捨てていた熱をリサイクル、31歳が挑むチップの再設計
街中を猛スピードで走りながら、交差点ごとにブレーキを踏む車——ハナ・アーリーは、いまのコンピューターチップをそう例える。止まるたびに勢いを失い、再加速にエネルギーを使う。彼女が挑むのは、その勢いを保つチップだ。50年以上前に提唱されながら実装できなかった構想を、31歳が形にしつつある。 by Eshan Raul2026.09.09
- この記事の3つのポイント
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- ヴェア社CTOのアーリーが、廃熱を回収再利用する「可逆計算」チップで昨年初の実証に成功した
- 50年来の理論を実装するため、特許出願中の共振器部品をゼロから設計し、エネルギー収支をプラスに転じた
- 商業化には段階的な実証の積み重ねが必要だが、アーリーはチップ設計全体を可逆性前提で再構築する構想を掲げる
コンピューターチップの歴史を通じて、エンジニアたちは廃熱を計算に伴う避けられないコストとして扱ってきた。しかしハナ・アーリーは、それは設計上の選択にすぎないと考えている。31歳のアーリーは、ヴェア・コンピューティング(Vaire Computing)の共同創業者兼最高技術責任者(CTO)だ。同社は、通常なら熱として捨てられるエネルギーを回収して再利用するチップを開発するスタートアップで、この手法は「可逆計算」と呼ばれる。最終的には、このアプローチによってデータセンター(さらには私たちのノートパソコンやスマートフォン)のエネルギー効率を大幅に高められると、アーリーは考えている。
従来のコンピューターチップが計算を実行する際には、処理の途中で不要になった情報を消去し、その過程でエネルギーを熱として散逸させる。アーリーはこの仕組みを、街中を猛スピードで走りながら、交差点ごとにブレーキを踏む車に例える。車はそのたびに勢いを失い、再加速するためにさらに燃料を使わなければならない。可逆計算は、その勢いを維持することを目指す。計算の途中で情報を消去する代わりに回路内に保持することで、計算を逆向きにたどり、その過程でエネルギーの一部を回収できるようにする。
この考え方が最初に提唱されたのは50年以上前だが、既存のトランジスターや回路を使って実装するのは現実的ではないことが分かっていた。そこでアーリーは、エネルギー回収を実現するために必要なハードウェアを根本から見直した。彼女が設計したのは、特許出願中の「共振器」と呼ばれる微小なチップ部品で、回収したエネルギーを蓄え、後で再利用できる。「要するに、立派な振り子なんです」と彼女は言う。昨年、ヴェアは重要な …
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