失明マウスの視力回復に成功、若返りブームの震源となった研究者
視神経を傷つけて失明させたマウスに、細胞を若い状態に戻す遺伝子治療を注射する。16日後、神経は再生し、マウスは再び見えるようになった。2020年に発表されたこの成果は、抗老化への巨額投資を呼び込んだ。開発したユアンチェン(ライアン)・ルー博士の治療は2026年、緑内障患者への臨床試験に入っている。 by Antonio Regalado2026.09.14
- この記事の3つのポイント
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- ルー博士が開発したOSKリプログラミング遺伝子治療が2026年に緑内障患者への臨床試験へと進んだ
- マウスの失明回復実験で証明された細胞若返り技術は、Myc遺伝子除去により安全性を高めた概念実証だった
- OSKは多細胞種に毒性を示すなど課題が残り、老化の分子的逆転は万能薬でなく次世代療法の出発点に過ぎない
34歳のユアンチェン(ライアン)・ルー博士は老化のことで頭がいっぱいだ。そして目も老化に取りつかれている。米マサチューセッツ州ケンブリッジにあるホワイトヘッド研究所の外に出ると、ルー博士のアビエーターサングラスは日光を受けて自動的に色が濃くなる。加齢に伴う失明は彼の家系に受け継がれている。中国にいた大叔母は、向かってくる車が見えなかったために道路を横断中に命を落としたという話が伝わっている。さらにルー博士自身、ゲノム解析サービス企業の23アンド・ミー(23andMe)の検査で、老年期における視力低下の主要な原因である加齢黄斑変性に関連する変異が見つかった。強い日光への暴露もリスク因子の一つであり、だからこそサングラスをかけている。「目を守ってくれますし、それにかっこいいでしょう」と彼は言う。
ルー博士は、加齢に伴う視力低下を防ぐ遺伝子治療の研究に取り組んでいる。「目は老化と若返りを研究するうえで本当にユニークなシステムだと思います。プレゼンを一本まるごとできるくらいです」と彼は言う。私は老眼鏡を押し上げながら、身を乗り出して耳を傾けた。
ルー博士は若返り科学と眼科研究において最も注目すべき成果の一つを生み出した人物だ。2018年、ハーバード大学医学部で博士号を取得中だった彼は、リプログラミングと呼ばれる年齢逆転技術を用いてマウスの視神経を修復した。視神経を物理的に押しつぶしてマウスを失明させた後、細胞を若い状態に戻すことを目的とした遺伝子治療を注射したのだ。16日後、視神経は再生し始め、その軸索が顕微鏡下でクモの巣状のオレンジ色の線維として観察された。
年齢逆転をめぐる熱狂が渦巻く中、ルー博士は「次世代の若返り療法」と呼ぶものを求めて研究室で精力的に研究を続けてきた。
ルー博士が当時所属していた研究室を率いる長寿科学者のデイビッド・シンクレア教授は、ルー博士がその写真のメッセージを送ってきたときのことを覚えている。「彼は『ここに何が見えますか?』と聞いてきました。私は『未来が見える』と答えました」。その後、回転する光の縞模様が入った箱の中で実施された試験により、マウスが変化を追跡していることが確認された。マウスは再び見えるようになっていたのだ。
2026年、ルー博士がマウス向けに開発したものとほぼ同一の遺伝子治療が、ヒトを対象とした臨床試験に入った。6月9日、シンクレア教授が共同創業し、ルー博士が少数の持ち分を保有するスタートアップ企業のライフ・バイオサイエンシズ(Life Biosciences)は、緑内障患者の目にこの治療薬を注射したと発表した。この臨床試験は大きなニュースとなった。ニューヨーク・タイムズ紙の見出しは、この技術が「人類を変える」可能性があると示唆した。X上の投稿者たちは熱狂し、「若返りの泉がここにある」と宣言する者まで現れた。
「ルー博士が学生のときに開発したものが今や人間に投与されているというのは、驚くべきことです」とシンクレア教授は、「ER-100」と現在呼ばれているこの治療薬について語る。「彼が作ったときからほとんど変わっていません」。
リプログラミングとは、胚の中で起こる年齢をリセットするプロセスを指す。赤ちゃんが老いた状態ではなく若い状態で生まれてくるのはこのためだ。親から受け継いだDNAが洗い流され、リセットされるのである。2006年、山中伸弥教授をはじめとする日本の研究者たちは、OSKM(日本版注:「山中因子」と呼ばれる)という頭字語で知られる4つの主要な遺伝子を導入するだけで、このプロセスを実験室内で引き起こせることを示した。これらを100歳の人の細胞に加えると、その細胞は胚から取り出されたかのように振る舞う幹細胞へと変化する。
これは強力な技術だ。しかし、人間を幹細胞の原形質の塊に変えてしまうわけにはいかない。ルー博士はその効果を制御する方法を見つけ出した。遺伝子のリストをOSKの3つだけに絞り込み、がんのような危険な変化を引き起こす可能性が最も高い「Myc(M)」遺伝子を取り除いたのだ。さらに彼が閃いたのは、リプログラミングを視神経で検証できるという点だった。目は特にアクセスしやすい器官なのである。
2020年に『ネイチャー(Nature)』誌に掲載されたルー博士の研究成果は、投資ブームの火付け役となった。それ以来、米国のテック系億万長者たちは、リプログラミングと抗老化医療を探求するアルトス・ラボ(Altos Labs)やニューリミット(NewLimit)といった非公開企業に巨額の賭けをしてきた。私がルー博士と話した日、彼は午前中を中国有数の富豪で実業家の鍾睒睒(ジョン・シャンシャン)との面談に費やしていた。
それでも、年齢逆転をめぐる熱狂が渦巻く中、ルー博士は公の議論の場から著しく遠ざかっている。彼は「次世代の若返り療法」と呼ぶものを求めて研究室で精力的に研究を続けてきたのだ。ルー博士はため息まじりで、OSKが実際に何をしているのかを解明するための過去6年間にわたる過酷な取り組みを語る。この治療法は多くの細胞種に対して依然として毒性を示し、老化を引き起こす因子は細胞の種類ごとに異なることが明らかになりつつあると彼は言う。たとえば今年、ルー博士は、加齢黄斑変性の主な原因となる、フリーラジカル(遊離基)によるダメージから網膜を保護する遺伝子を特定した。
かつての上司であるシンクレア教授は人間が200歳まで生きられると信じているが、ルー博士はそれに同意しない。老化に伴って生じる問題はあまりにも多いからだ。OSKを用いた自身の研究は、万能薬というよりも概念実証に近いものだったと彼は言う。しかしそれは確かに議論を変えた。「6年前は若返りについて話すことすらできませんでした。その言葉を使うと反発を受けたのです」とルー博士は語る。「でも今では、分子レベルの年齢を本当に逆転させられるという概念を人々が受け入れたと思います」。
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
