KADOKAWA Technology Review
×
12/16開催 「再考ゲーミフィケーション」イベント参加受付中!
MS TECH | PEXELS
気候変動/エネルギー 無料会員限定
We’re on track to set a new record for global meat consumption

止まぬ世界の肉食化、ゲイツ「人工肉移行論」では解決しない

車や飛行機を使わず、肉食をやめよう、といった環境問題専門家たちの呼びかけは、現在の状況を考えれば幻想に過ぎない。では「肉」をどうすればいいのか。代替肉の生産なのか、メタンの排出の原因となる家畜のゲップを抑制する飼料添加物や、穀物ではなく牧草由来の飼料に変えるべきなのか。 by Alex Smith2021.05.07

「富裕国は、人工肉に100%切り替えるべきだと思います」。今年の初め、ビル・ゲイツがこう発言したことが話題になった。MITテクノロジーレビューがゲイツの新著『How to Avoid a Climate Disaster(気候災害を避ける方法)』についてインタビューした時のものだ。ゲイツは、米国人にこれ以上、牛肉や羊肉のような赤身の肉を食べてはいけない、と伝えることは政治的に難しいと認めながらも、ビヨンド・ミート(Beyond Meat)やインポシブル・フーズ(Impossible Foods)といった企業が提供する植物由来の代替品に大きな可能性を感じていると語った。

にもかかわらず、世界の食肉消費量は2021年に過去最高となる見通しだ。国連食糧農業機関(FAO)は、2021年の世界全体の食肉消費量の伸び率は1%以上増加すると予測している。国民の所得が着実に増えている低・中所得国において特に急速に成長する見込みだ。

食肉消費量の増加は、温室効果ガスの排出量の増加を伴う。食糧生産による世界の排出量は2050年までに60%増えると想定されているが、その大きな原因が家畜生産の増加だ。

しかし、人々の好みを肉食から逸らすようにしたとしても、その傾向が逆転する可能性は低い。米国では数十年にわたる健康キャンペーンの結果、人口1人当たりの牛肉消費量は大幅に減っているが、それでも他のほぼすべての国よりも高い水準を保っている。

肉を食べない方法の代わりとして、政治家や環境団体は、代替タンパク源の開発に加え、環境負荷が少ない家畜生産方法の開発も支援していくべきだ。これら2つの分野でのイノベーションこそが、農業による環境負荷を急速かつ最大限に減らしながら、世界中の人々が食べたいものを食べられる状態を維持する方法なのだ。

代替肉の恩恵は限定的

ゲイツの言う通り、代替肉は確かに家畜の飼育から生じる問題の一部を軽減できる。植物由来肉のカーボン・フットプリント(原料の調達・廃棄・リサイクルの間に製品が排出する二酸化炭素量)は牛肉や豚肉のそれよりも小さく、鶏肉などの家禽と同程度だ。培養肉(「栽培肉」「研究室育ちの肉」「細胞由来肉」などとも呼ばれる)のカーボン・フットプリントはまだ正確には分からないが、牛肉よりも炭素集約度が低く、クリーン・エネルギーで生産した場合には鶏肉と同程度になる可能性を示す初期研究のデータが発表されている。

代替肉の恩恵は他にもある。一般的に、土地利用や森林破壊が少なくて済み、生物の多様性が守られ、空気や水の汚染も少ない。また、抗生物質耐性や人獣共通感染症のリスクが軽減され、赤身肉の消費に伴う公衆衛生の負担や動物福祉への懸念も減る。

だがビヨンド・ソーセージ(Beyond Sausage)やインポッシブル・バーガー(Impossi …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. 3 things that didn’t make the 10 Breakthrough Technologies of 2025 list 2025年版「世界を変える10大技術」から漏れた候補3つ
  2. OpenAI’s new defense contract completes its military pivot オープンAIが防衛進出、「軍事利用禁止」から一転
▼Promotion 再考 ゲーミフィケーション
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る