新型コロナQ&A:血液型は感染や重症化と関係しますか?
新型コロナウイルス感染症と血液型には関係があるのだろうか? 現時点での研究成果をもとに、読者からの質問に回答する。 by Neel V. Patel2020.07.20
MITテクノロジーレビューは、読者から多く寄せられた新型コロナウイルスに関する質問に答える記事を随時掲載します(他の記事もぜひご覧ください)。
◆◆◆
血液型によって新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しやすい、あるいは重症化しやすい傾向はあるのか? 新型コロナと血液型との関係はパンデミックの早い段階から注目されてきた。これまでに判明している事実を紹介しよう。
初期の証拠:中国の研究グループが、3月までさかのぼって武漢と深センの2173人の感染者の血液型を分析し、同地域の健康なグループの血液型分布と比較した。その結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の38%がA型であったのに対し、健康なグループではA型は31%にすぎないことが分かった。対照的に、O型はリスクが低下する結果となり、感染者グループが26%に対し、健康なグループは34%だった。さらに、新型コロナウイルス関連の死亡者に占める割合では、A型患者が他の血液型と比べてより多い結果となった。
コロンビア大学が実施した研究でも同様の結果が報告された。A型は新型コロナの検査結果が陽性となる確率が34%と高いのに対し、O型またはAB型は陽性結果が出る確率は低かった。
さらなる証拠:前出の中国の研究論文もコロンビア大学の研究論文も査読前のものだが、査読済みのゲノム研究論文が6月17日付のニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine:NEJM)で発表されている。イタリアとスペインで新型コロナウイルス感染症の入院患者1600人以上の遺伝子データが調査され、2200人の非感染者の遺伝子と比較された。その結果、新型コロナウイルス感染症の重症化に強く関連する2つの遺伝子領域の2つの遺伝子変異が発見された。2つの遺伝子領域の1つは、血液型を決定する領域だ。全体としては、新型コロナウイルスに感染した後に呼吸不全を発症するリスクがA型の患者は45%と高く、O型の患者は35%と低かった。
一方、このような血液型との関係を示す見解に異論を示す研究結果も出ている。ニューヨークプレスビテリアン病院(コロンビア・コーネル大学病院)とマサチューセッツ総合病院の研究者がそれぞれ、新型コロナウイルス感染症の患者数千人分の医療記録を見直した。ニューヨークプレスビテリアン病院の初期の結果では、A型の患者の方が人工呼吸器を使うリスクが低かったことが示されている。一方、マサチューセッツ総合病院の研究論文(査読済み)では、O型は新型コロナウイルス感染症に罹患する可能性がわずかに低いことが示されたが、全体的には血液型による病気の重症度や死亡率への有意な影響は見られなかった。
原因は不明:血液型が新型コロナウイルス感染症のリスクと何らかの関係があるとしても、その原因を科学者はまだ把握していない。前出のNEJMに発表された論文の著者は、A型およびB型を決めるタンパク質が免疫系の抗体産生に影響を与える可能性があり、結果としてA型およびB型は免疫応答が遅いのだろうとの仮説を立てている。また、血液型を決定する領域の遺伝子は、新型コロナウイルスがヒト細胞に感染するために利用するACE2受容体と何らかの関係があるのかもしれない。
懐疑論:上記の病院で実施された2つの研究の結果のほかにも、これまでに実施された初期研究には方法論上の欠陥がある。例えば、NEJMで発表された研究では、対照群(コントロールグループ)は主に献血者で構成されていた。献血者のグループは一般人口よりもO型が不釣り合いに多い(O型の血液はどの血液型の人にでも輸血できるからだ)。さらに、血液型は血液細胞自体の直接分析ではなく、正確性の劣る遺伝子に基づいた方法で推定された。
いずれにせよ、血液型は軽症患者と重症患者を分ける重要性の高いリスク因子ではないように思える。最大のリスク因子は依然として年齢と基礎疾患である。そして、O型の人も重症化しないわけではない。
(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧)
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
- Space travel is dangerous. Could genetic testing and gene editing make it safer? 遺伝子編集が出発の条件に? 知られざる宇宙旅行のリスク
- ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
- MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。