KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
新型コロナ対策「集団免疫」戦略が現実的でない理由
Davide Ragusa | Unsplash
Why simply waiting for herd immunity to covid-19 isn't an option

新型コロナ対策「集団免疫」戦略が現実的でない理由

英国のボリス・ジョンソン首相が以前に打ち出した、十分な人数が新型コロナウイルスに感染するのを待つ「集団免疫」戦略には大きな欠陥がある。集団免疫戦略がなぜ現実的な政策ではないのかを説明しよう。 by Gideon Lichfield2020.04.16

英国政府は以前、集団免疫が形成されるまで、十分な人数が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するのを待つという政策を打ち出していた。だが、それが誤りであることは多くの人が知るところだ。 英国政府は感染者数が増加する曲線の平坦化が容易であると過度に楽観視していたのだ。しかし、英国政府の考えは、思った以上に早く集団免疫を獲得できるかもしれないという推測に煽られて、一部では強い支持を得ていた。そのため、これまでに判明した事実に照らし合わせ、集団免疫の形成が実行可能な政策ではないことを理解することは重要である。

第1に、感染者が免疫を持つようになると仮定しても、免疫の持続期間は不明だ(一部のコロナウイルスや通常のインフルエンザの場合、免疫が維持できる期間は1年未満である)。第2に、免疫が維持されると仮定したとしても、集団免疫が形成されるまでにどのくらいの期間を要するかは不明である。

後者が不確実な理由は、新型コロナウイルスに関する複数の大きな不明点に起因する。

1つは、感染力の強さだ。感染率が低下し始めるには、ウイルスの感染力(1人の感染症患者が生み出す2次感染者数の平均値「R0」で表される)が強いほど、免疫を持たなくてはならない人数も増える。しかし、 R0 の推定値にはばらつきがある。推定では、集団免疫が形成されるには、 人口のおよそ2分の1から4分の3が新型コロナウイルスに感染する必要があることが示唆されている。

2つ目の不明点は、これまでの実際の感染者数だ。この点については推定値にさらに大きなばらつきが存在する。インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームの調査では、3月28日時点で、イタリアで判明している感染者数は10万人弱(人口の0.2%未満)だったのに対し、実際にはイタリア人の約10%がウイルスに感染しており、その大半は無症状か、軽症のため検査を受けていないと推定されている。50倍の差を示したこの推定値は、他で示された推定値よりもはるかに大きい。

3つ目の不明点は、感染者における無症状者の割合である。米国疾病予防管理センター(CDC)の公式見解では無症状者の割合は25%とされているが、一部の局地的なアウトブレイクに対する小規模調査では、無症状者の割合は50%近い可能性があると示唆されている。こうした調査は、新型コロナウイルスが既に遙かに広範囲に拡散しているという理論の裏付けとなるだろう。

とは言え、現在、実際の感染者数は把握できるほど十分な人数の検査はできていないため、上記の数値についてもまだまだ議論の余地が残っている。また、たとえ実際の感染者数が予想より遙かに多かったとしても、ワクチンや治療法が開発されるより早く自然の集団免疫が形成できるかどうかは依然として不明だ。いずれにせよ、当面の間は、医療システムを崩壊させないレベルまで感染率を抑え、あらゆる世代の医療従事者に深刻なトラウマを残さぬようにしなければならない。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
  2. Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
  3. Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
  4. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長。科学とテクノロジーは私の初恋の相手であり、ジャーナリストとしての最初の担当分野でもありましたが、ここ20年近くは他の分野に携わってきました。まずエコノミスト誌でラテンアメリカ、旧ソ連、イスラエル・パレスチナ関係を担当し、その後ニューヨークでデジタルメディアを扱い、21世紀のビジネスニュースを取り上げるWebメディア「クオーツ(Quartz)」の立ち上げにも携わりました。世界の機能不全を目の当たりにしてきて、より良い世の中を作るためにどのようにテクノロジーを利用できるか、また時にそれがなぜ悪い結果を招いてしまうのかについても常に興味を持っています。私の使命は、MITテクノロジーレビューが、エマージングテクノロジーやその影響、またそうした影響を生み出す人間の選択を模索するための、主導的な声になることです。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る