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「ビットコインの終わり」が告げるブロックチェーン新時代の幕開け
コネクティビティ The Beginning of The New Era of Blockchain

「ビットコインの終わり」が告げるブロックチェーン新時代の幕開け

連日のようにメディアをにぎわせている仮想通貨ビットコインは、「通貨」としてはほとんど使われていない。企業の関心は、ビットコインが残した基盤技術のブロックチェーンをどう使うか? に移ってきている。by 元田 光一2017.12.26

暗号通貨ビットコインをめぐる動きが異様だ。日本を中心に個人投資家が次々と手を出したことで価格が急騰し、時価総額はわずか1年で23倍以上となる約2940億ドルにまで膨らんだ(12月13日時点)。ビットコインの世界の取引の4割は日本円建てとされ、値上がりを期待する個人がいまも殺到している。

さらに12月10日には米国で先物取引が始まったことで、手元にビットコインがなくても売買ができるようになり、ビットコインの投機的な性質はさらに高まっている。連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長はビットコインについて「極めて投機的な資産」であり、「法定通貨としての性質を持たない」と発言。米大手銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)は、「ビットコインは詐欺」とまで言い切った。実際、個人取引の9割以上は決済手段ではなく投機目的だとされ、日本銀行フィンテックセンターの初代センター長を務めた京都大学・公共政策大学院の岩下直行教授は、2017年7月に開催されたブロックチェーン関連のイベントで「今のビットコインは、値動きが激しくて(通貨としては)実はとても使いにくい」と述べている

一方、テック業界を中心に幅広い業界で急速に関心が高まっているのが、ビットコインで使われている「ブロックチェーン」のテクノロジーである。ビットコインには否定的なJPモルガンも、ブロックチェーンの技術的な可能性には注目しており、将来の金融取引での利用を見据えてブロックチェーン技術に積極的に投資している。

ビットコインの本質的な意義は、新たな金融商品などではなく、ブロックチェーンという分散台帳技術を使って、通貨のような改ざんが絶対に許されないデータをやり取りできるようにしたことである。この本質を見誤ってはならない。

ビットコインはどこから始まったのか?

ブロックチェーンの話に入る前に、そもそもビットコインとは何だったのか? 簡単に振り返っておこう。ビットコインは、サトシ・ナカモトと呼ばれるプログラマー(偽名が通説とされている)が2008年に発表した暗号通貨である。2009年前半にはビットコイン取引に使うソフトウェアが発表されたものの、すぐには注目されなかった。ビットコインが実際に使用できる場所がほとんどなく、具体的な使い道がなかったからだ。MITテクノロジーレビューは2011年5月の記事で、ジョージ・メイソン大学のラッセル・ロバーツ教授(経済学)の「ニッチな市場を持つかもしれない」とのコメントを紹介し、「他の通貨の脅威にはなりそうにない」と報じている。

だが、2013年にヨーロッパの小国キプロス共和国で起きた金融危機で、向きが変わった。多くのキプロス人がビットコインを資産の逃げ場として選んだことから需要が高まり、ビットコインは世界中の投資家から注目を集めることになる。さらに、自国通貨である人民元の不安定な状況から、中国の富裕層らがビットコインを「爆買い」し、ビットコインの価値がさらに高まっていった。日本でも2017年4月に資金決済法が改正され、準通貨として利用できるようになったことから、ビットコインの取引が活発になっていく。

 

暗号通貨を支えるブロックチェーンとは何か?

その後の投資商品としてのビットコインの加速度的な成長は周知のとおりだが、そもそもビットコインに大量の資金がなだれ込んだのは、ビットコインが「安全」であるという大前提があるからだ。それまで世に存在しなかった新しい通貨の仕組みを支えるには、絶対に破られないと言える強固なセキュリティが必要になる。その暗号通貨を支えている技術が、ブロックチェーンである。ブロックチェーンは、もともとビットコインを完全な通貨として流通させるために生み出されたものだ。

そもそものブロックチェーンとは、ビットコインのすべての取引履歴が記録されたシステム(台帳)のことである。ただし、従来のような中央集権的なデータベースではなく、ネットワークでつながれた複数のコンピューター(ノードと呼ぶ)が取引の検証や更新を行なう。ブロックチェーンは、過去におけるすべての取引を個々のブロックに分け、それを1本の鎖(チェーン)のように繋げた形で記録している。新しい取引が行なわれると、その取引を記録した新たなブロックが作られ、各ノードが持つチェーンの最後に加えられていく。

ブロックチェーンによる記録の典型的なプロセスは、次のようなものだ。ユーザーとビットコインの売買の取引を行ったノードは、まずネットワーク全体にその情報を送信する。次に、別のノードが複数の取引記録をまとめたブロックを作成し、あらためてネットワーク全体に送信する。このとき、ブロックには1つ前のブロックの内容を示すハッシュ値が含まれる。このブロックに対して、各ノードがあらかじめ定められたアルゴリズムに従って正当性を検証する。検証した結果に問題がなければ、各ノードはそれぞれが保有するブロックのチェーンに、新しいブロックを追加していく。

いったんノード間で交わされた取引の記録は、複数のノードのチェーンに記録されるので、過去の取引記録の一部を改ざんしようとすると、すべてのノードにおいてそれ以降の取引記録を改ざんしなければならない。そのため、実質的に改ざんは不可能であり、ブロックチェーンが安全とされるゆえんとなっている。

また、ブロックチェーンのシステムは、無数のコンピューターがピア・ツー・ピア(P2P)で繋がっているため、ネットワークに接続されたノードの一部が故障しても、他のノードが有効である限り機能し続ける。さらに、ノード間のネットワークが障害などによって分断されてもシステムがダウンしないことが、高い可用性を担保している。

こうした特性によって、分散型台帳であるブロックチェーンは、単一の中央管理システムに比べて、システムコストや取引の事務コスト、障害時のメンテナンスコストなどを大きく抑えることができる。また、ビットコインのブロックチェーンの取引台帳は世界中に公開されているため、すべての取引が追跡できる透明性も備えている。

広がるブロックチェーンの可能性

高い可用性や安全性、低廉なコストなどを理由に、いまやブロックチェーンはさまざまな方面から注目を浴びている。

例えば、ヨーロッパでは身分証明書などを持たない難民の生活を支援するために、ブロックチェーンが利用されている。フィンランド移民局では2015年から難民にプリペイド式のマスターカードを配布している。このカードは通常の銀行口座としても機能するが、ブロックチェーンによって取引が管理されているため、銀行などを通さずに個人間で送金ができる。マスターカードが使える店舗や銀行のATMでも使用でき、光熱費や家賃を支払ったりするほか、雇用主から給与の振込を受けることもできる。移民局はブロックチェーンの公開台帳によって、カードの所有者と支出の動向を把握している。

 

食の分野では米国の食品大手カーギルが、ブロックチェーンを利用してトレーサビリティ・システムを開発し、2017年の感謝祭のシーズンには七面鳥を使ったテストを実施した。カーギルに七面鳥を納める家族経営の農家にシステムを利用させ、七面鳥がどこから来たものなのか、ブロックチェーンで正確に記録できるようにしたのだ。バイヤーは、七面鳥に付けられたタグに書かれたコードをメールで送るか、オンラインで入力することで、七面鳥が出荷された農場を調べられる。カーギルは一般の消費者に対しても情報の一部を公開しており、どこまで詳細な情報を開示するかは検討中だ。

ブロックチェーンは医療分野でも活用が期待されている。ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターとMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボは、ビットコインとは別の暗号通貨「イーサリアム」に使われているブロックチェーン技術を利用して、「メドレク(MedRec)」と呼ぶ保健医療ブロックチェーンのプロトタイプを開発した。メドレクでは、医師による診察が終わった患者の医療情報をブロックチェーンの台帳に記録する。記録されるのは、各種検査の結果やレントゲン画像、処方箋などの情報で、ブロックチェーンのシステムによって検証され、問題がなければ個々の患者が持つブロックにつながれていく。患者の診療記録は途中で記録漏れすることなく、また他人が改ざんできない状態で蓄積されていくわけだ。

ニーズに応じたブロックチェーンの進化

ここまでの事例を見て、「なぜブロックチェーンでなくてはならないのか?」との疑問を持つ人もいるかもしれない。食のトレーサビリティーにしても医療情報の記録にしても、従来の中央集権的なデータベースで構築したシステムであっても、問題はないように思えるからだ。

「日本国内だけに目を向ければ、その価値を実感するのは難しいかもしれません」と話すのは、暗号技術の専門家であるNEC セキュリティ研究所の佐古和恵技術主幹だ。佐古技術主幹は、グローバルに目を向けることで、ブロックチェーンへの見方は変わってくるという。その一例が、製造業である。

製造業は日本企業であっても、世界中から資材や部品を調達する必要がある。自動車を例に取れば、組み立てに必要な部品の数は2万点にも上り、最終的に消費者に対して製造責任を負うメーカーは、それぞれの資材や部品についてどこでどのように製造され、どのようなルートを経て入ってきたのか、追跡する必要がある。そこにブロックチェーンのテクノロジーを使って、サプライチェーン全体の流れを正確かつ効率的に記録しようというわけだ。

 

だが、こうした企業でのブロックチェーンの利用を考えたときに、「企業のニーズと必ずしもマッチしないことがある」(佐古技術主幹)という。具体的には、セキュリティの向上と処理スピードの両立、秘匿性の確保である。たとえばNECでは、これらの課題を解決するために、既存のブロックチェーンの仕組みを改良し、独自のブロックチェーンを開発している。

まず、セキュリティについては、不正なデータの破棄に必要なノード数を従来の3分の2以上から2分の1以上に改良することでビザンチン障害耐性を強化し、より少ないノード数でセキュリティを担保できるようにした。また、秘匿性については「企業では取引の中身だけでなく、取引の存在自体が知られるだけでも都合が悪いこともある」(佐古技術主幹)ため、取引当事者のみでブロックチェーンを生成する「サテライトチェーン」という仕組みを考案した。

もともとはビットコインという通貨のために生まれたブロックチェーンは、ビットコインの存在感が高まるにつれ、注目度を高めていった。そしてビットコインの性質が通貨から投資商品へと変質していったように、ブロックチェーンもまた、開発当初の想像を超えた領域で使われようとしている。セキュリティや秘匿性といったニーズに応じたブロックチェーンが開発されたことで、ますます多様な分野においてブロックチェーンのテクノロジーは利用されるようになるだろう。

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元田 光一日本版 ライター
日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、理工系(電子工学科)出身のテクニカル/サイエンスライターとして文筆業に従事。ICTからエレクトロニクス、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。著書に『できるAndroidスマートフォン』(インプレス刊)、『iPhoneでいい写真を撮る魔法のテクニック』(共著・エクスナレッジ刊)、『50代からのiPad』(共著・エクスナレッジ刊)などがある。
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