愛犬の難病治療に遺伝子療法、人間もペットも救う
人間の治療法開発のため犬で始まった研究が、今度は「家族同然」のペットを救う治療として戻ってきている。血友病やがんなど様々な難病で成果を上げ始めた遺伝子療法は、人間と犬の双方に希望をもたらしている。 by Emily Mullin2017.07.13
コートニー・シーモアは、9歳になるチョコレート色と白色のボクサー犬グレタのことを、長年、家族にとって欠かせない存在だと思ってきた。だから、グレタがルー・ゲーリッグ病に似た症状を示す変性性脊髄症と診断されたとき、シーモアは大きなショックを受けた。これは麻痺を引き起こし、最終的には苦しみながら死に至る病気である。
そこへ、医学分野で最も有望で革新的な新しい遺伝性疾患治療法の1つから、わずかな希望の光が差し込んだ。タフツ大学がこの病気にかかった飼い犬を対象に、遺伝子療法という実験的治療の治験参加者を募集していると、シーモアの獣医が教えてくれたのだ。成功の保証はなかったが、シーモアはそのチャンスに飛びつき、ニューヨーク州オールバニ郊外の自宅からボストンまで約320キロを車で移動し、2017年3月、グレタは治療を受けることができた。
何十年もの間、遺伝子療法は、人間のDNAに新たな遺伝物質を導入することで病気を治療する手段として構想されてきた。この技術はついに人間の患者で効果を示し始め、米国では規制当局の承認に近づいている(「ブレークスルー・テクノロジー10」参照)。こうした治療法の一部は、まず人間と似た免疫系を持ち、同様の病気にかかる研究用の犬で試されている。しかし、飼い犬を家族同様に考える人が増える中で、遺伝子療法がペットにも広がる可能性がある。
グレタが参加した研究を主導するタフツ大学獣医学部の神経科医、ドミニク・ファイスラー准教授は、変性性脊髄症に対する遺伝子療法を研究しており、最終的には人間の治療にもつなげたいと考えている。これまでにグレタを含む5匹の飼い犬に治療を実施し、さらに予備的な小規模研究で5匹の治療を計画している。
犬の変性性脊髄症はSOD1遺伝子の変異と関連しており、人間でも同じSOD1遺伝子の異常がALS(筋萎縮性側索硬化症)と関係している。研究者たちが開発した治療法は、神経系に感染するよう遺伝子操作されたウイルスを脊髄に注入するものだ。このウイルスは、欠陥遺伝子の発現を停止させる遺伝物質を運ぶよう設計されている。ファイスラー准教授は、この治療法が犬で有効であれば、人間の臨床試験に進展させられると期待している。
ファイスラー准教授によれば、この遺伝子療法は現在のところ犬にとって安全であるように見えるが、病気の進行を抑えたり、回復させたりしているかどうかを判断するには時期尚早であるという。治療効果が現れるまでには数カ月を要する可能性があり、恩恵を得るには犬をより早い段階で治療する必要が …
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