KADOKAWA Technology Review
×
【4/24開催】生成AIで自動運転はどう変わるか?イベント参加受付中
トランプ大統領が受けた「特別治療」、今後の承認にも影響か
AP Images
What drug treatments will President Trump get?

トランプ大統領が受けた「特別治療」、今後の承認にも影響か

高齢かつ肥満のトランプ大統領は重症化のリスクが高いが、最先端の実験的な治療法を自ら選べる権限を持っている。今後の治療法の承認や普及にも影響を与えそうだ。 by Antonio Regalado2020.10.06

新型コロナウイルス検査で陽性が判明した米国のドナルド・トランプ大統領は、判明から24時間以内に他の米国人には利用できない実験的かつ最先端の抗体治療を受けた。

10月2日にホワイトハウスが発表した声明によると、トランプ大統領は、有望な新種の抗ウイルス薬を「単回・8グラム」投与するバイオテクノロジー治療を受けたという。

ホワイトハウスのショーン・コンリー医師は、緊急治療を受けた後の大統領について、「疲労は見られるものの、気力に満ちています」と説明。「トランプ大統領は専門家チームに診断されており、われわれは一丸となって大統領と大統領夫人に今後最善のステップを提案しています」と述べた。

陽性反応が出たトランプ夫妻が、一般市民には利用できない実験薬など、国が提供できる最高の医療を受けられることは確実だった。

ホワイトハウスによると、トランプ大統領は、ニューヨーク州タリータウンの製薬会社リジェネロン・ファーマシューティカルズ(RegeneronPharmaceuticals)製の抗体カクテルの点滴を受けたという。強力な免疫反応を模倣して、COVID-19の重篤な症状を回避する治療法だ。

74歳で肥満体のトランプ大統領は、重症化リスクが平均的な患者よりもかなり高い。74歳の死亡率は5%以上という決して低いものではなく、30歳未満の90倍にもなる。

トランプ大統領にどのような薬を投与すべきか、すばやく決定するにあたり、医師団はいくつかの厳しい決断に迫られた。これまでホワイトハウスによって不透明化されてきた医学的エビデンスを評価しなければならない上に、トランプ大統領自身が漂白剤のようなニセ治療に興味を示したり、医療当局に疑念を抱いたり、はたまた呪術を信じる医師の発言を拡散してしまうような患者だからだ。

マーク・メドウズ大統領首席補佐官によると、トランプ大統領の症状は「軽症」だという。通常はCOVID-19の症状が深刻化する場合には数日かかり、入院しない限りはリスクの低い「外来患者」に分類される(日本版注:トランプ大統領は2日、米軍医療センターに入院したが、あくまでも予防的措置だという)。

外来患者向けに使用を認可されたCOVID-19治療薬はないため、この段階ではほぼすべての米国人は様子見するよう言われる。血漿(けっしょう)療法と抗ウイルス薬のレムデシビルの2種類の治療法に緊急使用許可が下りているが、これらは入院患者のみが対象だ。

ただし、トランプ大統領は「ただの人」ではない。そのため、大統領医師団は未承認でも有望な実験薬を検討し、入手できるだろう。メラニア夫人を含む側近の陽性者にも同じことが言える。

米投資銀行レイモンド・ジェイムス(Raymond James)の製薬会社担当アナリストは10月2日午前、トランプ大統領が受ける「可能性が最も高い」と見られる実験的治療を評価するメモを顧客に提供した。リストの先頭にあったのは、現在も治験が実施されているリジェネロンの抗体医薬品だった。

アナリストの予想は当たった。10月2日の午後までに、ホワイトハウスは「大統領はすでに治療を受けている」との声明を発表した。

リジェネロンが製造する抗体医薬品 は、ウイルスを捕まえて戦った人々の体内で産生される抗体に類似している。人工抗体の濃縮薬は点滴で投与されると、ウイルス粒子を捕まえ、それらを中和するように設計されている。

抗体医薬品に期待されているのは、トランプ大統領のような患者に早期に投与することで、肺炎の重症化や死に至るような進行を食い止められるかもしれないことだ。

リジェネロンは300人近くの外来患者を対象とした研究で、抗体治療が患者の体内のウイルス量を減少させたと発表している。また、投与された患者が入院に至る可能性が低いことも示されており、最も期待される新薬候補の1つになっている。イーライ・リリー(Eli Lilly)も同様の抗体医薬品を開発し、治験を実施している。

10 月2日午前にMITテクノロジーレビューがリジェネロンに問い合わせた時点では、ホワイトハウスがREGN-COV2抗体薬の使用を要請したかどうか明言しなかった。広報担当者のアレクサンドラ・ボウイは、「ポリシーの問題として、治療薬の使用を申請した、または申請していないということを、本人の同意なしに公開することはありません」と回答した。

リジェネロンの薬は承認されていないが、治験に参加していない人が特別な状況で治療を受けられる「コンパッショネート・ユース(人道的使用)」制度を多くの企業が運営しており、まさにこの制度こそがトランプ大統領がこの薬を使えた理由だ。

「特定の例外的な状況下、個々の場合に応じて認可されるコンパッショネート・ユースの申請に利用できる製品は限られています」とボウイは回答した。米国食品医薬局(FDA)もまた、トランプ大統領の治療申請を迅速に承認しなくてはならなかったのだろう。

リジェネロンは、トランプ大統領の治療に至った一連の出来事を説明することを差し控えたが、大統領の申請を断るのは容易ではなかったはずだ。リジェネロンのレオナルド・シュリーファー創業者兼CEOは今年3月にホワイトハウスの会議に招聘されており、トランプ大統領と親しい関係にあるようだ。

ここで確かなのは、トランプ大統領が服用している薬の製造会社にとって、大統領のツイッターが大規模な宣伝になる可能性があるということだ。10月2日の出来事はまた、リジェネロンの薬の緊急承認を加速させ、より多くの人が利用できるようになる可能性もある。

医師がトランプ大統領のために考慮しなければならないもう1つの薬は、ギリアド製薬(Gilead Pharmaceuticals)のレムデシビル(remdesivir)だ。トランプ大統領のように、陽性診断が出たばかりの患者への有効性は示されておらず、入院患者にしか使用が認められていない。だが、現職の大統領の場合、医師はリスクと便益を通常とは異なる方法で判断しなければならないだろう。

トランプ大統領が、自身の治療について発言権を持っていることも忘れてはならない。トランプ大統領は、医学的な情報源よりも党派的な情報源からの助言を受け入れる傾向にあるため、予想がつかない。例えば大統領は5月に、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)を服用していることを発表し、ルドルフ・ジュリアーニなどの保守関係者がこの抗マラリア薬をCOVID-19の治療法として宣伝した。

トランプ大統領の主治医であるショーン・コンリー医師は、大統領がヒドロキシクロロキンを服用していたことを後に認めたが、大方の専門家はこの薬は感染症を予防したり治療したりするものではないとしている。

コンリー医師は、トランプ大統領が全ての医学的な困難を打ち破って、COVID-19との戦いを乗り切るだろうと断言した。コンリー医師は、大統領夫妻の診断を認めた短い声明の中で、「ご安心ください、大統領は回復しながらも職務を中断することなく遂行し続けることでしょう」と述べた。

実際にそうなるかどうかは誰にも分からないが、リジェネロンの抗体医薬品を投与するというすばやい決断は、大統領にとっての最善のチャンスだったかもしれない。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. The problem with plug-in hybrids? Their drivers. プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #28 「自動運転2.0  生成AIで実現する次世代自律車両」開催のご案内
  3. How to reopen a nuclear power plant 廃炉から復活へ、米国で異例の原発再稼働に道筋
  4. 10 Breakthrough Technologies 2024 MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. The problem with plug-in hybrids? Their drivers. プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #28 「自動運転2.0  生成AIで実現する次世代自律車両」開催のご案内
  3. How to reopen a nuclear power plant 廃炉から復活へ、米国で異例の原発再稼働に道筋
  4. 10 Breakthrough Technologies 2024 MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る