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私が新型コロナワクチンの
臨床試験に志願した理由
Photo: Taylor Lidsky
Why I am volunteering to get the coronavirus vaccine

私が新型コロナワクチンの
臨床試験に志願した理由

米国で間もなく、ヒトを対象とした新型コロナウイルスの臨床試験が始まる。45人の参加者の1人になることを決めた人物はなぜ、志願したのか? 話を聞いた。 by Antonio Regalado2020.04.03

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の蔓延を阻止するには、ワクチンと、そのワクチンを進んで接種する志願者が早急に必要だ。

複数のワクチンの開発が進められているが、ヒトを対象とする最初の試験は、モデルナ・セラピューティクス(Moderna Therapeutics)が開発した新しいタイプのワクチンとなる。同社は、史上最速でワクチンの臨床試験を開始するという偉業の達成を可能にしたテクノロジーを持つ。

間もなく始まる第1段階は、ワクチンが危険でなく、免疫反応を誘導することを確認するための安全性試験だ。3月には45人の志願者が、シアトルにあるカイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)の施設で実施される臨床試験に参加することが決まった。志願者が署名した20ページからなる同意書によれば、志願者はリスクがあることや、ワクチンに効果がないかもしれないことを了承した上で、自分の遺伝情報を共有すること、今後数カ月にわたって複数回の採血を受け、試験中に子どもをつくらないことにも同意していることになる。

私たちは、志願者の1人であるイアン・ヘイドンに話を聞いた。ワシントン大学に勤務するコミュニケーションの専門家であるヘイドンは、なぜ志願することにしたのか? どのようにして自分が被験者に選ばれたのか? 語ってくれた。

——あなたはシアトルで新型コロナウイルスのワクチンを初めて接種される45人のうちの一人です。なぜ試験に参加することにしたのですか。

いい質問ですね。私はワシントン大学、特にCOVID-19の研究を行なっているタンパク質設計研究所で広報スペシャリストを務めています。研究所には、ワクチンの研究を行なっている35人の研究者がいます。他の人は自宅にいます。この種の臨床試験の被験者になったことは今までありませんが、臨床試験は身近な存在だったし、今までと違う方法で研究に参加することが正しい行動であるように思えたのです。

——いつワクチンを接種されるのですか。

4月8日の午前9時です。2回目の投与はそのおよそ1か月後です。

——どうやってこの臨床試験の被験者に選ばれたのですか。

ほとんど運ですね。今回の臨床試験の存在は、研究所の同僚がスラック(Slack)で被験者募集の情報を共有してくれたことがきっかけで知りました。私は健康情報を提出しました。研究者たちは私の既往歴と年齢を知りたかったようです。数千人の応募者がいたので、まさか返事が来るとは思っていませんでした。でも返事が来たのです。私は健康診断と血液検査を受け、研究者たちは臨床試験について私に説明しました。説明を聞いたあと、まだ関心があるかと尋ねられ、私は「ある」と答えて参加登録をしました。

——考え直したことはありますか。

いいえ。私は電話を待ち望んでいましたから。

——あなたの年齢は?

29歳です。

——ご両親に話しましたか。ご両親はどう思っていますか。

健康診断に行くときに両親に話しました。ほぼ同じ頃、ガールフレンドにも話しました。両親は私を誇りに思っていると思います。母は多分ちょっと心配しているでしょうが、無理もありません。

——どんなリスクがあると思いますか。

いくつかの小さなリスクがあると思っています。1つ目のリスクは、アナフィラキシーショックです。ただ、これが問題になる可能性がある人は少ないし、この臨床試験に特有のリスクというわけでもありません。もう1つ目の小さなリスクは、COVID-19と関係があるのかどうかはっきりしませんが、抗体依存性感染増強と呼ばれる、ワクチンが病気を悪化させる現象です。これは、研究者が見込んでいるリスクの一部だと思います。3つ目のリスクは、予期せぬ副作用です。どんなワクチンにも副作用のリスクは伴いますが、特に新しいテクノロジーに基づくワクチンではなおさらのことです。

——ワクチンはどんな仕組みで機能するのですか。

これはmRNAワクチンです。ウイルスの遺伝子コードの一部がワクチン、すなわち脂質ナノ粒子に含まれています。脂質ナノ粒子とは、要するに脂肪の塊です。私のような被験者にワクチンを接種すると、ワクチンはタンパク質、今回の場合は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を生成すると考えられています。そして、生成されたタンパク質によって、私の免疫システムが抗体を産生すると考えられています。ワクチンが運ぶのは遺伝物質であり、タンパク質を直接運ぶわけではありません。

——抗体が出来るまでにどのくらいかかりますか。

抗体が出来たかどうかは臨床試験全体を通じて1年以上かけて観察されます。受診するたびに私の抗体と免疫細胞が綿密に検査されます。

——このテクノロジーについてご自身で調査しましたか。

ええ、少し。この脂質ナノ粒子ワクチンのプラットフォームは、新型コロナウイルス以外の感染症で第1相臨床試験を完了していると理解しています。実際、臨床医が言っていたことで引っかかったのは、mRNAワクチンを接種された患者の3人に一人は激痛に苛まれ、一日中正常な活動が妨げられたという話です。それは気になっています。

——モデルナについてどう思いますか。

モデルナのテクノロジーは驚異的だと思いますし、臨床試験が実施されることになってよかったと思います。これは新型コロナウイルスだけでなく、多くの疾患にとって重要なプラットフォームになる可能性があるでしょう。モデルナは今、本当に難しい局面を迎えていると思います。パンデミックの最中に新型コロナウイルスワクチンを開発し、ヒトを対象とする臨床試験をするというモデルナの決断は、どんな企業も簡単に真似できない大変なことだと思います。モデルナはこのプロジェクトで大きなリスクを取っているように見えます。それがうまく行くといいと思っています。

——被験者の報酬はいくらですか。

1回の受診につき100ドル、したがって臨床試験が完了するまで参加すれば、およそ1000ドルになると思います。

——あなたは個人的にCOVID-19の影響をどのように受けましたか。

ほとんどの人と同じように、このパンデミックは、在宅勤務、自主隔離、特にシアトルの住人であるといった点で、私の生活に混乱をもたらしました。それらの体験の全てが、私生活と仕事の間にある壁の一部を壊してしまったのです。多くの人がこのことを経験しています。研究室に持ち込まれる臨床サンプルの処理を買って出た科学者が大学にたくさんいることを知っています。臨床サンプルの処理は彼らの通常の仕事ではありません。人々は自分の仕事をシフトさせました。感染そのものは私の身近では起きていませんが、今は感染症を非常に身近に感じています。

——臨床試験の書類には、安全性試験は14か月継続すると書かれています。なぜこんなに長期にわたるのですか。もっと早く結論を出す必要があるのではないでしょうか。

3か月目までには安全性に関して決着がつく可能性があると聞いています。もし3か月目までに安全性を示すデータが明確になり、その頃もまだ新型コロナウイルスの問題が今と同じように続いていれば、すぐに第2相の臨床試験が始まると思います。しかし、この臨床試験をこれ以上早めることはできません。新しいワクチン候補がヒトに接種されるまでの期間としては、すでにこれが最短記録なのです。急かされている感じがしたことはありません。私が関わった人たちはみな落ち着いていて、非常にプロ意識が高かったです。

——ワクチンによって自分が守られる可能性はあると思いますか。

可能性はあると思います。しかし、研究者がやっていることの一部はさまざまな投与量の評価なので、自分が新型コロナウイルスへの免疫を獲得する近道だと思ってこの臨床試験に参加するわけではありません。

——同意書には、臨床試験に参加する被験者全員が避妊しなければならないことがはっきりと記載されていますこれはどういうことですか。

私も疑問に思っていましたが、いくつか考えられる説があります。私は避妊具を使用することを約束するよう明確に求められました。これは遺伝子ワクチンであることから、誰かが次世代のmRNAワクチンベイビーが生まれる可能性をなくしたかったからではないかと考えています。

——つまり、あなたの精子の中で、DNAが生殖細胞系列に組み込まれるおそれがあるということですか。

憶測ですが、そう思います。規制当局あるいはモデルナ自身が、その可能性があってはならないと考えているのではないかと想像しています。DNAの組み込みを可能にする分子機構があるかどうかに関わらず、その可能性を排除することが責任ある行動であるように思えます。

——このように自分が研究に直接役立つことがわかっているのは、どのような心境ですか。

私は自分の立場を幸運に思っています。参加するのに十分な健康状態であることは喜ばしいことです。大勢の参加者の中から自分が選ばれたことは幸運であり、私以外の多くの被験者も進んで試験に参加することを願っています。

——私たちは、ウイルスで参加者を「攻撃する」ことによってワクチンの研究をスピードアップさせるアイデアに関する記事を最近書きました。つまり、被験者を意図的に感染させるのです。それもあなたが進んでやりたいことですか?

今回の臨床試験ではそれはないことを言っておく必要がありますが、私がもっともよく受ける質問ですね。つまり、あなたはウイルスにさらされることになるのか? と。会話としては面白いと思います。責任ある行動であるかはどうかはわかりませんが、そのアイデアについても検討してはいます。仮に私が強力な免疫反応を起こしたことを試験が示していて、ウイルス曝露攻撃が医学的に有用であることを示す説得力のある事例があるのだとしたら、私はその議論に耳を貸したいと思います。

——あなたの母親はそれについてどう思うでしょうか。

母はその件についても心配するでしょうね。

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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