KADOKAWA Technology Review
×
MITテクノロジーレビューが米大統領選を報じる理由
TR
The Outcome: A newsletter about making the election safe again

MITテクノロジーレビューが米大統領選を報じる理由

MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長から、11月に迫った米大統領選に関するニュースレター創刊のご案内。 by Gideon Lichfield2020.10.20

選挙はテクノロジーだ。サイバーセキュリティや有権者データ、デマ、オンライン広告はすべて今日の選挙戦において重要だが、選挙がテクノロジーに頼っているという意味ではない。選挙そのものがテクノロジー、つまり、健全な社会を運営するうえで不可欠な仕組みだということだ。選挙によって、内戦をせずとも異なる党派間で権力の交代ができる。選挙は、不始末や腐敗、圧政を制限する。また、国家運営の最善の方法について、途切れることのない新しいアイデアの流れをもたらしてくれる。

投票箱や有権者名簿を除いて、このテクノロジーの重要な要素は信頼だ。有権者が選挙を信頼していなければ、正当だと広く受け入れられる政府を生み出すという、選挙の唯一の役割がなくなってしまう。そして現在、ほとんどの米国人は来るべき大統領選挙を信頼していない。

9月に実施されたヤフーニュースと調査会社ユーガブ(YouGov)の世論調査では、今回の大統領選挙が「自由で公平」だと考えている米国人は22%しかいなかった。32%は確信が持てず、46%が違うと答えた。ドナルド・トランプ大統領の支持者のまるまる半分とジョー・バイデン候補の支持者の37%が、「自由で公平ではない」と答えたグループに入った。

この責任がトランプ大統領にあることは明白だ。トランプ大統領は、郵便投票が増えると投票詐欺が起こるという持論や、その他の不正投票についての完全に間違った主張を繰り返してきた。そうした行動が、投票に対する強い不信感をトランプ大統領支持者に広げたことは明白だ。トランプ大統領が郵便投票を攻撃し、選挙結果を受け入れるかどうかについて繰り返し発言を拒んでいることに対して、バイデン候補の支持者は警戒心を抱いている。ペーパーレスでハッキングに弱い投票機をいまだに使っている州もあり、ロシアによる介入の疑惑が亡霊のように尾を引いていることも不安材料だ。

民主党支持者は、共和党支持者の倍の割合で郵便投票をすると見込まれている。そのため、大統領選挙当日の開票速報では、最初はトランプ大統領が有利となり、その後、郵便投票の票がカウントされるにつれバイデン候補に向かって大きな「(民主党のカラーである)ブルー・シフト」が起きるだろう、と専門家は予測している。大統領とその支持者たちは結果に疑義を投げかけ、バイデン候補に入った票を裁判所によって無効にしようとするだろう。

この動きによって、広範囲にわたる法的な論争の舞台が整う。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてさまざまな州が課した投票の規則と制限をめぐって、すでに300件以上の訴訟が係争中だ(その多くは民主党支持者が起こしたもの)。多くのシナリオ描いてきたのは、法廷闘争によって選挙結果の確定が数週間遅れる可能性と、最終的にトランプ大統領とバイデン候補の両者が、自分が大統領執務室に法的にもっともふさわしいと主張し、最高裁判所が判決を下さなければならなくなる、ということだ。

これは何も、トランプ大統領が公平に勝利できないという意味ではない。バイデン候補が世論調査で優勢だとしても、それでも大統領の座を勝ち取れないシナリオはたくさんある。シナリオの大部分は、トランプ大統領の正々堂々とした勝利は、完全に可能だとしている。もっともそうなれば、2016年のように一般投票と選挙人団の結果との間に大きな断絶が伴うのはほとんど確実だろう。しかし、話を戻せば、危機に瀕しているトランプ大統領が激しく傷つけているのは、有権者の目から見た結果の正当性だ。どちらの候補が勝つにしても、選挙に対する正当性の疑義は、米国と世界全体の不幸だ。

こうしたすべての状況が、MITテクノロジーレビュー[米国版]が大統領選挙の安全性と完全性に焦点を絞った期間限定のニュースレター「アウトカム(Outcome)」を創刊する理由だ。偽情報や投票機、サイバーセキュリティなどの話題を扱うが、なかでも、すべてのテクノロジーに問われるのと同様の疑問を、今回の選挙に問う。つまり、選挙は意図したように機能しているか? 権力と選挙資金はどのように関わっているか? 権力や選挙資金はどのように使われ、悪用されているか? 選挙の長所と短所は何か? 最終的に、今回の選挙は安全か?といったことだ。

アウトカムは、週に何日かメールで届き、大統領選挙が終わっても、少なくとも結果が出るまで発行を続ける予定だ。筆頭執筆者は、MITテクノロジーレビューでサイバーセキュリティの編集主任を務めるパトリック・ハウエル・オニール。加えて、編集部の多くのスタッフが参加する。

選挙区で起きた郵便投票の回収箱をめぐる争いや、安全な投票を手助けするボランティアの心温まるストーリー、あるいはフェイスブックで遭遇した驚くような政治広告などについて、情報を提供いただければ幸いだ。ツイッターフェイスブックなどのいつものチャンネルで我々に接触するか、このリンク先でアウトカムの配信を登録して、どのように大統領選挙を再び安全なものにするかという議論に参加してほしい。

◆◆◆

【日本版編集部より】米国版ニュースレターはすべて英語での配信となります。配信希望の方は米国版サイトからご登録ください。日本版の会員システムとは連動しておりません。なお、日本版サイトでも内容の一部を日本語に翻訳、掲載する予定です。

人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長。科学とテクノロジーは私の初恋の相手であり、ジャーナリストとしての最初の担当分野でもありましたが、ここ20年近くは他の分野に携わってきました。まずエコノミスト誌でラテンアメリカ、旧ソ連、イスラエル・パレスチナ関係を担当し、その後ニューヨークでデジタルメディアを扱い、21世紀のビジネスニュースを取り上げるWebメディア「クオーツ(Quartz)」の立ち上げにも携わりました。世界の機能不全を目の当たりにしてきて、より良い世の中を作るためにどのようにテクノロジーを利用できるか、また時にそれがなぜ悪い結果を招いてしまうのかについても常に興味を持っています。私の使命は、MITテクノロジーレビューが、エマージングテクノロジーやその影響、またそうした影響を生み出す人間の選択を模索するための、主導的な声になることです。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  3. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る