テクノロジーで明らかになる
古代都市の人々の暮らし
最近のテクノロジーの進歩は、都市に対するこれまでの一般通念を覆すようなさまざまな発見をもたらした。私たちは今や、古代都市がどのように作られ、そこに住む人々がどんな暮らしをしていたかについて、より深く、より正確に理解できるようになっている。 by Annalee Newitz2021.05.07
1991年、ニューヨークのロウアー・マンハッタン地区で、新しい連邦ビルの建設に着工した作業員たちは何百もの棺桶を掘り出した。 掘れば掘るほどたくさんの棺桶が発掘され、最終的には500体近くの遺体が発見されることとなった。遺体の多くは、ボタンや貝殻、宝石などの身の回り品と一緒に埋葬されていた。詳細な調査が進むと、遺体はいずれも200年から300年前のもので、アフリカ人とアフリカ系米国人であることが判明した。
- この記事はマガジン「Cities Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
この発見は、科学史の変曲点で成し遂げられた。化学分析や遺伝子分析のブレークスルーのおかげで、研究者たちは発掘された人々の多くがどこで生まれ、どのような身体的な問題を抱えていたのか、さらにはアフリカからどのようなルートで北アメリカにやって来たのかが解明したのだ。「アフリカ人墓地(African Burial Ground)」と呼ばれるこの遺跡は、米国で最も有名な考古学的発見の一つとなり、現在は国定史跡に指定されている。
ウィリアム・アンド・メアリー大学の人類学者で、この遺跡の調査員の一人であるジョセフ・ジョーンズ教授は、自身の研究チームが発掘を続けている間にも科学は進歩していったと語った。発掘が開始されたころには、骨の大きさを測ったり、骨の損傷を調べたりするといった、考古学者が100年近く使ってきたのと同じ手法を使って骨格を分析し、人々の生活の詳細を推測していたという。しかし現在、研究チームは前の世代の研究者たちが夢にしか見なかったような最新手法を使用する。レーザーを使って歯のエナメル質を極薄にスライスして中に含まれている同位体を分析したり、古代のDNA配列を解析して数世紀前に死亡した人とその子孫を結びつけたりできる。
アフリカ人墓地の発見はまさに、文化的な発見であった。歴史学者たちはちょうど、奴隷となった人々が北部の都市建設に果たした役割を調査しており、ヘンリー・ルイス・ゲイツ・ジュニアなどの黒人学者やトニ・モリソンなどの作家は、米国史におけるアフリカ系アメリカ人の役割に焦点を当てていた。
この遺跡の科学的な分析によって、これらの社会運動に説得力のあるデータが追加され、多くの米国人の建国に対する見方が変化した。現在米国人が住んでいる都市の多くは、アフリカから連れてこられた奴隷が北部と南部に建設したものであることが明らかとなった。さらに、人々がどのようにして、小さな集団で移動する遊牧民から、何百万人もの人々が密集する居住地で暮らすようになったのかも示された。
アフリカ人墓地のプロジェクトは、従来のつるはしやブラシをはるかに超える新しい「生物考古学」の道具の一群が初めて使用されたプロジェクトの一つであった。しかしこれは、科学者と人文科学者が一緒になって、私たちの祖先についてのデータを作り出すという、より広範な考古学革命の最初の段階に過ぎなかった。現在、研究者は3D写真やライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)、衛星画像などで生物考古学を補足している。
「データ考古学」とも呼ばれるこの種のハイテク探査は、都市史の研究に最適だ。ライダーなどのリモートセンシング・テクノロジーを使用することで、研究者は都市全体の碁盤目状街路を明らかにし、当時の人々が近所を歩いたり、店を覗いたりしていた様子がより正確にわかるようになった。この種のデータは、デジタルによる正確な再現を可能にする。歴史家は、人里離れたアクセス不可能な場所を、オンラインで誰でも訪れることができる場所に変えられるのだ。
このデータは歴史を民主化するものでもある。学者は、何千とは言わないまでも、何百もの遺骨を調べ、大規模なデータセットを処理することにより、土地を所有したり、記念碑に名前を刻んだり、公職に就いたりした一部の幸運な人々だけでなく、一般の人々の経験についても洞察を得られるようになった。
歯は語る
データ考古学は、都市を研究する歴史家にとって特に重宝となる。というのも、都会には、他の方法では追跡が困難な移民のストーリーが存在することが多いからだ。1990年代初頭からアフリカ人墓地プロジェクトを率いてきた生物考古学者のマイケル・ブレイキー教授(ウィリアム・アンド・メアリー大学)は、歯のエナメル質の化学分析ができなければ、この墓地に埋葬された人々がどこから来たのかわからなかっただろうという。歯のエナメル質は大人に …
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