EVシフトで資源争奪戦、
鉱床発見にAI投入も
電気自動車や送電網のバッテリーの原料となるリチウムやコバルトなどの鉱物の需要が急増している。そうした中で、AIを使うことで採掘コスト削減を目指す米スタートアップは、テック界の大物たちから数千万ドルを調達した。 by Maddie Stone2021.08.16
ここ数週間、天候が許す限り毎日、カナダのケベック州北部の人里離れた地域の上空を、コボルド・メタルズ(KoBold Metals)が委託するヘリコプターが奇妙な貨物を積んで飛行していた。
ヘリコプターの胴体底部からぶら下がった幅35メートルの銅製コイルが地中に電磁波を送り込み、地下深くの岩石に電流を発生させる。導電性の高い物質があれば、受信コイルにその存在を知らせる信号が送り返される。その岩場には携帯電話やノートPC、電気自動車のバッテリーに使われているニッケルやコバルトなどの貴重な鉱床がある可能性がある。
ヘリコプターのパイロットが辺り一帯の土地のスキャンを終了すると(天候に恵まれた日には、ヘリコプターは160キロメートル以上の範囲を飛行する)、収集されたデータは衛星経由で何千キロメートルも離れた場所にあるコボルドのオフィスで働く研究者に送られる。研究者は受信した新しい測量データを機械学習モデルに送り込み、同社が収集してきた他の膨大なデータと組み合わせて、調査地域の地質への理解を深める。最終的に、すべての情報が、コボルドがスタンフォード大学と共同開発した人工知能(AI)システムに送り込まれると、同システムは膨大な計算能力を駆使して次に調査すべき場所をアドバイスしてくれる。
ビル・ゲイツとジェフ・ベゾスが出資するサンフランシスコの鉱物探査会社コボルドは、これらのハイテクを駆使した数々のソフトウェアツールを使用することで、空中探査の計画を日々変更し、有望な掘削場所をより迅速に見つけ出すことができる。
これは従来の鉱床探しとはかけ離れた手法だ。これまで地質学者は、探査シーズンに現地調査でデータを可能な限り収集し、オフシーズンに収集したデータを分析してきた。
従来の手法では全面的に人間の解釈に依存していたが、最近ではデータサイエンスや機械学習が、新しい地下の大金脈探しにおいて大きな役割を果たすようになっている。シリコンバレーの投資家たちは、現代テクノロジーを支える金属への需要がクリーンエネルギー分野で急増する中、その金属の入手が困難になっていることを認識している。そして、コボルドのような企業が採掘ビジネスを支援し、新しい鉱石の発見を加速させ、コスト削減につながるはずだと考えている。
専門家によると、コボルドの予測が当たるかどうかは別にして、テック界の大物が関与することで、新規鉱山への投資が不足していることに注目が集まり、より環境的・社会的に責任ある方法で金属を採掘しようとするスタートアップに必要な資金が集まる可能性があるという。
「電気自動車のことを考えるとき、ショールームで展示されているピカピカの車に使われている原材料のことは忘れがちです」と、エネルギー調査会社ブルームバーグNEF(BloombergBNEF)の鉱業部門アナリストであるクウェイジ・アンポフォ博士は言う。
発見が難しくなっている
電気自動車や送電網の電池に使用されるリチウム、コバルト、グラファイト、ニッケルなどの金属や鉱物の需要は、今後数年間で急増する見込みだ。国際エネルギー機関( IEA:nternational Energy Agency)が5月に発表したレポートによると、2℃の地球温暖化を防ぐために必要なペースでクリーンエネルギー技術を展開すると、エネルギー貯蔵に使用される鉱物の需要が2040年までに30倍以上に増加することがわかった。
しかし、鉱業分野はそのペースに追いついていない。企業が鉱業権や許可を取得してから新規に鉱山を稼働させるまでには、10年以上かかることもある。地下鉱石の最適な採掘場所を見つけるには、さらに時間がかかることもある。簡単に見つけられる高品位鉱体はほぼすでに発見済みで、探鉱への投資は減少しているため、新しい鉱床を見つけるのはますます困難になっている。この分野の一般経験則では、採掘可能で採算が取 …
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