KADOKAWA Technology Review
×
病気の遺伝リスクを妊娠前に予測、米新サービスに賛否
Ms Tech | Unsplash, Getty
生物工学/医療 Insider Online限定
This spit test promises to tell couples their risk of passing on common diseases

病気の遺伝リスクを妊娠前に予測、米新サービスに賛否

スタンフォード大学の科学者などの支援を受けているスタートアップ企業が、統合失調症や糖尿病、がんなどの一般的な病気が子どもに遺伝するリスクを計算する、カップル向け多遺伝子リスク・スコアの提供を開始した。こうした検査の提供が福音となる人々がいることは確かだが、科学的および倫理的な問題点も多く指摘されている。 by Emily Mullin2021.04.28

新しいスタートアップ企業オーキッド(Orchid)は、子作りを計画中のカップル向けに、生まれてくる子どもにアルツハイマー病、心臓病、1型および2型糖尿病、統合失調症、数種類のがんなどの一般的な疾患が遺伝するリスクを知る機会を提供している。

現在、広く利用可能な着床前検査では、将来生まれてくる子どもが単一遺伝子の突然変異によって引き起こされる特定の遺伝性疾患を発症するリスクがあるかどうかがわかる。しかし、嚢胞性線維症のうほうせいせんいしょう、鎌状赤血球症、およびテイ・サックス病をはじめとする、単一遺伝子疾患は比較的まれだ。

一方、オーキッドの検査では、複数の遺伝子の組み合わせによって引き起こされる、はるかに一般的な病気を調べる。その組み合わせは数百にのぼることが多い。カップルは自宅で唾液サンプルを試験管に入れて郵送すると検査を受けられる。オーキッドは両親のそれぞれのゲノム配列を解析し、調査対象の病気を持つ人と持たない人のデータセットを使用してリスクを計算する。その結果は、多遺伝子リスク・スコアと呼ばれている。

オーキッドは2021年内に、胚(受精卵)検査の提供も開始する予定だ。体外受精(IVF)で得た胚からいくつかの細胞を取り出し、そのDNA配列を解析し、同様のリスク・レポートを作成する。IVFをしているカップルは、すでに胚検査で染色体異常や単一遺伝子疾患について知ることができるが、オーキッドの検査で検査対象となる疾患数が大幅に増える。

オーキッドは、スタンフォード大学の科学者からの支援と、消費者向け遺伝子検査を提供する23アンドミー(23andMe)を含む投資家から450万ドルの資金を調達し、2021年4月に検査の提供を開始した。

「子どもを持つことは多くの場合、最も重要な選択ですが、両親は、生まれてくる子どもに遺伝的リスクがどのような影響を及ぼすかについてまったく知識がない状態で妊娠します」。オーキッドの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるヌール・シディキはプレスリリースで述べた。

スタンフォード大学を卒業したコンピューター科学者のシディキCEOの考えでは、この検査によって例えば、生まれてくる赤ちゃんに糖尿病の発症リスクが高いことを知ったカップルは、その情報を利用して子どもの発症リスクを軽減できる。低糖食を取り入れたり、定期的な健康診断を受けたりできるかもしれない。もう一つの選択肢として、IVFをして、オーキッドの検査で糖尿病のリスクが最も低い胚を選ぶこともできる。

オーキッドの検査は、特に糖尿病、統合失調症、または同社が調べる他の疾患の一つを発症しやすい家系のカップルにとっては、魅力的な将来展望かもしれない。しかし、これらの病気の多くの遺伝的性質は複雑であり、まだよくわかっていない。

そのため多くの専門家は、多遺伝子リスク・スコアはまだ広く利用される段階にはないと考えており、オーキッドのような企業が不安を抱えるカップルにテクノロジーを誇大宣伝しているのではないかと懸念している。

単一遺伝子を超えて

一般消費者向けの多遺伝子検査の導入はほぼ避けられないように思える。利用可能なDNAデータの量が急増しているおかげで、統合失調症やその他の複雑な病気のリスク・スコアの算出は改良されている。研究者は数十万人の膨大な遺伝子データベースを使用して、糖尿病、うつ病、肥満、および特定のがんの発症リスクを推定するアルゴリズムを開発している。

別のスタートアップ企業、ゲノミック・プレディクション(Genomic Prediction)は、2019年に多遺伝子リスク・レポートの提供を開始し、IVFをしているカップルの胚を検査している …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Inside the tedious effort to tally AI’s energy appetite 動画生成は別次元、思ったより深刻だったAIの電力問題
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
  3. IBM aims to build the world’s first large-scale, error-corrected quantum computer by 2028 IBM、世界初の大規模誤り訂正量子コンピューター 28年実現へ
  4. When AIs bargain, a less advanced agent could cost you 大規模モデルはやっぱり強かった——AIエージェント、交渉結果に差
  5. What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る