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経済再開へ向け検査拡充へ、加州「1日6万件」は達成可能か?
Brittany Hosea-Small/UC Berkeley
Can the US ramp up coronavirus testing? California will provide clues.

経済再開へ向け検査拡充へ、加州「1日6万件」は達成可能か?

カリフォルニア州は現在、新型コロナウィルス感染症の蔓延に伴う都市封鎖を解除して経済活動を再開させるために、検査体制を大幅に拡大しようとしている。検査の拠点や物資、人材の不足という深刻な課題を同州がいかに克服するか、注目に値するテストケースとなるだろう。 by James Temple2020.05.12

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック対策で、カリフォルニア州は米国のリーダー的存在だ。積極的な社会的距離政策(ソーシャル・ディスタンス)を早期に実施して感染拡大スピードを抑え、特に初期にアウトブレイクが発生した地域で死亡率を低く抑えた

しかし、検査体制では他州に遅れをとってきた。新たに大規模なアウトブレイクが発生するリスクを回避しながら都市封鎖を解除するにはまず、検査体制を大幅に拡大する必要がある。

「検査を受けたくても受けられない人が非常にたくさんいます」と語るのは、カリフォルニア大学バークレー校イノベーティブ・ゲノミクス研究所( Innovative Genomics Institute)のフョードル・ウルノフ所長だ。ウルノフ所長は、緊急救援対応担当者や診療所、州政府機関から次々と寄せられる、人々の生活に必要不可欠な業種の労働者や患者を検査する手段を求める問い合わせに対応し続けている。

全米でもっとも多くの人口を抱えるカリフォルニア州が自宅待機命令を緩和するには、大規模な検査の実施が欠かせない。ギャビン・ニューサム州知事は4月末、検査の実施件数を1日6万件から8万件に引き上げる必要があると発表した。直近7日間の平均検査数である2万5000件から大幅な増加だ。しかし、カリフォルニア州は目標の具体的な達成期限を設定していないばかりか、目標達成の方法や費用も具体的に示していない。

カリフォルニア州は、感染者が感染させた可能性がある人を一人残らず診断して隔離することを目指す接触者追跡計画も明らかにしている。しかし、その実現だけでも目標の検査数の半数以上が少なくとも必要になる。

カリフォルニア州が目標とする検査数を達成するには、検査に必要な物資と機器を確保し、検査が必要とされる場所に検査を届け、訓練された医療従事者を集めた検査チームを多数編成して州全体で検査を実施する必要がある。検査拠点は、人口密度の高い都市中心部と広大な農村地域の両方で増やす必要がある。どちらも政府当局に特定されることを不安を抱く不法滞在者が数多く暮らしている。

ニューサム州知事が示した目標検査数の下限である1日6万件という数値は、米国で都市封鎖を安全に解除するには10万人あたり1日152人以上を検査する必要があるというハーバード大学の研究者が以前に発表した見積もりと一致している。約4000万人の州民に対してこのベンチマークを達成し、世界第5位の規模の経済を勢いよく再始動することを目指すカリフォルニア州の取り組みは、アウトブレイクを乗り越えるために苦労している他の地域にとって光明となるかもしれない。しかし、うまくいかなければ取り組みの困難さを強調するものになるだろう。

検査拠点の拡充

新型コロナウィルス感染症追跡プロジェクト(The COVID Tracking Project)」の州別合計検査数のデータによると、5月3日時点でカリフォルニア州は約69万件で、ニューヨーク州の約96万件の次に多い。しかし、最近のヴォックス(Vox)の分析によると、人口100万人あたりの検査数ではコネチカット州、フロリダ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ペンシルベニア州、テネシー州をはじめとする他の多くの州より少ない。ニューヨーク州がこれまで実施した人口100万人あたりの検査件数はカリフォルニア州の3倍だ。

現在、カリフォルニア州では検査を患者に供給したり、または患者に検査場に来てもらったりするプロセスが、最大のボトルネックになっていると多くの専門家は考えている。このプロセスが規制上の制約や必要物資の不足、訓練された人材の不足で困難になっている。

まず、検査はすべて医師が申請する必要がある。そして現在、一次検査を実施できるのは訓練を受けた医療関係者のみであり、検査を実施する際には個人用防護具を着用し、検査用綿棒(スワブ)で鼻咽頭を拭う必要がある。そのような物資はすべて不足している。

カリフォルニア州は医療従事者の積極的な採用や検査拠点の拡充など、複数の側面で検査の高速化と拡大を図ってきた。

ニューサム州知事は最近、それまで検査が行き届いていなかった地域を中心に、州内各地に新たに検査拠点を90カ所近く追加する計画を発表した。

ミネソタ州エデンプレーリーに本社を置く検査会社のオプタムサーブ(OptumServe)は、今後数週間でカリフォルニア州全域で新たな検査拠点を80カ所開設する。また、アルファベット(グーグル)の子会社であるベリリ(Verily)は、農場で働く季節労働者や他の疎外されたグループを確実に検査できるように支援活動をしている非営利組織のCORE(Community Organized Relief Effort)と提携し、検査拠点を6カ所追加することに同意した。ベリリは現在、5月4日に始動したベーカーズフィールドとイーストサンノゼの検査拠点を含めカリフォルニア州各地で検査拠点を12カ所運営しており、今後2、3週間でさらに3拠点を追加する予定だ。

ベリリは3月中旬に、カリフォルニア州民がオンラインで症状を入力して検査の必要性を判定できるスクリーニングWebサイトの提供を開始し、現在の検査対象の基準を満たしているかどうかを医師が迅速に評価できるようにした。基準を満たしていると判定された人は、ベリリの検査拠点を車で訪れ、車の窓を開けて頭を後ろに傾けて、咽頭後壁まで挿入される鼻腔スワブの検査を受けられる。

検査を受けた人は、数日以内に検査が陰性であったことを示す電子メールを受け取るか、または医療専門家から陽性を知らせる電話連絡を受けることになる。陽性を示した人はその時点でカリフォルニア州の接触者追跡プロジェクトに参加することになる。

ベリリの新型コロナウイルス感染症サイトはすでに英語とスペイン語に対応しているが、同社はさらに対応言語を増やしていく。

ベリリは、MITテクノロジーレビューへの回答文書で、「当社はさまざまな集団やニーズに対するシステムのアクセシビリティを向上するために、さまざまな方法を積極的に模索しています」と述べた。

こうした新たに開設されたすべての検査拠点で1日あたり200人を検査できるとしても、1日の合計検査数はわずか1万9000件程度だ。しかし、このほかにも、ワン・メディカル(One Medical)のようなプライマリ・ケア提供業者、カリフォルニア大学バークレー校の大学保健サービス(University Health Services)のような大学医療システム、サンディエゴ家庭保健センター(Family Health Centers of San Diego)のような地域診療所など、カリフォルニア州各地の保健センターでも検査数は増えている。

加えて、カリフォルニア州は最近、医療保険未加入者と不法滞在者向けに無料の新型コロナウイルス感染症の検査と治療を提供するメディケイド(米国の公的医療保険制度)プログラムを承認した。低所得地域の診療所に直接物資を送る特別措置も実施している。

検査機器や物資の確保

世界中の多くの国、州、都市が同時に検査体制を強化しようとしている。そのため、世界中で検査関係の物資不足が深刻化している。

スタンフォード大学メディカルセンターの病理学教授でカリフォルニア州の検査実施対策本部のメンバーを務めるクリスティーナ・コングによると、カリフォルニア州は州内の豊富な生物医学的研究施設に頼る一方で、供給元へ直接依頼して州内での生産力を増強することで必要なサプライチェーンを維持している。

ニューサム州知事は4月に、ドナルド・トランプ大統領と電話会談してカリフォルニア州への毎週数十万本の鼻腔スワブの提供の約束を取り付けたと述べた。さらに、州の職員や対策本部のメンバーは、アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)やロシュ(Roche)などの企業と直接提携して大量処理が可能な検査機器を導入し、検体処理に必要な試薬やその他の資材を確保している。

一方、スタンフォード大学はカリフォルニア州レッドウッドシティのカーボン(Carbon)と直接協力して、3Dプリンタによる鼻腔スワブの生産に取り組んでいる。同大学では、長く柔軟な3Dプリント版スワブが主に海外で生産されている標準的スワブと同じように使えるかどうかを判断するために、直接比較研究を実施している。

「州内でスワブを製造できれば、国外の供給元を探す必要はありません」とコング教授は説明する。

オークランドに本拠を置く先進製造プロセス企業であるファトム(Fathom)も4月末に、カーボンが参加する学術団体と民間業界の連合による設計に基づいて、HPの3Dプリンターで鼻腔スワブの生産を開始した。同社は週に10万本を生産しているが、リッチ・スタンプ社長によると100万本まで増産できるといい、今後数週間でカリフォルニア州の施設にスワブを供給できるようになると見込んでいる。

カリフォルニア大学バークレー校イノベーティブ・ゲノミクス研究所が新型コロナウイルス感染症検査で検体採取後のスワブを分析するために導入した、ハミルトン(Hamilton)の液体ハンドリングロボット「STARlet」。

コング教授とスタンフォード大学の同僚であるジェームズ・ゼンダー教授は、カリフォルニア州は現在、検査実施に関しては比較的有利な立場にあると考えている。

3月上旬、カリフォルニア大学バークレー校のイノベーティブ・ゲノミクス研究所は新型コロナウイルス検査の処理に特化した診断研究室を急きょ立ち上げ、1日1000人以上の患者の検体をスクリーニングできるロボットシステムを導入した。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校も研究室を設立し、チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(Chan Zuckerberg Initiative)から資金提供を受けて活動を開始した。4月中旬の時点で、1日2600件以上の検体を処理し、24時間以内に結果を出す能力があった。同研究所はカリフォルニア州全郡の保健局のために無料で検体検査を提供している。

カリフォルニア大学デービス校、カリフォルニア大学サンディエゴ校、およびさまざまな民間検査会社も、検査のために研究室を設置したり拡張したりしている。

「このすべてのグループが規模拡大すれば、1日あたり8万件の検査の達成は比較的容易なはずです」と、スタンフォード大学メディカルセンターの病理学教授であるゼンダーはいう。

代替手段

しかし、検査自体が問題でなくなっても、検査を実施する医療専門家を見つけるのが困難な可能性がある。人員上の制約を緩和する1つの手段は、さまざまな種類の検査を実施することだ。

サンディマスに本社を置くスタートアップ企業のキュラティブ(Curative)は、敗血症の画期的な診断法を開発するために1月に会社を立ち上げたが、米国でのアウトブレイク発生に伴い新型コロナウイルス検査へと転換した。同社の検査では、被験者に咳をしてもらい採取した痰を含む口腔液を検体として使う。

キュラティブのフレッド・ターナーCEO(最高経営責任者)によると、医師から検査手順の訓練を受けた人の監督下で実施するという条件で、被験者は自分で口の内側をスワブで拭って検査ができる。

つまり、ドライブスルー方式の検査場で車の窓を閉めたままスワブで検体を採取し、バイアル(ネジ口ビン)に入れて提出箱に投入できるということだ。鼻にスワブを差し込む検査ほど不快ではなく、検査場にはそれほど高度な訓練を受けた職員は必要なく、需要の高いスワブの使用を減らせる。加えて、医療従事者との直接的なやり取りがなくなるため、個人用防護具のニーズも減らせる。

キュラティブはこれまでに12万5000件以上の検査を実施しており、現在では1日1万件を実行する能力がある。同社は現時点でロサンゼルスの検査の大部分を担当している。これが、ロサンゼルス当局が、ロサンゼルス市とロサンゼルス郡の全住民に先週から無料で検査を提供できるようになった一因だ

キュラティブの検査の信頼度はどうなのだろうか。

同社は、コロナウイルス感染症の指標として唾液が鼻腔ぬぐい液よりも優れている可能性があることを示唆する最近のイェール大学の研究を指摘する。しかし、これは査読前論文で、唾液を検体とする方法は依然として保健当局が推奨する方法ではない。コング教授をはじめとする一部の研究者は、唾液を検体とする検査が鼻腔ぬぐい液と同じくらい正確かどうか、特に初期または無症候性の感染者についてはまだ明確ではないという。

ターナーCEOは、キュラティブは米国食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可など、検査を生産および流通させるための規制当局の承認をすでに確保していると語る。同社は現在、自宅で検査を実施できるようにする許可を求めている。

「力技」以上の検査プロセスの合理化

カリフォルニア州は検査プロセスの面でも、別のテクノロジーに移行する必要があるかもしれないと考える研究者もいる。

新型コロナウイルス感染症の検査では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査が一般的だ。PCR検査ではウイルスの遺伝物質のコピーを数多く作成するため、時間のかかる一連の手順が必要となる。しかし、以前のMITテクノロジーレビューの記事で複数の著名なゲノム先進研究者らが主張したように、最近の研究の進歩を活用すれば検査プロセスを合理化できる可能性がある。同記事では、「DNAシーケンシング、遺伝子工学、産業オートメーション、高度コンピュテーション」を使用して、検査処理を桁違いに高速化する可能性が説明されている。

記事の著者の1人であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)化学・生化学准教授のスリ・コスリは、カリフォルニア州が「力技」で1日あたり6万件の検査実施を達成できることを願っているが、カリフォルニア州は力技以上の対策が必要かもしれないと考えている。多くの企業はビジネス再開時に従業員の健康を維持するために、毎週または毎日でさえ検査を義務付けたいと考えているからだ。

そのような規模の検査を実施するには、検体の収集と処理方法の見直し、高度な検査技術を検証、検証した技術の規制当局による承認の取得など、新型コロナウイルス検査の実施方法を広範囲に渡って変更する必要がある。

実際にどの程度の検査数が必要になるか、どのようなテクノロジーが必要になるかは明確ではないため、現時点では複数の手法に賭ける必要があるとコスリ准教授は言う。

検査体制を強化することで、カリフォルニア州は検査基準を緩和し、病人や現場の医療従事者だけでなく、感染の疑いのある無症状の人にまで検査を拡大できる。保健当局がそのような人を効率良く特定し、ウイルスの拡散を防げるようになって初めて、州はアウトブレイクを抑えることが可能となるだろう。

「これほど感染力の強いウイルスを制御するには、そのような検査体制と接触者追跡能力が不可欠です」とゼンダー教授はいう。

カリフォルニア州が財源、専門知識、および生物医学リソースを活用してこれを成功させることができるかどうか、注目に値するテストケースになるだろう。

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MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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