KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
High-End, Cord-Free VR Headsets Are Nearing Reality

VRゴーグルは
コードレスがいい

パソコンと接続されていないと、VRの体験はずっとよくなる。 by Tom Simonite2016.09.19

タコは、私の右側、地面から約1.5mのところに浮かんでいた。体の向きを変えて、タコの方に歩いて近付く。しかし、大きな黒い実質現実(VR)ゴーグルを顔面に取り付けているのに、ゴーグルとPCを繋ぐためにあるはずの、背中を伝うケーブルはない。周りの誰もが、私を馬鹿っぽいと思っただろう。

試用したゴーグルは、現在販売されている製品と異なり、コードレスという点で際立っている。モバイル製品向けの半導体基板メーカーであるクアルコムがデモで見せたのは、宙に浮かぶタコだけでインタラクティブではなかった。しかしVR820の設計は、この種のコードレス型ゴーグルによって、実質現実が幅広く使用されることを予期させる。

サムスンのGear VRやグーグルのカードボード、近日発売予定のDaydreamなど、ディスプレイや処理能力をスマートフォンで代替するゴーグルでも、ケーブルレスで実質現実を体験できる。しかし、ゴーグルにスマートフォンを差し込む機種では、たとえばタコを調べるようとして動くとき、空間内の頭の位置を追跡できない。見回そうとして首を振れば映像も追随するが、立ち上がったり、前かがみになったりしても、視座は変化しない。

Qualcomm’s design for a virtual-reality headset eschews the cables seen in the leading devices on the market today.
ケーブルレス設計のクアルコムの実質現実用ゴーグル(現在市販されている主要デバイスは有線式)

フェイスブックに買収されたOculus RiftとHTCのViveは、頭の位置を追跡して、より現実的に空間内を探索できる。しかし、この2機種は処理能力の高いPCと接続し、使用する場所で位置情報を取得するセンサーを設定する必要がある。一方で、クアルコムのゴーグルは内蔵のモーションセンサーとカメラで外界を捉えることでユーザーの位置を追跡できる。自己完結型のデバイスは、ゲーム用PCまでは高性能ではなく、複雑な映像は表示できない。また、クアルコムのデバイスが、RiftやViveの位置追跡精度に、どこまで迫っているかは明らかにされていない。クアルコムは、豊富な3Dゲームと体験に対応している、という。

ただし、クアルコムは設計をハードウェア・メーカーに提供する企業であり、ゴーグルを自社では販売しない。提供先企業が自社バージョンを製作することで、半導体基板の販売を増やそうとしているのだ。クアルコムの予想では、数カ月以内に最初の製品が販売される。

インテルは、今夏の初め、自社製一体型ゴーグルを発表し、クアルコム同様の戦略を展開しているが、製品を試用できる段階には達していない(「インテルMS連合VRゴーグルを提供」参照)。また中国では、さまざまな一体型ゴーグルがすでに市販されている。

クアルコムのヒューゴ・スワート上級役員(製品管理担当)は、クアルコムの計画に合わせて製造されるゴーグルは、タブレットの上位機種と同程度の価格になるべきだ、という。したがって、販売価格は500ドル以下となり、1400ドル以上かかるOculus RiftとPCの組み合わせ(日本国内では20万円以上かかる場合がある)に比べれば、ずっと低価格だ。

 

人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
トム サイモナイト [Tom Simonite]米国版 サンフランシスコ支局長
MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る