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CEO独占インタビュー
初の「量子超越性」実証で
グーグルは何を目指すのか
Google for MIT Technology Review
コンピューティング Insider Online限定
Google CEO Sundar Pichai on achieving quantum supremacy

CEO独占インタビュー
初の「量子超越性」実証で
グーグルは何を目指すのか

「量子超越性を実証した」とする論文を発表したグーグルのサンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)が、MITテクノロジーレビューの独占インタビューに応じた。 by Gideon Lichfield2019.10.28

グーグルの研究チームは、ネイチャー誌に10月23日に掲載された論文や自社のブログ記事において、「量子超越性」を史上初めて実証したと主張している。グーグルの53キュービット(量子ビット)の量子コンピューター「シカモア(Sycamore)」が、世界最速のスーパーコンピューターで1万年かかる計算を、200秒でやってのけたというのだ(論文の草稿は先月、ネット上でリークされていた)。

量子時代のコンピューティング
この記事はマガジン「量子時代のコンピューティング」に収録されています。 マガジンの紹介

実施した計算自体には実用性はほとんどない。一連の乱数を出力しただけだ。シカモアが量子コンピューターのあるべき姿で実際に稼働することを示すために選ばれた作業に過ぎない。実用的な量子マシンが登場するのは何年も先のことで、技術的なハードルは高く、たとえ実現したとしても従来のコンピューターを凌駕できるのは特定の作業においてのみであろう(「グーグルの『量子超越性』実証は何を意味するのか?」を参照)。

それでもなお、重要な節目であることに変わりはない。グーグルのサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は今回の量子超越性実証を、ライト兄弟の12秒間の初飛行になぞらえている。成果が得られるまでさらに10年以上かかるかもしれないプロジェクトに、グーグルがすでに13年費やしている理由を理解するため、ピチャイCEOに話を聞いた。

以下のインタビューは、明確さを保つために要約・編集されている。また、インタビューは、IBMの研究者がグーグルの量子超越性に関する主張に反論する前に収録された。

——グーグルには、非常に限られた特定のタスクを実行する量子コンピューターがあります。量子超越性をさらに広く実証するには何が必要でしょうか?

より一般化し、より長時間稼働できるようになり、より複雑なアルゴリズムを実行できるように、さらに多くのキュービットを備えたフォールト・トレラントな(耐障害性のある)量子コンピューターを構築する必要があるでしょう。ですがご存知のとおり、どんな分野でも大きなブレークスルーを得ようと思ったら、どこかで始めなくてはなりません。例えるなら、ライト兄弟です。ライト兄弟の最初の飛行機は12秒しか飛行できなかった。実用性はありません。ですが、飛行機が飛べるという可能性を示しました。

——複数の企業が量子コンピューターを所有しています。たとえばIBMは、オンラインで量子コンピューターを多数稼働させ、クラウドで使えるようにしています。IBMのコンピューターでグーグルと同じことができないのはなぜでしょう?

グーグルのチームが達成できた理由について主にお話ししましょう。量子超越性の達成には多くのシステム工学、つまりスタックのすべての層に取り組む能力が必要です。これは、システム工学の観点で見ると極めて複雑なものです。まさにウェハーから手を付け、文字通りゲートをエッチングするチームがいて、ゲートを作成しています。そして人工知能(AI)を使った最良の結果のシミュレーションや理解が可能なところまで、スタックの層を築き上げるのです。

——論文の最後では「近い将来の有益な応用までには、創造的なアルゴリズムが1つあればいい」と書かれています。それがどのようなものになりそうか、想像はつきますか?

量子が本当に刺激的なのは、宇宙の仕組みが本質的に量子的だということです。ですから、自然界をさらに深く理解できるようになるでしょう。まだ黎明期ですが、量子力学は分子や分子過程をシミュレーションする能力で輝きを見せ、そのような領域で最大の性能を発揮できると考えています。創薬がすばらしい例です。もしくは肥料ですね。肥料用のアンモニアを製造する「ハーバー法」からは、世界の二酸化炭素排出量の2%が生み出されています(「注1」を参照)。自然界では、同じプロセスがもっと効率的に実行されています。

——では、ハーバー法の改良のような応用例が実現するまでにどれくらいかかりそうですか?

おそらく10年程度でしょう。十分な性能で動作する量子コンピューターを構築できるまでにはまだ数年かかります。他の応用の可能性としては、優れた電池の設計が含まれるでしょう。いずれにせよ、化学分野ということになります。そういったことをより深く理解できるようにするために、予算を割くつもりです。

——量子コンピューターに注目している人々ですら、核融合のようになるかもしれないと言います。つまり、次なる50年間の折り返し地点を回ったばかりだということです。かなり困難な研究プロジェクトのように思えます。グーグルのCEOであるあなたがそれほど入れ込んでいるのはなぜでしょうか?

コンピューティング分野でこれまでに見られたような進化がなかったら、グーグルは現在の地点にいなかったでしょう。ムーアの法則のおかげで計算能力は高まり、多くの製品で数十億人のユーザーに対して大規模にサービスを提供できています。ですから根本的に、グーグルはコンピューター科学にどっぷり浸かった企業だと自覚しています。ムーアの法則は考え方にもよりますが、サイクルの終焉にあります。量子コンピューティングは、コンピューティングで私たちが前に進み続けるために必要な多くの要素の1つなのです。

私たちがワクワクしているのには別の理由もあります。単純な分子を取り上げましょう。カフェイ …

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