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Intel Buys a Startup to Catch Up in Deep Learning

インテル巻き返してる
深層学習チップ企業を買収

インテルの買収によって、ナバーナは人工知能用半導体チップの設計を急ピッチで進める。 by Tom Simonite2016.08.09

今年の初め、ナバーナ・システムズのナビーン・ラオCEOは、インテルが「深層学習」ソフトの実行に特化した半導体チップという急成長市場に攻勢をかけ始めたら何が起きるか尋ねられた。

「攻勢は止まらないだろう」とラオCEOは答えた。

いま、ラオCEOは、スマホの登場以降、もっとも将来性が期待される半導体市場でインテルの反転攻勢の主役を担うことになった。インテルは9日、ナバーナの深層学習用のハードウェアとソフトウェアを買収(金額は未公表)すると発表した。

この買収は、インテルにとって出発の日であり、歴史的転換点だ。インテルは、世界最大の半導体メーカーになったのは、一人遊び用のカードゲーム「ソリティア」から台規模な給与システムまで、幅広いアプリケーションを実行する標準としてx86マイクロプロセッサーを製造する、ひたむきな戦略による。一方で、ナバーナなどのスタートアップ企業は、深層学習に必要なのはまったく新しい半導体チップの基本設計であり、人間の脳に近い動作だと信じている。コンピューターが認識に至るように数百万のデータの乱雑な断片を処理するのであり、プログラマーが作ったアルゴリズムどおりに実行する従来の手法とはだいぶ異なる。(5月開催のEmTech DigitalでのラオCEOの説明

現在、インテルは深層学習向けチップ市場ではその他扱いだが、市場調査会社のトラクティカによれば、現在10億ドル以下の市場規模は、2024年には24億ドルまで成長する見込みがある。

深層学習向けチップ市場の現在のリーダーはエヌビディアだ。エヌビディアはゲーム機やパソコン用の画像処理用チップの大手メーカーある。

研究者がニューラルネットワークを処理するチップの適性を発見してから、エヌビディアはソフトウェアを構築し、深層学習の専門家がチップを使うよう後押ししてきた。また、積極的な販売とマーケティングにより、他社を大きくリードするポジションを確立したのだ。しかしインテルの従来型CPUに比べれば画像処理用チップの方が深層学習ソフトウェアを効率的に動作できただけで、深層学習に特化して設計されたチップの方が効率はさらに高まる。

インテルは6月に深層学習の特定の処理に最適なXeon Phiコプロセッサーを発表するまで、ほとんど深層学習市場を無視していた。新しい半導体チップの製品群を作るには何年もかかる。インテルのデータセンター事業を統括するダイアン・ブライアント取締役副社長はブログの投稿で「人工知能はよくできたSFと同一視されがちだが、小説や映画にとどまらず、AIはすでに周りにあるものだ」と述べた。

ラオCEOは、ナバーナは今年、当初の予定どおり、第一世代「ナバーナ・エンジン」の開発を完了し、2017年の早い時期に顧客にクラウドサービスとして提供するという。ナバーナの主張によれば、ナバーナ・エンジンが、マイクロプロセッサー200個分、GPU10個分に相当するニューラルネットワーク的処理をこなせる理由の大部分は、同時にたくさんの情報を処理できる新しいメモリーテクノロジーのおかげだ。

ネーバナの第一世代のチップはインテル製ではないが、今後のチップはインテル製になるだろう。ラオCEOは、インテルの最新のチップ製造テクノロジーと今年新たに市場に送り込む予定の高速ディスクドライブテクノロジーによって、バナの構想は真価を発揮するという。さらに、多額のインテルには多額の宣伝予算があり、エヌビディアよりも自社製品が安価であることを宣伝し、市場シェアを拡大することもできるだろう。

インテルはラオCEOも手に入れた。リンクトインの経歴によれば、ラオCEOは長い間半導体チップの設計者であり、ブラウン大学の数理的神経科学の博士号を取得するため、2011年に大学に入りなおしている人物だ。その後クアルコムに加わり「生物学に着想を得た人工ニューラルネットワーク」を構築する研究プロジェクトを率いた。Zerothとして結実した人工知能(AI)はクアルコム製チップを用いて深層学習システムを構築するソフトウェアプラットフォームだ。

クアルコムがラオの研究を実際の製品にすることを却下した2014年、ラオはナバーナの共同創業者になった。チップを販売するのではなく、ラオCEOの戦略は、チップを使って深層学習用クラウドサービスを強化することにあり、顧客が自社のニューラルネットワークを開発する手間を省く。

「いいタイミングだった」と、ラオCEOは今年のインタビューでいった。「数年前まで、多くの人がよいとは思わなかった構想を構築していたのです」

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MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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