測によると、2030年までには米国の全走行距離の25%までもが、シェアリング型自動運転電気自動車に占められる可能性があるという。

共同利用する車に関しては、既存のレンタカー会社がそのまま活用されるかもしれないが、将来的には自動車メーカーが直接レンタル・サービスの提供に乗り出したり、ウーバー(Uber)やリフトのような配車サービス企業が取って代わる可能性は高い。実際、ウーバーのビジネスモデルは基本的に、自家用車を保有するという前提を破壊することを根本としている。一方、エイビスの子会社ジップカーは最近業績が悪化しており、人員削減とサービス内容全体の徹底的な見直しを迫られている。

これまで、ウーバーが持つ全車両は、契約を結んだ自営のドライバーがメンテナンスを担当している。しかし、所有者がいない自動車の修理やメンテナンスは、誰がするのだろうか? 多数の自律自動運転車を所有するのがどこの会社であれ、売上を最大化するためにほぼ常時稼働させたいとなると、さらに差し迫った問題となる。そうなれば、定期的なメンテナンスの頻度を上げなければならない。

他に方法がなければ、既存のレンタカー会社が、これまで培ってきた自社保有車の管理ノウハウを、自律運転車のサービスを構築しようしている企業に売り込める可能性はある。エイビスとウェイモの提携が成立したことで、これが的を得た戦略になるかどうかが明らかになるだろう。

(関連記事:Bloomberg, “ウェイモ、フェニックス周辺で自動運転車の無料試乗サービス,” “Uber’s Other Big Problem: Driverless Cars Aren’t Ready Yet,” “How Mobile Apps Are Disrupting the Car-Rental Business”)

人気の記事ランキング
  1. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  2. This artificial leaf makes hydrocarbons out of carbon dioxide 人工光合成が次段階へ、新型人工葉が炭化水素合成に成功
  3. Everyone in AI is talking about Manus. We put it to the test. ディープシークの衝撃再び? 話題の中国製AIエージェントを試してみた
タグ
クレジット Photograph by Geoff Robins | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る