12万年前は無氷だった?海底22メートルの泥で掘り起こす北極点の謎
極点への航路に、かつての「きしみ音」はなかった。広大な開水面が広がるその海の底に、12万年前の気候の記憶が刻まれた泥が眠っている。研究者たちはそこに、消えゆく氷の未来を読み解く手がかりを求めた。 by Tim Kalvelage2026.04.22
- この記事の3つのポイント
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- 2025年夏の北極点航行で海氷の激減が実証され、衛星観測開始以来40%超の夏季海氷が消失した
- ノルウェー・ドイツの研究チームが最長22mの海底堆積物コアを採取し、過去の無氷状態の時期と条件の解明を進めている
- 分析結果は「ブルー北極」到来の気候予測精度向上に活用され、生態系・海洋循環・異常気象への影響評価に貢献する見通し
かつては、砕氷船を用いても、融解のピーク時期でさえ北極点への到達は確実ではなかった。凍った海面を割るには好条件の風が必要で、船は数度の冬を経て何メートルもの厚さに成長した氷と格闘しなければならなかった。しかし2025年の夏、ノルウェー北極大学トロムソ校のヨッヘン・クニースらのチームは、調査船クロンプリンス・ホーコン(Kronprins Haakon)で北緯90度を目指す航路においてほとんど抵抗に遭わなかった。この地質学者は、初めて船で北極点に到達した1996年に記憶していた「氷が船体に擦れる例のきしみ音」を耳にしなかった。代わりに、薄い氷盤と広大な開水面が、穏やかで静かな航行をもたらした。彼にとってそれは、「北極がいかに急速に変化しているかを改めて思い知らせるもの」だった。
人工衛星による極海の観測が始まった1970年代後半以降、北極海の夏季海氷面積は40%以上減少している。半世紀にも満たない期間で、地中海に匹敵する広さの氷結域が、高緯度北極域の急速な温暖化によって青い開水面へと変わったのだ。この傾向が続けば、北極点で海氷がまったく存在しない夏が近く訪れる可能性がある。そのような状況が最後に起きたのは、およそ12万年前だった可能性があるが、確かなことは分かっていない。
そこでクニースらノルウェーとドイツの研究者チームは昨年8月、スバールバル諸島から北極中央部へと出発した。5週間にわたるこの調査の目的は、この地域が近年の地球史において無氷状態にあったかどうか、そしてあったとすればいつなのかを明らかにすることだった。欧州連合(EU)が資金提供する1250万ユーロのプロジェクトの一環として、彼らは北極とその先の未来に関するいくつかの問いにも答えようとしていた。海氷の消失は海洋生態系にどのような影響を与えるのか。海洋循環と地球規模の気候にはどのような影響が及ぶのか。
手がかりを求めて、この探検隊は北極海底の各地点で最長22メートルに及ぶ堆積物コアを採取した。海洋堆積物は貴重な気候アーカイブであり、科学者に過去の時代への窓を開いてくれる。いわば勤勉な記録係のように、過去の水温、海氷面積、海流の強さを記録できる。これらのデータは、海底に堆積したプランクトンの残骸や風化した岩石の化学的・物理的特性の中に記録されている。

TIM KALVELAGE

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北極中央部での過去の探検では数メートル長の堆積物コアが回収されているが、その堆積物が実際にどれほど古いのか、また夏季に海氷が完全に消失したことがあるのかについて、科学的なコンセンサスは得られていない。
北極の気候アーカイブを解読するため、クニースはさらに深く掘り下げ、最新の分析技術にかけられる新鮮なサンプルを得るべく、さまざまな分野の専門家チームをクロンプリンス・ホーコンに乗船させた。

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この作業の一部は、研究者たちがまだ海上にいる間に実施された。現在、彼らは自国の研究室で海底サンプルの分析を最終段階に進めている。重要な作業の1つは、最大200万年前にさかのぼる可能性がある堆積物の年代測定だ。チームはこのために、磁化の測定、放射性元素の崩壊、深海に沈む前に鉱物粒子が日光にさらされた時間の測定など、複数の手法を組み合わせて使用している。年代軸上に位置づけられれば、コアに含まれる物質は、現在よりも温暖だった時代の北極海の姿を描き出す助けとなる。例えば、氷藻類のみが産生する分子IP25の存在または不在は、特定の時期に海氷がどこまで後退したかを示す手がかりになりうる。

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研究の最終段階で、チームは将来の無氷状態の「ブルー北極」に関する気候予測を改善するデータを得ることを目指している。それにより、海洋生態系や炭素貯留、大西洋の海洋循環、さらには欧州や北米における異常気象への影響理解が進むことが期待される。
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- ティム・カルフェラーゲ [Tim Kalvelage]米国版 寄稿者
- ドイツ・ブレーメンを拠点とするフリーランスの科学ジャーナリスト。気候、海洋、極域研究を専門とする。これまでに北極点を2度訪れている。