なぜ今、磁気テープなのか?
IoT時代に躍進する
データストレージ
社会のデジタル化が加速し、データ駆動型社会への転換が進んでいる。IoTが急速に普及し始めたこともあり、収集データの増加ぶりは爆発的といっていい。2025年には、全世界のデータ生成量が163ゼタバイト(ZB=1021)を超えると予想される中、膨大なデータを保存するストレージとして磁気テープが注目を集めている。 by MIT Technology Review Brand Studio2017.08.21Promotion
19年におよぶ研究開発から生まれたテープ素材のイノベーション
2011年、グーグルのメールサービス「Gmail」に大規模な障害が発生した。多数のユーザーのメールが紛失するなど一時は大騒ぎになったが、結果的には短時間で復旧し、消失データもゼロに抑えられた。その理由は、グーグルが全データをテープストレージにバックアップしていたからだ。
JEITA(電子情報技術産業協会)テープストレージ専門委員会のデータによれば、2015年のLTO(Linear Tape Open=コンピュータ用磁気テープのオープン技術規格)テープメディアの出荷容量は70エクサバイト(EB=1018)を超えた(出典:LTO Media Shipment Reports LTO Consortium http://www.lto.org/)。磁気テープユーザーとして突出しているのは、グーグルをはじめとするアメリカのIT企業だ。
企業が扱うデータのうち、頻繁にアクセスされるホット・データは、平均的に全体の2〜3割にとどまる。残りのコールド・データ保存に関して、テープストレージにはHDDと比べていくつものメリットがある。
「第一には、TCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ:コンピュータの導入や、管理維持に関わるコストの総額)の低さが挙げられます。データ保存のための設備投資、冷却費用を含む電力コスト、データセンターの土地代、さらにメディア代などのトータルコストで、HDDやフラッシュメモリなど他のメディアと比べたテープストレージのコストメリットは圧倒的です。消費電力だけをとってみても、データ量が400TBの場合、磁気テープならHDDの約1/10以下に抑えられるという試算があります」と、富士フイルム記録メディア事業部営業部アーカイブビジネスグループ・グループ統括の大木晴信氏は説明する。
信頼性に関していえば、最新の磁気テープのビットエラーレートは、HDDの1万倍以上もの信頼度を誇る。また長期間保存した場合の信頼性も高く、HDDが3〜5年で物理的な寿命を迎えるのに対して、適切な環境下で保管すればテープストレージの耐用年数は30年以上にもなる。データ転送速度についても、最新のLTO7規格のテープでは300MB/sと、ニアラインHDDの250MB/sを凌駕している。
「しかもLTO規格は、現時点でLTO10までのロードマップが公表されており、容量は現行のLTO7の15TBからLTO10の120TBまで増える見通しです。弊社とIBMの共同研究では、すでに220TBまでのデータ記録に成功しており、将来的にはさらに増えることは間違いありません」(大木氏)
大容量化を可能にしたのは、テープ素材となる磁性体のイノベーションにある。従来のメタル磁性体(MP)が、バリウムフェライト磁性体(BaFe)に切り替わることで、保持力強化と大容量化が実現された。このBaFe開発から商品化までに富士フイルムは19年もの歳月をかけている。開発者の執念と企業の粘り強い支援が、画期的な製品に繋がったのだ。
進化し続けるテープストレージがシステムを最適化する
テープストレージの使い勝手を画期的に改善したのが、LTO第5世代で採用されたLTFS(Linear Tape File System)である。
「テープの先頭部分にインデックス領域を作り、データ領域と分けます。これによりインデックス領域の目次から目的のデータに一気に飛べるようになりました。以前はテープからデータを読み出すには、まず1本分の全データをHDDに復元する必要があり、数時間かかりました。これがLTFSにより目的のデータだけを読み出せるようになったので、所要時間は数十秒と実に100倍以上の高速化が実現されています」(大木氏)
磁気テープ読み出しが高速化する一方で、フラッシュメモリ価格が大幅に下がってきている。これらを組み合わせることにより、ホット・データとコールド・データの記録メディアの使い分けが、従来システムから大きく変更される可能性が出てきた。
頻繁にアクセスするホット・データは、速い上に価格がこなれてきたフラッシュメモリでカバーし、コールド・データ用のストレージとして磁気テープを組み合わせる。これにより全データをHDDに保存するよりコストダウンを図る一方で、データアクセスのパフォーマンスを大きく向上させた、究極のストレージシステムが構築できる。
「情報システム自体のバックアップに関しても、テープストレージの優位性が明らかになってきました。BCPあるいはDR(ディザスタリカバリ)の観点から今もっとも考慮すべきは、ランサムウェア対策です。2017年6月、ヨーロッパを中心に発生したランサムウェアの感染被害は、多くの機関で業務に支障をきたすほどの深刻な状況を引き起こしました。DR(ディザスタリカバリ)としてデータレプリケーションを行っていたとしても、ミラーリングしているバックアップシステムにネット経由でランサムウェアが感染するリスクは取り除けません。これに対する唯一、かつ確実な防御手段は、物理的にネットワークにつながっていないメディアにシステムをバックアップしておくこと。すなわちランサムウェア対策としても、テープストレージを活用できるのです」(大木氏)
米国で進むテープストレージの新たな活用法
富士フイルムでは、テープを活用した新たなデータアーカイブソリューション「dternity(ディターニティ)」を提供している。サービスは3種類、オンプレミスでのデータ保存をサポートする「オンサイトアーカイブ」、データ保存をまるごと請け負う「オフサイトアーカイブ」、企業が保管するアナログデータをデジタル化する「コンバージョン」である。
オンサイトアーカイブは、サーバーとテープライブラリーを階層管理ソフトで結合し、アプライアンスとして提供する。サーバー内のディスク領域に保存されたデータは、一定期間アクセスがないと自動でテープ領域に移動する。
情報資産をまるごと預かり、磁気テープで長期保管するのがオフサイトアーカイブである。メディアの種類やデータ形式にかかわらず、現在使用している記憶媒体をそのまま富士フイルムに送れば、富士フイルム側で磁気テープに保管する。データを預ける側に必要な作業は、記憶媒体を送るだけだ。
「アメリカではすでに、メジャーリーグの全試合映像を記録するMLBプロダクションズや、MITとハーバード大による遺伝子関連の共同研究機関、ホワイトヘッド研究所などで、オンサイトアーカイブが採用されています。映像データや遺伝子の解析データなど、膨大なデータをアーカイブとして残す必要のある企業には、非常に使い勝手の良く最適なソリューションとして評価されています」(大木氏)
最近では、企業に対するデータ管理ソリューションも提供するようになった。これまでに膨大な量のデータを蓄積していながら、ストレージ環境が複雑化し一貫性のあるシステム構築をしてこなかった企業では、データが適切に管理されておらずコールド・データのアーカイブができていないケースも多々ある。
「そうした企業に対して、ストレージ環境全体を可視化し全てのデータを一元管理・最適配置できるシステムと、dternityのようなデータアーカイブソリューションを一括提供することで、データストレージ全体の最適化を支援するのです」(大木氏)
dternityに対するニーズは、アメリカだけでなく日本でも同様にある。特に動画など大容量データに対する保存ニーズのある業界、例えばメディアエンターテインメント業界、医療業界や大学の研究機関、建設業界などからの引き合いも多い。中でも医療業界では教育用途での手術動画の保存、法規制による医療記録の保管のニーズがあり、富士フイルムグループの医療機器販売部門と共同で積極的な営業活動に取り組んでいる。また、将来の自動運転に備えて自動車業界では、さまざまな運転状況を撮影した動画を機械学習にかけているが、ここでも大容量の動画保存システムが必要だ。
今後ますます進展するデータ社会、その根幹を支えるのがストレージシステムである。そのメディアとして最も有望な選択肢が磁気テープだ。テープストレージは、富士フイルムが開発したイノベーティブな素材BaFeにより、今後も進化する伸びしろがある。同社はさらに、記憶容量を最大400TBにまで高める新材料の研究にも取り組んでいる。
データ保存の可能性を大きく拡げるイノベーションは、富士フイルムが蓄積してきた技術と知見の海から生み出された。同社は、独自の技術と世界中から集まる人・知恵・技術を融合し、明日の可能性を拡げるイノベーションを生み出し続けている。根幹となるフィルム・写真技術の応用は、医療分野から化粧品、先進工業、さらには宇宙にまで広がっている。詳しくはぜひ一度、Innovation Aquariumへアクセスしてほしい。
(提供:富士フイルム)
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