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新型コロナ重症化と遺伝子との関連は? 23アンドミーなどが研究中
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The secret to why some people get so sick from covid could lie in their genes

新型コロナ重症化と遺伝子との関連は? 23アンドミーなどが研究中

新型コロナウイルスに感染してもまったく無症状の人がいる一方で、重症化して亡くなる人もいる。個人によってこうした差異が生じる理由はまだ解明されていないが、遺伝子との関連を調べる研究が進められている。 by Antonio Regalado2020.05.15

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染して亡くなる人もいれば、まったく無症状の人もいる。だが、その理由はまだ分かっていない。

その理由の解明につながる遺伝子要因を明らかにしようと、消費者向けゲノミクス企業の23アンドミー(23andMe、本社=カリフォルニア州サニーベール)は現在、新型コロナウイルスに感染して入院した1万人の患者に無料の遺伝子検査を提供している。

高齢者や糖尿病などの基礎疾患がある人のリスクが非常に高いことは知られている。だが、感染するまで健康だった若い人も亡くなっているのには、隠された遺伝的な理由があるのかもしれない。

23アンドミーは、800万人以上の顧客の大規模な遺伝子データベースを運用しており、顧客の多くは自分のデータを研究に利用することに同意している。同社は以前、不眠症同性愛、その他の形質の遺伝的ルーツの探求に顧客のデータを利用したことがある。

23アンドミーは4月、新型コロナウイルス感染症に関するアンケートを広範囲の会員に送った。同社の広報担当者によると、これまでに約40万人がアンケートに回答しており、そのうち6000人は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が確認されているという。

23アンドミーの遺伝子探索は、新型コロナウイルス感染症の症例の遺伝子プロファイルを取得し、詳細な診療記録と関連付ける大学研究者による取り組みを補完するものになる。国際コンソーシアム「コビッド19宿主遺伝子イニシアチブ(Covid-19 Host Genetic Initiative)」のコーディネーターであるアンドレア・ガンナはこう説明する。同イニシアチブは、イタリア、英国、米国の新型コロナウイルス感染症の症例の遺伝子データを共有しており、定期的に結果を公表している。

科学者たちは、新型コロナウイルス感染者の重症化の度合いに強い影響を与える、場合によってはそれを決定する遺伝子を見つけたいと考えている。他の病気では、遺伝子的な影響がよく知られている例がある。たとえば、鎌状赤血球症の遺伝子はマラリアへの耐性を与えるし、他の遺伝子の変異体はHIVや腸内病原体であるノロウイルスから人々を守ることが知られている。

だが、ガンナによると、新型コロナウイルス感染症の感染者900人の遺伝子をざっと調べたところでは、有意な遺伝子は見つからなかったという。ガンナが関係するコンソーシアムは現在その2倍の症例の解析を準備中であり、それによって関連性を発見する確率が向上する可能性がある。

「6月ごろまでに本当に大きな兆候が検出されなければ、どの患者を治療するかの決定などの疾病管理において遺伝子が大きな価値を持つことはないと思います。それでもなお、非常に重要なのは、遺伝子を通じてこのウイルスを理解することであり、そして最終的にはワクチンを発見することです」。

23アンドミーは最初のアンケートでは、新型コロナウイルス感染症の感染者と診断されたかどうかを顧客に尋ねた。だが、現在は、入院して回復した患者を見つけようとしている。回復患者の遺伝子の方が重要な情報を持っている可能性が高いからだ。

研究者はすでに、血液型がヒト細胞表面のタンパク質「ACE-2」のバージョンに影響を与える可能性があると推測している。ACE-2は、新型コロナウイルスがヒトの細胞と融合してRNAを細胞に侵入させる際に使用するタンパク質だ。だが、予備的な研究結果は、まだ大規模な遺伝子探索によって裏付けられていない。

遺伝子探索は、「精密疫学」と呼ばれることもある、より的を絞ったパンデミックの管理を実現するための科学的な取り組みの一環である。23アンド・ミーのほかにも、DNA鑑定会社のアンセストリー(Ancestry)が新型コロナウイルス感染症の独自プロジェクトで25万人から回答を得たと発表している。

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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