KADOKAWA Technology Review
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The Blind Have High Hopes for Self-Driving Cars

視覚障害者は、自律自動車を待ち望んでいる

視覚障害者の権利を主張する人々が、企業や議員と、自分で運転できる自動車の開発について話し合っている。 by Elizabeth Woyke2016.10.13

8月の数日間、パーキンス盲学校の駐車場は、学生やスタッフが乗ったゴルフカートに似た車をノートPCの誘導で動作するテスト走行場に姿を変えた。このコンピューター動作の車は、電気自動車用自律運転テクノロジーを開発しているスタートアップ企業オプティマス・ライド(本社マサチューセッツ州ケンブリッジ)の試作車だ。。

試走は移動距離が短く、プログラムされた経路をたどるだけだったが、パーキンス盲学校の人々を喜ばせた。パーキンス盲学校は、アメリカでもっとも古い盲学校で、キャンパスで学ぶ200人の学生(目の見えない人や視覚障害者、視覚・聴覚障害者)と、各地域の学校の通信教育過程を通じて学ぶ数百人の学生の教育に貢献している。視覚障害者の権利を主張する人々(パーキンス盲学校の内外を問わず)は、無人乗用車が目の見えない人にも使える設計になれば、視覚障害者の暮らしに革命を起こすのではないか、という。真の自動運転車の到来が近づいてくるにつれ、視覚障害者を代表する各団体は、開発中の自動運転車やソフトウェアの方向性を決めていく過程に、いっそう積極的に関わるようになった。

「自律型移動手段は、目の見えない人にとって革新的です」というのは、パーキンス盲学校のデイブ・パワー校長兼CEOだ。

「目の見えない人が初めて、自分ひとりで、移動距離に関係なく、学校や職場、地域活動に行けるのです。パーキンス盲学校でも、アメリカ全体でも、目の見えない人は、自律型移動手段にとてつもなく熱い期待を寄せています」

National Federation of the Blind president Mark Riccobono preparing to drive the car developed by the organization’s Blind Driver Challenge in 2011.
2011年、全米盲人会連合(NationalFederationoftheBlind)の「ブラインド・ドライバー・チャレンジ」で開発された自動車を運転する用意をしているマーク・リッコボーノ代表

視覚障害者の権利を主張する人々は、各企業に対し、視覚障害者のための特別な自動車を作るよりも、自律型移動手段を障害者にも使いやすくしてほしいと望んでいる。視覚障害者専用に特別な自動車を作れば、おそらく非常に高価になってしまう。テック企業の元幹部であるパワー校長は、自律型移動手段メーカーが視覚障害者のニーズを考慮に入れることはないだろう、という視覚障害者コミュニティが持つ悲観的な想定を知っている。そこでパワー校長は、テック企業をパーキンス盲学校のキャンパスに招き、企業に対してプレゼンテーションし、フィードバックを集めることにした。パワー校長は「私たちは、自律型移動手段メーカーに、自社の設計にアクセシビリティを組み込み、目の見えない人のことをしっかり考えてもらうよう、促したいのです」という。

オプティマス・ライドは、パワー校長の招待に最初に応じた企業だ。パーキンス盲学校への訪問時、オプティマス・ライドは、パーキンス盲学校の広さ0.15平方キロメートルの敷地で試験走行した。また、無人乗用車が、どうすれば目の見えない人に最大限に役立てるか、広いキャンパスでシャトルバスのような輸送サービスを展開できるかを知るために、ブレインストーミングもした。

パーキンス盲学校の職員たちは、たとえば、盲導犬や介助犬のために、適切な床面積を確保することなど、オプティマス・ライドに多くの提案をしたという。また、ドライバーや乗客が車を操作する上で、視覚に依存しないインターフェイスが使える必要があることも強調した。たとえば、タッチスクリーンで操作する自動車は、メニューの読み上げ(ボイスオーバー)テクノロジーや、触覚によるフィードバックテクノロジーを取り入れることで、目の見えないユーザーに配慮できるかもしれない。

ボイスオーバーの仕組みは、目の見えない人がスマートフォンとアプリを操作するために使うジェスチャーによる画面読み取りシステムを真似たものだ。実際、パーキンス盲学校のグループは、オプティマス・ライドに、将来のユーザーのために操作アプリを開発するよう勧めた。パーキンス盲学校のジム・デンハム教育テクノロジーコーディネーターは、車の操作のすべて(車を呼び出すところに始まり、予定していなかった場所で停車し、自分が荷物を下ろすのを待つよう、車に指示するところまで)をアプリでできると見込む。また、反対に、アプリがユーザーに対して、定期的に車の進行状況を伝え、到着予定時刻を知らせてくれることも、デンハム教育テクノロジーコーディネーターは期待している。

視覚障害者コミュニティでは、自動車とソフトウェアの設計面だけでなく、無人乗用車に対する法規制にも働きかけようとしている。アメリカ最大の視覚障害者組織である全米盲人会連合(NFB)は、2000年代初期から目の見えない人のための自動車を作る考えを掲げてきた。この時期、NFBは「ブラインド・ドライバー・チャレンジ」を組織し、各大学が、自動車のための視覚に依存しないインターフェイスを作成することを支援してきた。NFBの広報担当クリス・ダニエルセンはグーグルに対し、自律走行自動車にアクセシビリティ機能を組み込むよう、働きかけている。NFBはまた、ドイツの自動車大手、ダイムラーが主催する会議に出席する計画で、米国米国運輸省が最近発表した自動運転自動車に関する規定に対する意見書も提出しようとしている。

アメリカの草の根人権擁護団体であるアメリカ盲人協議会(ACB)では、目の見えない人が自律型移動手段の使用を禁止されることがないよう、各州の法律の改正を追跡している。ACBのキム・チャールソン代表の話では、ネバダ州が、自律自動車の使用を制限する文言を法案に盛り込み、それを目の見えない人々に結びつけた時には、ACBが議員に、より限定的ではない文言に変えるよう要請したという。

「私たちは、目が見えないことが、自律自動車を活用できない理由になるとは思いません。むしろ反対に、目が見えないことは、私たちが自律自動車を使うべき理由になると思うのです」(チャールソン代表)

チャールソン代表は、視覚障害者コミュニティの他の人々と同様、目の見えない人があらゆる運転操作をせずに済み、車に問題が起きれば、警察や担当者に連絡が届くような、完全な自律型移動手段の未来を待ち望んでいる。半自律自動車に、目の見える人(運転手の役目を果たせる)と一緒に乗るのでは、運輸手段の選択肢が今より広がらないのだと、目の見えない人々はいう。結局のところ、友達や家族の車に乗せてもらったり、タクシーやウーバーを使ったり、あるいは乗り合いバン(障害のある人が、ドア・ツー・ドアの相乗り輸送を利用できるサービス)を使ったりすることは、今でもできているのだ。「どんなに高度なテクノロジーでも、自動車にもうひとり誰かを乗せる必要があるままでは、私たちの状況は今より少しもよくならないのです。」と、NFBのダニエルセンは指摘する。

「自律型移動手段が、私たちの未来として実現しつつあります。私の目標は、目の見えない人が必ずみな平等に、その未来の一員になれるようにすることです」(チャールトン代表)

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ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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