植物に病原菌や干ばつ耐性を与えられるRNA粘土シートを開発
ナノサイズの粘土シートに注入したRNAを使えば、遺伝子組換え作物を最初から開発するよりもずっと早く、さまざまな特性を食物に付けられるかもしれない。 by Jamie Condliffe2017.01.10
科学者は、作物への散布によって植物の遺伝子を抑え込むことで、植物は数週間にわたってウイルスに抵抗できることを実証した。
クイーンズランド大学(オーストラリア)の研究チームが、スプレー散布によって作物の葉にRNAを沈着させる手法を開発した。ナノサイズの粘土シートに注入したRNAを散布するのだ。シートが植物の葉にくっついて徐々に分解されると、RNAは植物に取り込まれ、内部の遺伝子を妨げて機能しないようにする。

2017年1月9日に『ネイチャー・プランツ(Nature Plants)』に掲載された論文によれば、研究チームは1回の散布でタバコが最長20日間もトウガラシ・マイルド・モットル・ウイルス(PMMoV)にやられずにすむことを示した。研究チームは、手法がうまく働いた理由を、粘土が葉にしっかりとくっつくことで、RNAができるだけ長く植物と確実に接触し続けられるからだ、と説明している。
もちろん、手法そのものは、植物を健康に育てようとする上で最初の事例ではない。たとえば、モンサントは以前、作物を台無しにする虫を標的にする独自のRNA散布を開発し、成果を上げた。この場合、RNAは害虫を殺すのであって、植物が害虫に耐性を持つわけではない。
モンサントの研究を紹介するにあたり、MIT Technology Reviewのアントニオ・レガラード記者が説明したように、遺伝子を抑え込むRNA散布には、いくつかの明白なメリットがある。 RNAスプレーは、遺伝子組換え作物の新種を作るより早く開発できるかもしれないし、複数の植物品種にまたがって利用できるかもしれない。散布の効果は一時的であることは、必ずしもデメリットとはいえない。たとえば、必要に応じて農家が遺伝子の働きを止められるメリットがある。
ニュー・サイエンティスト誌の記事にあるとおり、RNA散布には単に病気を予防する以外にも用途があり得る。干ばつへの耐性を持たせたり、熟成を促したり、遺伝的に制御された他の特質を活性化させたりするためにも使えるだろう。
ただしRNA散布の使用には問題を立ちはだかる。賛成派は、RNAは唾液や胃酸で速やかに分解するため、RNAが人間の食物連鎖に入っても問題はないというはずだ。一方、懐疑派は、確証がない以上、RNAにはまだ、動物や昆虫、他の植物の生命に脅威を与えうるというだろう。
従来の遺伝子組換え食品のように、有望な新しい手法であっても、幅広い支持を得るのに苦労するかもしれない。それがどれだけ有益であってもだ。
(関連記事:Nature Plants, New Scientist, “The Next Great GMO Debate,” “Monsanto Cultivates a Rose That Doesn’t Wilt”)
- 人気の記事ランキング
-
- Inside the tedious effort to tally AI’s energy appetite 動画生成は別次元、思ったより深刻だったAIの電力問題
- Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
- IBM aims to build the world’s first large-scale, error-corrected quantum computer by 2028 IBM、世界初の大規模誤り訂正量子コンピューター 28年実現へ
- What’s next for AI and math 数学オリンピックで「人間超え」のAIは数学者になれるか?
- What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法
タグ | |
---|---|
クレジット | Photograph by United Soybean Board | Flickr |

- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。