KADOKAWA Technology Review
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誰もが疑わない現代の価値観
「創造性」という幻想は
いかにして創り出されたか
Tom Humberstone
カルチャー Insider Online限定
How creativity became the reigning value of our time

誰もが疑わない現代の価値観
「創造性」という幻想は
いかにして創り出されたか

誰がも信じて疑わない「創造性」という価値観は、実はそれほど古くからあるものではない。なぜ私たちは創造性にこれほど魅了され続けるのか。AIは創造性をどのように変えるのか。『クリエイティブという神話』の著者、サミュエル・フランクリンに話を聞いた。 by Bryan Gardiner2025.05.02

この記事の3つのポイント
  1. 創造性(creativity)という概念は1950年代の米国で生まれた
  2. 創造性は個人の自由や企業の発展に寄与すると考えられた
  3. シリコンバレーは創造性を重視し自らの中心地と考えている
summarized by Claude 3

昨今の米国人は、意見が一致することがほとんどない。しかし、合意に基づいた現実「コンセンサス・リアリティ」が崩壊寸前にあるような時代にあっても、米国人全員が依然として支持できる、まさに現代的な価値観が少なくとも1つ残っている。それは創造性(クリエイティビティ)だ。

私たちは創造性を教え、測定し、うらやみ、育み、そしてその死を絶えず心配している。これは当然のことだろう。私たちの多くは幼い頃から、個人的な充足感を見つけることに始まり、キャリアの成功や世界で最も困難な問題の解決に至るまでのあらゆることにおいて、創造性こそが鍵であると教えられている。長年にわたり、私たちはクリエイティブ産業、クリエイティブ空間、クリエイティブ都市を築き上げ、そこに「クリエイティブな人々」を居住させてきた。私たちは自分自身の創造性を発揮し、解き放ち、育み、高め、そしてハックする方法を学ぶために、毎年何千冊もの書籍や記事を読んでいる。そして、この貴重なリソースである創造性を管理し、守る方法を学ぶために、さらに多くの書籍や記事を読む。

私たちが創造性にどれほど執着しているかを考えると、創造性という概念はまるで遠い昔から常に存在し、哲学者や芸術家が熟考し、議論を重ねてきたもののように感じられるかもしれない。その想定は妥当なものだが、大きな間違いであることが判明した。サミュエル・フランクリンが近著『クリエイティブという神話(原題:The Cult of Creativity)』(河出書房新社刊)で説明しているように、「creativity(創造性)」という言葉が初めて文書で使われたのは1875年のことで、「言葉としてはまだ誕生したばかりの存在」に過ぎない。さらに、およそ1950年以前には、「『創造性』というテーマを明確に扱った記事や書籍、エッセー、論文、頌歌、講座、百科事典の項目などの類のものはほとんどまったく存在しなかった」とフランクリンは同書の中で指摘している。

このことから当然の疑問が生じる。まったく語られてこなかった創造性が、どのようにして常に語られる存在に変わったのだろうか? 創意工夫、巧妙さ、想像力、芸術性といった他の古い言葉と創造性との違いは、もしあるとすれば何なのだろうか? おそらく最も重要な問いは、幼稚園の先生から市長、最高経営責任者(CEO)、デザイナー、エンジニア、活動家、飢えた芸術家に至るまで、創造性は単に個人的、社会的、経済的に「優れたもの」であるだけでなく、人生のあらゆる問題に対する「答え」であると、どのようにして信じるようになったのかということだ。

ありがたいことに、フランクリンは著書の中で、その答えとなりうるものをいくつか提示している。オランダのデルフト工科大学の歴史家でありデザイン研究者でもあるフランクリン博士は、現在知られている「創造性」の概念は、第二次世界大戦後の米国において、一種の文化的な救済策、つまり同調主義、官僚主義、郊外化の進行によって引き起こされた緊張や不安を和らげる手段として生まれたと論じている。

「創造性は一般的に、漠然と芸術家や天才を想像させるような資質やプロセスとして定義されますが、理論的には誰もが保有し、あらゆる分野に応用できるものです。創造性は秩序の中で個人主義を解き放ち、現代企業の迷路の中で孤独な発明家の精神を蘇らせる方法を提供しました」とフランクリンは記している。

なぜ私たちは創造性にこれほど魅了され続けるのか? どのようにしてシリコンバレーが創造性の中心地とされるようになったのか? そして人工知能(AI)のようなテクノロジーが、私たちと創造性の関係を再構築する上で役割を果たすのであれば、どのような役割を果たす可能性があるのか? ——フランクリン博士に聞いた。

——ご自身にとって創造性とは何なのか、どのように考えて成長されたのですか? 創造性について本を書こうと思ったきっかけは?

多くの子どもたちと同じように、創造性は本質的に良いものだと思いながら育ちました。私にとって、そして私のように特に運動能力が優れていたわけでもなく、数学や科学が得意だったわけでもなかった多くの人も同じだと思うのですが、創造的であることは、たとえそれがどのような未来をもたらすかが明確ではなかったとしても、少なくともこの世界で何らかの未来があることを意味していました。大学に入学し、さらに大学院に進学する頃には、たとえばダニエル・ピンクやリチャード・フロリダといったTEDトークに出てくるような思想家の間では、創造性こそが未来にとって最も重要な資質だという通説が定着していました。つまり、創造的な人々がこの世界を受け継ぐ存在となり、複雑に絡み合う世界のあらゆる問題を解決するためには、社会が創造的な人々を切実に必要としている、という考え方です。

一方で、自分はクリエイティブだと思いたい人々にとって、この考え …

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