KADOKAWA Technology Review
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接種中止のJ&J製ワクチン、データ不足で再開メド立たず
Paul Hennessy, Sipa USA via AP Images
Why is it so hard to review the Johnson & Johnson vaccine? Data.

接種中止のJ&J製ワクチン、データ不足で再開メド立たず

重篤な副反応が報告されたことから、米国でジョンソン・エンド・ジョンソン製新型コロナワクチンの接種が一時中止となった。当局には速やかな再開の判断が求められる一方、データ不足によって安全性を検証する作業が困難になっている。 by Cat Ferguson2021.04.19

1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、まれに深刻な副反応が報告されていることを受け、米保健当局の諮問委員会は詳しく検証するよう勧告した。このワクチンの未来は今のところ不確かなままだ。

米国疾病予防管理センター(CDC)と米国食品医薬品局(FDA)は4月13日、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種中止を勧告した。同ワクチンを接種した6人が、(通常は血栓が起こりにくくなる)血小板減少を伴うまれな脳の血栓症を発症し、1人が死亡したのを受けての措置だ。

CDCの諮問委員会は本件の状況について議論した後、情報収集と検証をする間、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種停止は少なくとも1週間続くだろうと発表した。

「完全なデータが得られることはなく、不確実性は常に存在し続けるでしょう」とスタンフォード大学の教授であり、CDCの諮問委員会である新型コロナ感染症ワクチン安全性テクニカル・サブグループ(Covid-19 Vaccine Safety Technical Subgroup)のグレイス・リー議長は、4月14日に開いた会合で述べた。「現実的に重要なのは、より優れたリスク評価をすることだと思います」。

諮問委員会のメンバーは、合併症のリスクが最も高い人々を特定し、そのリスクを、新型コロナウイルスに感染して感染を拡大させるリスクと比較するため、さらに時間をかけてデータを収集・評価してから再び会合を開くことで合意した。

ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの大規模接種を開始した後、症状が報告された6人はすべて女性だった。報告されているもう1件(男性1人)の症状は治験中に発生した。血栓症を発症した患者は18~48歳で、うち数人は血栓症の治療によく使われる抗凝血剤のヘパリンが投与されたが、投与後に病状が悪化している。ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチン接種後の血栓症は、アストラゼネカ(AstraZeneca)製の新型コロナワクチンの副反応とみられる血栓症に酷似している。アストラゼネカ製ワクチンについては、欧州の多くの国がすでに規制しており、使用を中止した国もある。いずれのワクチンにも、活性成分を細胞に届けるベクターとして、複製能をなくした改変アデノウイルスが使用されている。

ただ、全く異なる手法を用いる他の治療法が存在することから、専門家らは、より多くの情報が得られるかどうかを確かめるまで、結論を先送りにするのが賢明だとしている。ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは米国内のワクチン接種回数1億9500万回のうち、わずか750万回で使われていない。アデノウイルスではなくmRNAを使用するファイザー/バイオンテック(BioNTech)製ワクチンとモデルナ(Moderna)製ワクチンが残りを占める。

「完全なデータが得られることはなく、不確実性は常に存在し続けるでしょう。現実的に重要なのは、より優れたリスク評価をすることだと思います」。

「ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種を続けるリスクとメリットは単独では検証できません」。シカゴにあるルーリー小児病院(Lurie Children’s Hospital)の生命倫理学者であり、ノースウェスタン大学の准教授を務めるシーマ・シャーは話す。「代替手段が存在するのであれば、少なくともFDAがこの件について検討する間は、それらの代替手段を人々に勧めるのが合理的でしょう」。

しかしながら、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種が再開されたとしても、誰もが接種できるようになるわけではない可能性がある。ワクチンは、病気の患者を治療するものではなく、健康な人に投与するものなので、安全性の確保がとりわけ重要だ。また、ワクチン接種によるメリットまたはリスクが最も大きいグループをうまく見極めることで、グループ別に接種を推奨できるようになる可能性がある。例えば、複数の欧州連合(EU)加盟国は、ワクチンの合併症のリスクが高い可能性がある若者ではなく、新型コロナ感染症の合併症のリスクが高い高齢者にアストラゼネカ製ワクチンを使用すべきだと勧告している。

「結局のところ、重要な問題は、あなたが30歳の女性だとすれば、ワクチンを接種することで、こうした悪いことが起こるリスクがどれだけ高まるのか、ということです」と、カリフォルニア州の新型コロナ感染症科学的安全性審査ワークグループ(Covid-19 Scientific Safety Review Workgroup)の議長であり、CDCのワクチン諮問委員会の元メンバーであるアーサー・レインゴールド医師は述べる。

ただ、諮問委員会がどのデータを検証して最終決定を下すのかというのが難しい問題だ。

包括的なデータは存在しない

重篤な副反応の問題はすぐに発見されたことに加えて、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは今までのところ米国でのみ接種が開始されていた(同社は欧州連合諸国へのワクチン提供を遅らせるとしていた)ため、判断に必要な情報が限られている可能性がある。米国の医療データは非常に断片化されているので、決定を下すのが難しいかもしれない。

国営の医療システムが存在しない米国では、ワクチン接種者のグループ別のリスクとメリットを評価する包括的な手段がない。連邦政府は、患者のデータとワクチンの記録を結び付けることができない。その代わりに、規制当局が期待しているのは、臨床医が今回のワクチン接種中止について耳にすることで、これまでワクチン接種に関連付けられていなかった事例を積極的に報告するようになることだ。

「今回の措置により、一部の臨床医が、『大変だ、3週間前にジョーンズさんに同様の症状が見られた』と気づく可能性があります」とレインゴールド医師は語り、次のように付け加えた。「過去2週間以内にワクチンを接種した人がまだ大勢います。その中からこのまれな副反応を発症する人が出てくる可能性もあります」。

自主的な報告体制は時代遅れに感じるかもしれない。だが、現在調査が進められている6件の事例は、ワクチン副作用報告システム(Vaccine Adverse Events Reporting System:VAERS)というオンラインデータベースを通じて、自主的にCDCに報告されていた。VAERSは、医療従事者、患者、介護者がワクチンの潜在的副反応について、政府に通知できる公開Webサイトだ。

VAERSは非常にオープンなシステムだが、オプトインでの参加を必要とするため、VAERSのデータを用いて正確なリスクを算出することは不可能だ。疫学者は通常、疑惑を裏付けるのに使用できる情報源ではなく、ワクチンと副反応を結びつける仮説を見つける場としてVAERSを利用している。

「VAERSは大雑把なシステムです。ワクチンへの関連付けが生物学的に妥当であるかどうかにかかわらず、誰でも何でも報告できます」と、新型コロナ感染症ワクチンの一般使用について検討したFDAのワクチンおよび関連生物学的製剤諮問委員会(Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee)のメンバーであるマーク・ソーヤー医師は話す。「今なすべきことは、情報を分析し、本当に兆候があるかどうかを見極めることです」。

国営の医療システムが存在しないのであれば、次善の策として、インハウスで患者に医療を提供する米国の医療保険会社のコンソーシアムであるCDCワクチン安全性データリンク(Vaccine Safety Datalink:VSD)を使う手がある。VSDは約1000万人の患者の記録を保持する。だが、あいにくVSDには、これまでわずか11万3000回分のジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種しか記録されていない。

「他の監視システムが問題を検出するには、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種数が十分ではありません。あまりにもまれな事例です」とレインゴールド医師は述べる。「VAERSや他の受動的な報告システムしかないのであれば、できるだけのことをするしかありません」。

4月14日に開催された会合で議論されたように、今回の接種中止には多くの倫理的かつ実際的な問題がある。ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは1回の接種で済み、冷凍保存の必要もないため、医療を受ける機会が限られている人々に提供しやすい利点がある。一方で、諮問委員会の他のメンバーは、接種中止が長引けばワクチン接種をためらう人が増えるとする懸念を表明した。

とりわけ、会合の参加者の多くが、グループ別のリスクの詳細に関して利用可能なデータが少ないことを問題に掲げていた。

「これ以上多くの情報が得られない可能性もありますが、それでも決定を下す必要があります」とスタンフォード大学のリー教授は会合で述べた。「ですが、1~2週間以内に、より確固たる形でリスクを見定められるようになることを期待しています」。

この記事は、「パンデミック・テクノロジー・プロジェクト」 の一部であり、ロックフェラー財団の支援を受けています。

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MITテクノロジーレビューのパンデミック・テクノロジー・プロジェクト担当調査記者。カリフォルニア州オークランドを拠点に、新型コロナウイルス感染症との戦いにおけるテクノロジーの利用について取材している。バズフィード、ザ・ヴァージ(the Verge)、ベイエリア・ニューズグループ、リトラクション・ウォッチ(Retraction Watch)などにも寄稿。
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