テスラの電動大型トラック、10年越しの量産開始 転換点になるか
テスラが2017年に発表した電動セミトラック「Tesla Semi」がついに量産を開始した。370台・1億ドル超の大口受注も確定し、プロジェクトに商業的な勢いが生まれている。価格はディーゼル車を大幅に上回るが、同等の電動トラックと比べれば格安だ。トラック業界の電動化に向けた転換点となるか。 by Casey Crownhart2026.05.19
- この記事の3つのポイント
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- Tesla Semiが量産ラインを始動し、370台・1億ドル超の大口受注も確定し商業化が本格化した
- 発表から約10年を経て実現した同車は、競合EV中央値の約6割という価格競争力と高い航続距離を両立している
- 価格は当初予想を大幅に上回るものの補助金や低運用コストで優位性を保ち、重量車両の脱炭素化の試金石となる
Tesla Semi(テスラ・セミ)がついに正式に登場した。テスラ(Tesla)は先ごろ、新設した本格的な量産ラインから最初の車両が送り出される写真を公開した。
この瞬間が訪れるまでに、ほぼ10年の歳月を要した。テスラがTesla Semiを初めて発表したのは2017年末のことだ。そして今、最終的なバッテリー仕様、正式価格、そして大口受注に関する重大ニュースが明らかになった。
Tesla Semiは、比較的手頃な価格でありながら、非常に印象的な性能を備えた電動セミトラックだ。また、テスラが世界の電気自動車(EV)市場での優位性を失いつつある時期に登場した点も注目される。この記事では、Tesla Semiの最新情報と、これが電動トラック業界にとってなぜ飛躍のきっかけになり得るのか、見ていこう。
バスやセミトラックといった中・大型車両は、道路を走る車両全体に占める割合は小さいものの、二酸化炭素や窒素酸化物(NOx)、微小粒子状物質といった汚染物質の排出において不釣り合いに大きな影響を及ぼしている。世界全体で見ると、トラックとバスは道路車両全体の約8%を占めるに過ぎないが、道路輸送由来の二酸化炭素排出量の35%を占めている。
テスラのラインナップに新たに加わったクラス8(訳注:米国で最重量級に分類される大型トラック区分)のTesla Semiは、この高汚染セクターを浄化するための解決策の一端を担う可能性がある(なお、私は2016年にテスラで短期インターンをしたことがあるが、現在は同社との関係も金銭的利害関係も一切ない)。
2017年11月、イーロン・マスクはロサンゼルスで開催された豪華なイベントのステージに立ち、Tesla Semiを発表した。マスクは、時速60マイル(約97キロメートル)まで5秒で加速し、航続距離500マイル(約800キロメートル)を達成し、さらに熱核爆発にも耐えられるガラスを装備したトラックだと豪語した(ツイッター(現X)買収やDOGE(政府効率省)登場以前、マスクがこうしたことで知られていた時代を覚えているだろうか。もっと単純な時代だった)。
発表直後には、ウォルマート(Walmart)を含む大手企業がTesla Semiを先行発注した。当初の納車開始は2019年に予定されていた。
だが、その期限が守られなかったことはご存じのとおりだ。納期は何度も延期され、テスラは少数の試験運用車両の納車を2022年から開始した。そして今年に入り、事態は本格的に動き出した。同社は2月に最終的な量産仕様を公開し、4月下旬には大量生産ラインから最初のTesla Semiを出荷した。
さらに先週、ワットEV(WattEV)がTesla Semiを370台発注したと発表した。ワットEVは電動貨物輸送サービスを提供する企業で、自社でトラックを購入したり充電インフラを整備したりする必要がないよう、企業にトラックをサービスとして提供している。同社は新型トラックに1億ドル以上を支払う予定で、最初の50台は今年中に納車され、全車両は2027年末までに揃う見込みだ。これらのトラックは、オークランド、フレズノ、ストックトン、サクラメントに設置されるメガワット充電システムによって支えられる。
工場が稼働し、大口受注も確定したことで、Tesla Semiはいよいよ本格始動したと言える。2017年にマスクが掲げた主張の一部は、現実のものとなりつつある。ベースモデルの航続距離は約320マイル(約515キロメートル)、ロングレンジ版は約480マイル(約770キロメートル)で、マスクが主張した500マイルにもかなり近い。
この大型トラックでこれほどの航続距離を実現するには、巨大なバッテリーが必要だ。カリフォルニア州大気資源局(CARB)に提出された文書によると、Tesla Semiのベースモデルのバッテリー・パックの使用可能容量は548キロワット時だ。一方、ロングレンジ版のバッテリーはさらに大型化され、822キロワット時を誇る。通常64キロワット時のバッテリー・パックを搭載するTesla Model 3(テスラ モデル3)と比較すると、その規模の大きさがよく分かる。
私はバッテリー容量を含め、この記事を執筆するにあたりテスラに質問を送ったが、同社からの回答は得られなかった。
ただし、これらのトラックの価格は2017年当時の予想をかなり上回っている。当時の予想価格はベースモデルが15万ドル、ロングレンジ版が18万ドルだった。現在テスラは、CARBに提出された文書によると、それぞれ26万ドルと30万ドルに設定している。
これは現在販売されているディーゼルトラックの中央値を大幅に上回る価格だ。国際クリーン交通委員会(ICCT)の調査によると、2025年モデルの中央値は17万2500ドルだった。しかし、現在市場に出回っている同等のバッテリー電気トラックの中央値が約41万1000ドルであることを考えると、Tesla Semiははるかに低価格だ。
さらにカリフォルニア州では、企業が電動トラックの購入価格に対して12万ドルの補助を受けることができるため、Tesla Semiは導入初期から十分な競争力を持つ。特に、電動トラックはディーゼル車に比べて運用・維持コストが大幅に低い傾向があることを考えれば、優位性は大きい。
長年にわたり、Tesla Semiが実際に道路を走る日が来るかどうか、不透明だった(同じ2017年のイベントでマスクは新型ロードスターも発表したが、そちらはいまだに姿を見せていない)。だからこそ、工場が稼働を開始し、このプロジェクトに商業的な勢いを与える大口受注が入ったことは、心強い。
テスラは電気自動車市場に多大な影響を与えてきた。今後、生産規模を拡大し、充電インフラの整備に成功すれば、トラック業界においても同様の変革をもたらす可能性がある。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。