パリ協定「化石燃料全廃」なら達成可能、見えぬ実現への道筋
オックスフォード大学やリーズ大学の研究者らが、寿命に達した化石燃料インフラを段階的に使用中止することで、気温上昇を1.5 ˚Cに抑えられることを示す研究結果を発表した。だが、政治・経済・技術面の現実に照らすと、不可能ではないにせよ困難だ。 by James Temple2019.01.22
新たな研究において、世界が1.5℃の温暖化を防ぎ、歴史的なCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定の努力目標を達成できる可能性がまだ残されていることが分かった。同時に、現実的には達成はほぼ不可能であろうという厄介な事態も判明した。
オックスフォード大学やリーズ大学、その他の機関の研究者がネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌で1月15日に発表した論文によれば、寿命に達した化石燃料インフラを今すぐ段階的に使用中止し、すべての石炭プラントや自動車、航空機、工場を廃止していけば、64%の確率で温暖化の最高値を1.5℃より低く抑えられるという。このシナリオでは、廃止対象とするすべての工場や機械を、太陽光プラントや電気自動車といった二酸化炭素排出量ゼロの代替手段に置き換えた場合を想定している。
この研究では実際に、化石燃料を燃焼させる施設の耐用年数を考慮に入れ、上記のような観点から私たちの社会的選択の顛末に焦点を当てている。こうした施設の増加を2030年まで許した場合、その時点から車や工場の使用を早期にやめたとしても、1.5℃を上回る確率が飛躍的に高まる。
論文では、化石燃料インフラの新たな開発をすべて中止することが現実的に可能かどうかという問題には答えていないが、ほぼ不可能だろう。それどころか、二酸化炭素を排出する発電所や自動車、その他の機械は、この先何年にも渡って作り続けられる公算が高い。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、中国企業は世界中の数百カ所で石炭プラントを計画したり、建設したりしている。インドは引き続き、石炭を燃料とする新たな施設に数十億ドルを投資している。そして米国では、自動車販売に占める電気自動車の割合はわずかで、ガソリンを食うSUVやトラックに対して依然として大きな需要がある。
さらなる課題として、航空や農業、セメント、鉄鋼など、温暖化ガスの排出源でありながら、クリーンな代替手段の確保が容易ではない経済分野がある。
確かに、今回の研究により、理論的には1.5℃の気温上昇を避け得ることが判明した。しかし、真の問題は人類がそのポイントを過ぎようとしている可能性が高まっていることにある。同研究の中で描かれているシナリオの達成は、現時点における政治・経済・技術面の現実に照らすと、不可能ではないにせよ困難だろう(注目すべきとして、既存のエネルギーインフラだけで、世界がすでに壊滅的な温暖化のレベルに達している可能性を指摘した研究もある)。
しかし、人類が1.5℃や2℃、それに3℃の境界まで超えようとしているとしても、重大なメッセージは残されている。それは「化石燃料の使用をやめるのが早ければ早いほど、将来の被害や危険性を減らせる」ということだ。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。