KADOKAWA Technology Review
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Saiman Chow
生命の再定義 Insider Online限定
How biotech went from “no way” to payday in the cannabis business

バイオベンチャーが狙う
次のビッグビジネス
「大麻」の大量生産

遺伝子組み換えの技術者は、人々の健康と娯楽のために合成カンナビノイド作りたいと考えている。しかし、公衆衛生に有害な影響をもたらせば、人々から反感を買うことになるだろう。大麻産業に参入するバイオテクノロジー企業は、ビジネスチャンスと道徳心のせめぎ合いに苦心している。 by Antonio Regalado2019.08.01

合成生物学企業アミリス(Amyris)の最高経営責任者(CEO)であるジョン・メロは、昨年の秋、アミリスの最大の投資家の1人に会うためにオランダのアムステルダムを訪れた。その長い週末の間、元石油企業幹部であるメロCEOは、アムステルダムで有名な「コーヒーショップ」に立ち寄った。

メロCEOは、マリファナの喫煙者にインタビューをしたいと考えたのだ。

「マリファナを吸う理由と、吸う頻度を教えてくれませんか?」「マリファナを吸う心理を知りたいのです。何を期待して、何を得るために吸うのでしょうか?」メロCEOは、マリファナの喫煙者にこう質問したという。

メロCEOがこのようなインタビューを実施した背景には、アミリスが大麻産業に参入しようとしていたことがある。アミリスはこれまで、パン酵母を使って、ジェット燃料やマラリア治療薬、カロリーゼロの甘味料を合成できることを示してきた。アミリスは、同じ酵母の遺伝子を操作すれば、マリファナの活性物質であるカンナビノイドを、多くの水や土地、電気を必要とする大麻栽培よりも安価に生産できると考えている。

しかし、もし酵母によるカンナビノイド合成が実現すれば、カンナビノイドは新たな形態で、あらゆる場所で見られるようになり、非喫煙者である一般の人々の手にも渡るようなるだろう。したがって、メロCEOはこの懸念を払拭する必要があった。「私は数年間、大麻ビジネスは考えられないと言い続けてきました」とメロCEOは述べる。さらに、彼の妻はそのアイデアに「真っ向から反対」していたという。

しかし、アミリスには大麻ビジネスが必要だった。アミリスはバイオ燃料ベンチャー企業としての競争力を失い、バランスシートには10億ドルの損失が残っていたからだ。そこでメロCEOは、カンナビノイドがあふれる世界とはどのようなものかを知りたくなった。「その市場調査は道徳的な調査に繋がるものでした。何か道徳的な問題はあるのでしょうか?」とメロCEOは言う。「もし社会全体がカンナビノイドを一日中使ってリラックスするとしたら、それはどういうことなのでしょうか?」

メロCEOだけではない。バイオテクノロジーは合法的な大麻産業を受け入れているので、そのジレンマに苦しんでいるアミリスの幹部は少なくない。もっと簡単に手に入るドラッグを作ったら、どうなるのだろうか?

これまでのところ、米国の33州で医療大麻が合法化されており、そのうちの10州では娯楽目的の大麻使用が許可されている。カナダは2018年10月に、国内でのマリファナ販売を許可した。カナダ保健省は、2019年のカナダ国民の大麻消費は、92万6000キログラムになると見込んでいる。ジョイント(紙巻きたばこ状の大麻)に換算すると10億~20億本に相当する量だ。また、そのうちの大半は、カナダの成人人口の約5パーセントを占めるマリファナ常用者によって消費される見込みだ。

大麻が合法になると、投資家たちは我先にと出資した。デンバーの起業家たちは非常に多くの温室を建てたので、市内の電気使用量が一挙に増加した。このため、遺伝子工学の研究者たちが、遺伝子工学が広大な大麻栽培農地に取って代わることができると気付くまでに、そう時間はかからなかった。「2017年に、酵母の分野で経験を積んだ研究者について問い合わせを受けるようになりました。『一体どういうことでしょう…?』と私は問い返したものです」。ビリディアン・スタッフィング(Viridian Staffing)のカラ・ブラッドフォードCEOは当時をそう振り返る。ビリディアン・スタッフィングは、大麻産業に詳しい農学者や他の専門家の斡旋に特化した人材スカウト企業だ。

ブラッドフォードCEOによれば、こうした問い合わせは最初は機密性が高かったという。しかし、今では微生物を利用したカンナビノイドの生産競争は周知の事実となっている。アミリス、ギンクゴ・バイオワークス(Ginkgo Bioworks)、ハイアシンス(Hyasynth)、ファーマコ(Farmako)、イントレクソン(Intrexon)などの数十社の合成生物学企業は、バクテリアや藻類、酵母の発酵タンクに大麻遺伝子を挿入したという。2019年、カリフォルニア大学バークレー校の生物学者たちは、酵母によるカンナビノイド合成を行なうための重要な生合成経路を導入し、その結果をネイチャー誌で発表した。

安価な精製カンナビノイドは、新たな薬品や「ウェルネス」製品を生み出すかもしれない。しかし、このカンナビノイドがソフトドリンクやクッキー、蒸気吸引用のリキッドなどに加えられたら、誰がいつ、どのようにハイになれるのかが大きく変わることになる。「私は最初衝撃を受けて、思わず『何だって?』と聞き返しました」と、ギンクゴ・バイオワークスのジェイソン・ケリーCEOは述べる。ギンクゴ・バイオワークスは、ボストンにある、酵母を遺伝子操作して化学物質を合成する企業だ。「とはいえ、カンナビノイドには需要があり、合成生物学が非常に適した分野であり、ビジネスになることは明らかでした」。 …

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