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知性を宿す機械 Here Is the Safety Trick That Will Help SpaceX Fly You to the Moon

毎週のロケット打ち上げを可能にするスペースXの新技術とは

スペースXが米国空軍と共同開発した自律型ロケット追跡技術は、ロケット打ち上げのコストを劇的に削減し、打ち上げ準備期間を大幅に短縮できる可能性がある。同技術を使ったロケット3機の打ち上げが2017年11月に予定されている。 by Mike Orcutt2017.08.28

観光客を乗せた月への宇宙旅行を来年実現する、という約束を果たすため、スペースX(SpaceX)はロケットが軌道を逸れて人命を危険にさらすのを防ぐ安全性確保の仕組みを一から考え直さねばならなかった。

そこで米国空軍と共同で開発したのが、次世代の打ち上げ機を運用可能にする自律型ロケット追跡技術である。自律型ロケット追跡技術は同時に、ロケットの打ち上げ費用を大幅に削減し、より短い準備期間での打ち上げを可能にするので、スペースXだけでなく米国の宇宙産業全体に恩恵をもたらすかもしれない。

スペースXの掲げる大胆な短期計画の行方は、打ち上げ機「ファルコン・ヘビー( Falcon Heavy )」の成否にかかっている。2017年11月にフロリダ州ケープ・カナベラルで予定されている初の打ち上げでは、3機のファルコン・ヘビーの打ち上げと各機体の回収が試みられる。ジェフ・ベゾスが手掛けるブルーオリジン(Blue Origin)もスペースXと同様に宇宙旅行へ大きな野心を抱く企業で、この2社がそれぞれに先駆けとなり、打ち上げロケットを回収、再利用するというコンセプトを開拓した。ロケットの再利用は、宇宙飛行の費用をこれまでの100分の1に抑える可能性を秘めている( “10 Breakthrough Technologies 2016: Reusable Rockets”を参照)。

しかし、従来のシステムを使っていたのではロケット3機の回収は不可能だ。従来のシステムでは、安全担当のスタッフが打ち上げ後のロケットを追跡し、もし機体が軌道から逸れて地上の人命を危険にさらすことになったら機体を爆破することになっている。フロリダ沿岸で実施されるロケット打ち上げテストで安全管理を担当する空軍第45宇宙航空団は飛行物体を追跡、破壊する設備を有しているが、同時に対処できる飛行物体の数は2機までだ。一方、空軍が自律型飛行安全システム(AFSS:autonomous flight safety system )と呼ぶ新しい技術を使えば、同時に安全管理のできる機体数に制限がない。

AFSSがもたらす利益はそれだけにとどまらない。従来のロケット打ち上げでは、地上に大がかりな通信インフラが必要になる。スタッフはデータを地上から監視し、必要となった場合には自爆指令をロケットに送らなければならない。だがAFSSでは、 人間に代わって、ロケットに搭載したGPSが、プログラムされた安全な飛行経路から機体が逸れていないかどうかを判断し、自爆の必要が生じた場合はシステム自らが爆破処理を実行する。従来のシステムは245名の地上要員を必要としたのに対し、新システムはたった82名で運用でき、インフラの大部分が不要となる。そのため、打ち上げコストを大幅に削減でき、空軍が打ち上げの準備にかける期間もかなり短縮できる。

AFSSはロケットの打ち上げ能力を増強し、米国における商用ロケット打ち上げ需要の高まりに対応するのに役立つだろうと述べるのは、フロリダ州パトリック空軍基地が運営するロケット及びミサイル打ち上げ施設「イースタン・レンジ」の所長を務める第45宇宙航空団司令官ウェイン・モンティス准将だ。差し迫る宇宙観光業の台頭に加え、多数の企業が小型人工衛星の大規模な「集団」を打ち上げて、画像撮影や通信事業などに利用しようとしている( 「小型人工衛星(CubeSats)が切り開く新市場」を参照)。

ロケットが視程範囲を超えると制御が不可能になる従来のシステムに比べ、AFSSではより広範囲にわたってロケットを追跡することが可能となる。AFSSを使うとまた、軌道を逸れた機体を、人間が指示する場合より数秒早く爆破できる。この仕組みは乗客がいる場合も概ね同様に作動するが、自爆前に脱出時間が設けられることになるだろう。

モンティス准将によると、AFSSはスペースXのロケットで8回の飛行試験をすでに成功させているという。スペースXが開発しているのは自社専用の製品であるが、核心をなす技術は他社にも公開されており、それぞれの企業が自社のロケットに適用できるようになっているとしている。これらの件に関して、スペースXからコメントは得られなかった。

AFSSは米軍と米国航空宇宙局(NASA)による長年の取り組みの集大成だが、スペースXとの関係がなければ現在のような形で商業化に結びつくことはなかっただろうとモンティス准将は語る。スペースXはただ、数カ月も前から打ち上げの計画を組むことを望んでいないのだ。「スペースXは、来週打ち上げの準備が整うのなら、来週の打ち上げを可能にしたいのです」とモンティス准将は語る。

1週間での打ち上げはまだ不可能だが、30日間なら実行可能だとモンティス准将は述べる。目標は、2020年までに、第45宇宙航空団の昨年の打ち上げ回数の2倍以上に当たる年間48回の打ち上げを可能とすることだという。スペースXやブルーオリジンの計画通りにことが運べば、イースタン・レンジでのロケット打ち上げの需要は、2020年までにほぼ週1回にまで増加するだろう、とモンティス准将は語る。

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クレジット Image courtesy of SpaceX
マイク オルカット [Mike Orcutt]米国版 共同編集者
マイク・オルカットはMIT Technology Reviewの共同編集者です。ワシントンDCに駐在して、米国政府がどのように新興技術を取り入れているか(または取り入れていないか)がわかるような動向を追いかけています。また ワシントンでは、新しいテクノロジー的機会や産業に関わったり妨げになったりする出来事や論争を取材しています。連絡は、mike.orcutt@technologyreview.comまでお願いします。
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