KADOKAWA Technology Review
×
Your Roomba Is Also Gathering Data about the Layout of Your Home

掃除ロボがアマゾンのスパイに? ルンバ、見取図の外販を計画

日本でも人気の掃除ロボット「ルンバ」が収集した家庭内の見取り図を外販するとの報道が波紋を呼んでいる。掃除ロボットがスパイロボットになる日が訪れるのだろうか。 by Michael Reilly2017.07.27

かわいらしい小さなロボット掃除機なら、掃除をしている部屋の家具の配置や間取りを知っていても不思議はない。間取り図があればより効率よく家の床を掃除できるし、充電器との行き来も簡単だ。さらに、作業中に電池が切れそうになったとき、一旦充電をしてから元の場所へ戻ることもできる。

残念なことに、最も人気のあるロボット掃除機、ルンバの製造企業であるアイロボット(iRobot)は、なぜ間取り図データを第三者に売り渡すのか理由を明らかにしていない。にも関わらず、ロイター通信がアイロボットのコリン・アングルCEOにインタビューして以来、アイロボットの間取り図データ販売は大々的に報じられている。

ロイター通信のインタビュー記事から、重要な部分を引用しよう。「ユーザーが許可した詳細な家具の配置や間取り図を共有できれば、スマート・ホームはモノやサービスを1つのエコシステムとして提供できるようになるでしょう 」とアングルCEOは述べた。また、アイロボットは今後数年内にアマゾン、アルファベット(グーグル)、 あるいはアップルと取引がまとまれば、ユーザーから取得した間取り図データを販売する可能性があるとも語った。

言うまでもないが、一般消費者向けのロボット製品で大成功を収める以前、軍用爆弾探知・処理ロボットで収益を上げていたアイロボットにとって、これは大きな方向転換となるだろう。自社製品が収集するデータの販売に向けた動きは、それが魅力的な収入源に映っているからだ。

ユーザー宅の間取り図データは、アマゾンをはじめとする企業が喉から手が出るほど欲しがっている。先に挙げた3社は、それぞれにスマート・スピーカーを売り出している。アイロボットは2017年3月、新型ルンバをアマゾンの音声認識AIアシスタント、アレクサ(Alexa)に対応させると発表した。ロイター通信の記事では、家具の配置や間取りを把握することで、スマート・スピーカーの音響設定を室内環境に合わせて最適化できると提案している。

現実的に考えてみよう。 間取り図データを有効利用できる可能性が最も高いのは、アマゾンのはずだ。アマゾンは考える限りのあらゆる消費財を販売しており、顧客の購買傾向に合わせたおおすめ商品の提案がビジネスの要点となっている。アマゾンがつい最近作成された家具の配置付き間取り図を検索して、追加で購入すべき商品を提案するとしたらどうだろうか。

注意すべき点は、アングルCEOが語った「情報量に富んだ間取り図」は、2002年の販売開始から現在まで販売されているすべてのルンバで取得できるわけではないことだ。詳細な間取り図データを作れるのは、新型の最上位機種のみで、これには従来型に搭載されている赤外線とレーザーによる短距離センサーに加え、カメラが備えつけられている。「消費者はカメラがついているからといって、うろたえないかもしれない」。アイロボットのサービス利用規約にまで踏み込んだギズモードの記事では、このように報じられている。「しかし、おそらく、用心するべきだ」。

まったくその通りだ。アングルCEOがロイター通信に語ったところによると、アイロボットは顧客の承諾なしにデータを売ることはないという。ならば良い知らせだ。つまり、この計画が実際に始まるときには、ユーザーは通知を受け、データの販売を拒否する明確な機会が得られるはずだ。だがアングルCEOは、多くの人がデータ販売を承諾するだろうと自信を見せている。

アイロボットがデータの販売を許可するユーザーを補償する計画を立てない限り、この方針は現代のサーベイランス・キャピタリズム(監視資本主義)の教義に反する。ユーザーのデータを吸い上げ、あらゆる種類の情報を広告業者や他の第三者に対して開示する監視資本主義を形作っているフェイスブックやグーグルをはじめとする企業には、筋の通った言い分が少なくとも1つはある。簡単に言えば、こういった企業は無料でサービスを提供する対価として、ユーザーのデータを手にしているのだ。

しかし、アイロボットにはこの構図が当てはまらない。ユーザーは最上位機種で1000ドル近くする製品を購入している。とびきりの家電を手に入れるつもりであって、自宅のリビングにスパイロボットを迎え入れることは予想だにしていないのだ。

(関連記事:ReutersGizmodo, “グーグル、実店舗でのクレジットカードの購入履歴も追跡へ“)

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
タグ
クレジット Image courtesy of iRobot
マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る