AIは「短距離走」ではない、いま知っておくべき5つのこと
MITテクノロジーレビューの編集者は先週、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)ロンドンで「AIについて知っておくべき5つのこと」を語った。雇用、現実化する危害、各地の反発、科学への期待——2026年半ばのAIは、興奮も不安も誇大な言説も入り混じる。だが確かなのは、これは短距離走ではないということだ。 by Will Douglas Heaven2026.06.10
- この記事の3つのポイント
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- 生成AIの雇用・経済への影響は誇大宣伝が先行し、実証データはいまだ乏しい
- ディープフェイクや軍事利用など短期的リスクが現実化し、反AI運動も組織的に拡大している
- 科学分野での貢献に期待が高まる一方、AIは必然でなく長期的視点での評価が必要だ
先週、私はSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)ロンドンに登壇し、「AIについて知っておくべき5つのこと」と題して、現在の人工知能(AI)における重要なテーマだと私が考えることを紹介した。
今回の内容の一部は、話題沸騰中のAI業界における最重要トレンドを紹介する本誌の年次ガイドのリストから引用したが、それ以外にもさまざまな話題に触れた。30分という限られた時間の中で、現在のテクノロジー、ひいては経済の動向を理解するうえで重要だと思う論点を網羅しようと試みた。
(昨年のSXSWロンドンでも同じタイトルで講演したが、そのときに取り上げた5つのポイントはまったく別のものだった。それほど多くのことが、この1年で起きたのだ!)
では、2026年も折り返しを迎えた今、私がAIをどのように捉えているのかを紹介したい。もしあなたなら別のポイントを選ぶというなら、ぜひ教えてほしい。
1. 厳密に言えば、私はこの講演に登壇する必要すらなかった
冗談半分かって? そうかもしれない。しかし生成AIツールはすでに日常的な存在となり、何百万人もの人々が日々のオフィス業務を自動化するために利用している(講演資料の作成や発表そのものも含めて)。だからこそ、この技術が雇用にどのような影響を与えるのかが今最大級の関心事になっているのも不思議ではない。人々は戸惑い、不安を抱いている。
もどかしいことに、AIが近く労働力の一部になるという経営層による誇大な宣伝や、「大変なことが起きている」と騒ぎ立てるSNSの投稿があふれているにもかかわらず、この技術が雇用や経済全体にどのような影響を及ぼすのかを断定できるだけのデータはほとんど存在しない。影響がないと言っているわけではない。大きな影響を及ぼす可能性もある。ただ、結論を出すにはまだ早すぎるのだ。
理論上は、共通の目標に向かって協調するAIエージェントのチームがホワイトカラー業務の組立ラインとなり、20世紀にヘンリー・フォードの革新が工場にもたらした変化を、今世紀のオフィスにももたらすかもしれない。
あくまで理論上の話だ。雇用の行方を知るには、その雇用を生み出している企業の内部で何が起きるのかを理解しなければならない。しかし大半の企業は、いまだにその答えを模索している段階にある。
2. AIは(今度こそ本当に)恐ろしい存在になりつつある
AIを巡る恐ろしい話は何年も前から存在した。人類を滅ぼすとか、文明を終わらせるとかいう話だ。そうした破滅論者はいまも声高だが、その種のシナリオは依然としてディストピアSFの領域を出ていない。
その代わりに起きたのは、現実世界における短期的な最悪の懸念の多くが現実になってしまったことだ。
ディープフェイクを例に挙げよう。実際にはしていないことをしているように見せるAI生成の画像や動画のことである。ディープフェイクは暴力の扇動や選挙への影響工作、不信感の拡散に利用されてきた。トランプ政権のホワイトハウスも、偽画像を作成・公開している組織の一つだ。
ディープフェイクの多くは、女性や少女への性的搾取にも使われている。ある調査では、ディープフェイクの98%がポルノ画像であり、その99%が女性を対象としていることが分かった。
もう一つの懸念は、チャットボットとの危険で妄想的な関係の広がりである。多くの人が、個人的な悩みの相談相手や、自分の話を聞いてくれる存在としてチャットボットを利用している。しかし現在では、AIが自殺やその他の自傷行為を促した、あるいは助長したとして、AI企業を相手取った訴訟が複数起こされている。
AIは戦争においても、新たな憂慮すべき形で利用されている。大規模言語モデル(LLM)は、単なる分析ツールにとどまらず、助言を与える存在になりつつある。ある米国防当局者は、本誌のジェームズ・オドネル記者に対し、軍事用チャットボットに攻撃目標の一覧を与え、「最初にどれを攻撃すべきか」と尋ねることが今や可能だと語った。AIを利用したことがある人なら誰でも知っているように、その出力結果は慎重に検証しなければならない。実際の戦闘のような、展開が速く強いストレスにさらされる状況では、その確認作業が省略される危険性は高い。
3. AIを心底嫌っている人が大勢いる
今年初め、私はロンドンで開かれた反AIデモを取材したが、そこには実に幅広い不満が渦巻いていた。「終末は近い」と訴える横断幕が、「スロップを止めろ! スロップを止めろ!」というシュプレヒコールに合わせて揺れていた。こうした抗議活動は組織化が進み、参加者も増えている。
映画やビデオゲームのファンからも反発が起きている。お気に入りの作品に生成AIが使われることに異議を唱えているのだ。たとえば、高い評価を受けた2025年のゲーム「Clair Obscur: Expedition 33(クレールオブスキュール:エクスペディション33)」は、開発チームが制作工程のごく限定的な一部分でAIを使用したことを認めた後、賞の受賞を取り消された。
データセンターへの反発も広がっている。米国にはすでに5400カ所を超えるデータセンターが存在し、その数は今も増え続けている。AIの電力需要が拡大するなか、人々は環境への影響や電気料金の上昇に不満を募らせている。活動家たちは一部地域でデータセンター開発の計画を遅らせることにも成功している。
規制は政治的に支持を集めつつある。QuitGPT(クイットGPT)のような草の根運動も勢いを増している。暴力に訴える者も少数ながら現れており、数週間前にはサム・アルトマンの自宅に火炎瓶が投げ込まれた。こうした動きが最終的にどこへ向かうのかは分からない。しかし、テクノロジー業界のリーダーたちが繰り返す終末論的な誇張は、人々を冷静に保つ助けにはなっていない。
4. 科学のためのAIは極めて大きな意味を持つ
まだ初期段階ではあるものの、AIが真に重要な科学的発見を支援する可能性は、かつてないほど高まっている。
グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)は、「Co-Scientist(コ・サイエンティスト)」と呼ばれる多目的ツールを開発した。これは研究者が過去の研究成果を探索・比較し、仮説を生成し、それを検証するための実験を設計するのを支援できる。オープンAI(OpenAI)は今年、2028年までに完全自動化された研究者を構築することを最終目標としていると私に語った。
数学者たちも大きな期待を寄せている。基礎数学は、インターネットのセキュリティから動画配信に至るまで、多くの日常技術の土台となっている。ここ数カ月の間には、AIが未解決の数学問題を解いたという主張が相次いでいる。そして、本当に難解な数学問題を解けるソフトウェアは、より汎用的な現実世界の問題も解決できるようになる――というのがその論理である。
デメリットは何だろうか。AIツールへの過度な依存によって研究の対象範囲が狭まる可能性があると警告する科学者もいる。研究者が、AIによる支援を受けやすい問題ばかり選ぶようになるかもしれないからだ。また、AIを活用した研究によって、不正確あるいは捏造された結果が大量に生み出される「サイエンス・スロップ(science slop)」への懸念もある。
5. AIはあらゆる場所に、しかも同時に存在している
では、こうした状況を踏まえて、私たちは今どこに立っているのだろうか。胸躍ることもあれば、不安になることもある。そして大げさな言説もあふれている。追い続けるだけでも疲れてしまうが、それでも逃れられない存在になっているように感じられる。私たちは頂点への競争の中にいると言う人もいれば、底辺への競争だと言う人もいる。しかし実際のところ、私たちがどこへ向かっているのかはまだはっきりしていない。
AI企業は、私たちに自分たちのペースに合わせて進むことを求め、汎用人工知能(AGI)に関するプロパガンダを信じさせようとしている。もっとも、そのAGIが何を意味するのか自体が曖昧なのだが。彼らは避けられない未来であるかのようなビジョンを売り込んでいる。しかし、それは決して必然ではない。
私たちは、人間らしい振る舞いができる技術を作り出した。そのことが、このAIも結局は一つの技術に過ぎないという事実を理解しにくくしているのだと思う。
確かに何かが起きている。それは電気やインターネットの発明に匹敵する出来事かもしれない。しかし、そのような技術が社会に定着し、持続的な変化をもたらすまでには時間がかかる。
短距離走ではなく、マラソンに備えよう。
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- ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
- AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めた。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピューターサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識を持つ。
