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危機はどう始まったのか?
WHO調査でも謎に終わった
新型コロナの発生源
Ms Tech | Getty, Unsplash
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No one can find the animal that gave people covid-19

危機はどう始まったのか?
WHO調査でも謎に終わった
新型コロナの発生源

世界保健機関(WHO)と中国の共同調査団が、新型コロナウイルスの発生源に関する調査報告書を発表した。原因は食用動物か、研究所からの流出か? 発生から1年経った今でも明確な答えは出ていない。 by Antonio Regalado2021.04.14

冷凍されたセンザンコウから未知の新しいウイルスに感染してしまった野生動物の取引業者。コウモリのウイルスを研究している際に、誤って生物学的安全キャビネット内の空気を吸い込んでしまった研究員。肥料に使うために、洞窟でコウモリの鳥糞石を収集した後に突然病気になってしまった人——。

こうした状況のいずれかが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)のきっかけとなったのだろうか?

現在、中国と世界保健機関(WHO)が共同で編成した国際調査団が新型コロナウイルス感染症の発生源を調べており(日本版注:本記事は3月26日に執筆された)、調査団はまさにこうした問題に直面している。これまでに分かっているのは、キクガシラコウモリの体内に見られるウイルスと非常によく似たコロナウイルスが人間に飛び火し、2019年12月までに中国の武漢市に現れたということだ。そしてそこから、21世紀最大の健康危機が勃発したのだ。

しかし、調査団が決定的な詳細を解明できていないのも事実だ。実際にキクガシラコウモリ由来のウイルスだったとして、数百キロメートルも離れた洞窟に住んでいる生物から、一体どのように人間の体内に侵入したというのだろうか?

調査団は、300ページにわたる報告書をまもなく公表する予定だ(日本版注:3月30日に公表された)。報告書は、アウトブレイクの初期段階の様子や、感染源を突き止めようとする中国の取り組みについて、判明したことを全てまとめた内容となる予定である。この内容は、現在優勢となっている仮説をより強固なものにするだろう。すなわち、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が、武漢の市場で食材として売られていた野生生物などの『中間宿主』を介してコウモリから人間に感染した」という仮説である。

これは妥当な仮説だと言えるだろう。これまでに、他のコウモリのコロナウイルスも同じ方法で人体に侵入している。事実、SARSコロナウイルスも中間宿主を発生源としていた。SARSコロナウイルスは新型コロナウイルスに似たウイルスで、2003年に中国南部から広まって8000人の患者を出し、世界中をパニックに陥れた。SARSの場合、研究者が市場でカゴに入れられていた動物を検査したところ、ヒマラヤに生息するハクビシンやタヌキが持つウイルスとほぼ同じウイルスが発見された。それらの動物も地元で食材として利用されていた。

しかし、新型コロナウイルスの場合、中間宿主の仮説にはひとつ大きな問題がある。新型コロナウイルス感染症の発生から1年以上が経過しているにもかかわらず、パンデミックを引き起こしたウイルスの宿主として、いかなる食用動物も特定されていないのだ。調査団の中国側の責任者であるリャン・ワンニアン博士によると、中国はブタやヤギ、ガチョウなどの数百万匹の動物を検査したという。それにも関わらず、新型コロナウイルスの「直接的な祖先」を特定した者は誰もおらず、ゆえにパンデミックは「未解決の謎のまま」であると、リャン博士は述べている。

政治的背景

新型コロナウイルス感染症のパンデミックがどのように始まったかを解明することは重要だ。なぜなら、250万人以上が亡くなり、数兆ドル規模の経済損失を出しているにもかかわらず、パンデミックはいまだ終息していないからだ。野生のウサギや家庭で飼われているペットまでもが、新型コロナウイルスの新たな宿主として定着している可能性がある。パンデミック開始当初の状況を知ることは、保健の専門家が次のパンデミックを回避する、あるいは少なくとも対応を早めるのに役立つだろう。

ウイルスの発生源の特定に確かな恩恵があることは分かっている。2003年のSARSの感染爆発を受け、研究者たちは、同じような種類のウイルスに関する大規模な知識ベースを構築し始めた。この知識ベースは、2020年初頭の新型コロナウイルスワクチン開発の際に大いに役立った。実際に中国企業のシノバック・バイオテック(Sinovac Biotech)は、SARSのアウトブレイク終息後に棚上げされていた16年前のワクチン製造法を再利用した。

しかし、コウモリウイルスに関する研究が衝撃的な形で裏目に出てしまったのではないかと心配する声もある。そうした人々からは、驚くべき偶然の一致が指摘されている。すなわち、コウモリが保有するSARSコロナウイルスに似た危険なコロナウイルス(SARS-CoV-2との関連が見られる)の研究における世界的な中心地である中国科学院武漢ウイルス研究所が、パンデミックが最初に発生した場所と同じ市内にあるという偶然である。心配の声を上げる人々は、研究所からうっかりウイルスが流出し、その結果として新型コロナウイルス感染症が引き起こったのではないかと疑念を抱いている。

「研究所が防ごうとしていたパンデミックを引き起こしてしまった可能性はあるでしょうね」。ホワイトハウスで大統領副補佐官(国家安全保障担当)を務めていたマシュー・ポッティンジャーはそう語る。SARSのアウトブレイク時に中国でジャーナリストとして活動していたポッティンジャーは、「ウイルスが研究所由来である可能性はかなり高い」が、中国政府はそれを認めようとしていないのだと考えている。このため、中国政府とWHOの共同調査は「信頼できる調査としてはまったく不十分」なのだと言う。

確実なのは、パンデミックの原因特定のための調査が政治的な動機に基づいているということだ。なぜなら、調査によって世界的な大惨事の責任の所在が明らかになる可能性があるからである。2020年の春以降、ドナルド・トランプ前大統領が「中国ウイルス」と呼んだ病原体の発生源を突き止める試みは、米中貿易戦争の中で集中砲火を浴びている。米国は、WHOが中国政府の言いなりになっているとして非難している。一方で中国は、自国以外にも責任を負わせる機会をうかがっている。中国の研究者たちは、新型コロナウイルス感染症の起源がイタリアにあるという説や、冷凍肉に付着した状態で武漢に輸入されたという説を持ち出している。これらの「コールドチェーン」説は、ウイルスの起源や自国への非難を、中国国境のはるか向こうに追いやれる可能性がある。

こうした政治色に満ちた状況の代償の一つとして、WHOのウイルス起源調査団が現地に到着するまでに丸1年が経過してしまった。調査団が到着したのは今年1月だったが、その活動には厳格な監視がついて回った。「1年もかかりました。なぜそんなにかかったのか、問いただす必要があります」。かつてWHOの疫学者として中国で活動し、SARSのアウトブレイクの起源解明にも協力したアラン・シュナー博士はそう語る。その1年間で、記憶は薄れ、抗体も減少し、重要な手掛かりが失われた可能性がある。

初期の手がかり

共同調査団は、WHOが任命したメンバーと中国から派遣されたメンバー計15名で構成されており、獣医や疫学・食品安全の専門家も参加している。「何人ものシャーロック・ホームズがルーペと綿棒を携えて調査に着手した、というのが一般的な見方でしょう」。メンバーの1人で、英国の疫学者であるジョン・ワトソン教授(訳注:「シャーロック・ホームズ」シリーズの語り手であるワトソン博士と同姓同名)は、王立国際問題研究所(チャタムハウス)が今年3月に開催したウェビナーでそう語った。「ところが、実態はそのような状況ではありませんでした」。

代わりに、中国政府とWHOは2020年夏、中国で実施された一連の科学的調査について合意した。国際調査団が今年1月に武漢を訪問 …

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