KADOKAWA Technology Review
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Can green hydrogen be the main driver of "decarbonization"?

グリーン水素は日本の「脱炭素」の本命になり得るのか?

カーボンニュートラルへ向けた取り組みが世界中で加速している。注目されているグリーン水素とはどのような技術で、どこまで実用化が検討されているのか? 環境エネルギージャーナリストが語った。 by Koichi Motoda2021.08.25

脱炭素社会の実現に向けて注目を浴びているのが、再生可能エネルギー由来の電気を使って製造するグリーン水素だ。欧州ではすでにインフラ整備が加速しているが、燃料電池車の商用化や住宅用燃料電池コージェネレーションシステム(エネファーム)の設置が進むなど水素の利用技術で先行している日本においても、グリーン水素が脱炭素の有望な選択肢になり得るのだろうか。

2021年7月29日にオンライン開催された「Emerging Technology Nite #19」では、「グリーン水素最前線 —日本は世界の潮流に乗れるか」と題し、気候変動をテーマにしたオピニオンサイト「EnergyShift」の編集マネージャーを務める環境エネルギージャーナリストの本橋恵一氏が、各国の取り組みを紹介しながら、日本におけるグリーン水素普及の可能性について紹介した。


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CO2の排出なしに製造できるグリーン水素

そもそもグリーン水素とは何か? 水素は「グレー」「ブルー」「グリーン」などと色分けして呼ばれていると本橋氏は説明する。現在世の中に出回っている水素のほとんどがグレー水素で、主に天然ガスなどの化石燃料から製造されている。「製造過程でCO2を排出しているのでカーボンニュートラルではなく、気候変動問題には対応できない」(本橋氏)。

ブルー水素はグレー水素に似ているが、製造過程で発生したCO2をCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留技術)によって地下に埋めてしまう。カーボンニュートラルとして期待されており、もう1つの水素と言われている。最後のグリーン水素は、再生可能エネルギーで作られた電気を利用し水を電気分解して製造する水素なので、製造過程で一切CO2を発生させない。

グリーン水素は、2018年に発行されたIPCC 1.5℃特別報告書によって特に注目されることになったが、一番危機意識を持っているのは、気候変動によって保険金の支払いが増加している損害保険会社や金融業界であると本橋氏は述べる。「日本だけでも、2018年度の1年間だけで1兆5000億円も損害保険が支払われており、このままでは、損害保険が成り立たなくなる。米国のジョー・バイデン大統領も明確に気候変動問題に対応することを打ち出し、欧州と併せて多くの国が2050年にはカーボンニュートラルを実現しようとしている」(本橋氏)。

本橋恵一(もとはし・けいいち)
EnergyShift編集マネージャー/環境エネルギージャーナリスト。エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など。

製造コストの削減が普及の大きな鍵に

CO2の排出を減らすには火力発電に代わる再生可能エネルギーを増やすことが求められるが、太陽光発電は日中しか発電できないし、風力発電も自然環境に左右される。したがって、再生可能エネルギーではより多くの電気を作っておく必要があるが、電気が余ることもある。グリーン水素はその余った電気を使って作られ、さらにグリーン水素による発電で、再生可能エネルギーだけでは足りない電気を補える。「ただし、現在の日本では電気が余るほど再生可能エネルギーが普及していないので、将来に向けた準備と考えていただきたい」(本橋氏)。

水素は、再生可能エネルギーで作られた電気だけでは実現できないことにも使われる。例えば、製鉄、ジェットエンジン向け合成燃料、化学工業の原料としても水素が必要になる。「トラックやバスのような大型車両もまだ電動化が難しく、当面は燃料電池の車両が必要なりそうだ」(本橋氏)。

一方でグリーン水素の製造は、天然ガスや石炭で製造される水素よりもコストがかかる。ここで本橋氏は、2019年の水素のコストをIEAのデータで比較してみた。「天然ガスで作られた水素が1kgあたり2ドル以下であるのに対し、グリーン水素は8ドルに近い。しかし、将来的な予測で比較してみると、2050年にはグリーン水素は4ドル以下になり、逆に天然ガスから作る水素は炭素税や排出権取引などが加味され今よりも高コストになりそうだ」(本橋氏)。

また、本橋氏はグリーン水素の適正価格にも触れ、燃料電池車で使う場合は1kgあたり300円にするべきと述べた。「水素を使って発電する場合は、1kgあたり100円くらいにしないと再生可能エネルギーで発電する電気に勝てない。さらに、製鉄で使うには90円以下にしないといけない。そうやって、グリーン水素はコスト低下の技術開発が重要になってくる」(本橋氏)。

世界と日本におけるグリーン水素への取り組み

MITテクノロジーレビューに欧州の状況について寄稿した本橋氏によると、現在スコットランドではSSEリニューアブル(SSE Renewable)とシーメンス・ガメサ(Siemens Gamesa)がグリーン水素製造の基本合意書を締結しており、ドイツではシェル(Shell)、ガスニュウ(Gasunie)、RWE、ガスケイド(Gascade)などがグリーン水素の製造プロジェクトに参加する意向を示している。

米国ではGEが、オハイオ州で水素を燃焼できる発電所の計画を進めている。出力は48.5万KWで、今年秋からの運用を目指す。また、ニューヨーク州の発電所では天然ガスに、ある程度のグリーン水素を混ぜてCO2を削減しながら発電している。

オーストラリアでは総事業費360億ドルをかけて、再生可能エネルギーでグリーン水素さらにはグリーンアンモニアを製造するプロジェクトが政府からの認可を待っており、このプロジェクトには日本企業も参加しているという。

日本では福島県や山梨県で実証試験が実施されているが、6月にはエネオスと千代田化工建設が、価格を3分の1にすることを目指したグリーン水素製造プラントを共同開発すると報じられた。さらに7月には、北海道電力やグリーンパワーインベストメント、日鉄エンジニアリング、エアウォーターが提携し、洋上風力でグリーン水素を製造するプロジェクに乗り出すことが報じられている

経済産業省が作成した日本の水素供給ロードマップでは、短期的には2025年頃までに約200万トン、2030年頃までに約300万トン、2050年までには2000万トン程度の水素を供給していく意向が示されている。「需要に関しては、輸送部門では2025年頃までは燃料電池車やバス、トラックなどで使い、2050年には航空機にチャレンジする。発電部門では2050年までに電力の脱炭素化を支える調整用としての使用を目指し、産業部門では製鉄で使用するニーズが拡大してくるだろう」(本橋氏)。

日本ではグリーン水素を安く製造できるのか、輸入するにしても輸送コストがかかるのでは、などといった懸念があるが、電化できない分野ではどうしても水素が必要になる。本橋氏は、グリーン水素を活用する機会もいろいろ考えられるという。「例えば、地域エネルギーとして考えた場合、地産地消であれば競争力があるかもしれない。また、日本の浮体式洋上風力発電は送電線のトラブルが多いので、洋上風力で水素を作って地上に運んで発電する方が効率がいいかもしれない」(本橋氏)。

日本の取り組みへの期待

日本におけるグリーン水素の活用は、まだ先の話であると本橋氏は語る。再生可能エネルギーがたくさん作られて余るような時代にならなければ難しい。エネルギー基本計画(素案)に掲げられたように、2030年度の再エネ比率を36~38%にするには、まだまだ再生可能エネルギーの製造が追いつかず水素を作る余裕はない。

とはいえ、日本には単に水素を作るだけでなく、技術的なチャンスがあると本橋氏は考える。「例えば旭化成のようにグリーン水素製造のコア技術を持った企業ならば、世界で活躍できるだろう。日本はグリーン水素単独ではなく、全体のエネルギーシステムがどうあるべきかを長期的に考える必要がある。さまざまな可能性も見ながら技術開発を続けインフラも整えていけば、グリーン水素の将来があると考えている」(本橋氏)。

講演終了後には質疑応答の時間が設けられ、参加者からの質問に本橋氏がその場で回答した(以下の質問、回答は一部編集済み)。

Q:事業性を見据えた技術活用がグリーン水素普及のキーになるのでしょうか?

本当のニーズがどこにあるのかを見極めることが重要になってきます。例えば、燃料電池車でのニーズにしても、バスやトラックなどの大型車両であって乗用車ではありません。それ以外にも、製鉄や化学プラントなど、本当に水素でなければできない用途を見つけていくことが重要です。

Q:日本も他国に頼る水素製造ではなく、再生可能エネルギーをもっと増やしてグリーン水素製造に注力しなければと思うのですが、なぜそうなっていないのでしょうか?

もちろん、日本としてもエネルギーをなるべく自国で供給したいので、再生可能エネルギー由来の水素製造に注力しないわけではないでしょう。ただ、まだまだ再生可能エネルギーの開発が足りていないという現状の中、どうやって他の国と協調しながら水素を確保していくかについては、化石燃料の場合と同じような課題を抱えていると思います。一方で、最近特に日本政府の動きで感じているのですが、再生可能エネルギーをどんどん増やそうとしているにも関わらず、既存の業界を守ろうとしているようにも見えます。例えば、海外では石油会社が石油を諦めて再生可能エネルギーに移行していますが、日本は電力会社や鉄鋼会社を今ある形で残そうとして、変化に対する恐れを感じているように思えます。

Q:高温ガス炉による水素供給についてはどうでしょうか?

原子炉の一種である高温ガス炉を小型化し、熱とヨウ素と硫黄を使って水を分解して水素を取り出す取り組みが、すでに研究されています。実際は腐食が激しくてなかなか実用化が難しそうですが、可能性はあります。まずは、小型の原子炉が商用化できるかどうかという課題が大きいと思います。

Q:CCSの技術も低コストで利用できるようになっているのでしょうか?

CO2の回収にまだコストがかかっています。貯留については、すでに油田やガス田にCO2を注入して回収を高める技術が使われていますが、日本では地中深くCO2を埋める場所がなかなかありません。

Q:再生可能エネルギーの余剰分を活用するのは、実際には難しいのではないでしょうか?

ブルー水素は油田やガス田でCCSを使ってCO2を埋め戻すことができるのであれば、そこそこ安い値段で水素が製造できます。だったら、それを一旦普及させながら、安くなったグリーン水素に交換していくというシナリオもあるでしょう。まず、再生可能エネルギーのコストが高いということがあるのですが、それでもなおニーズがあれば、そこに優位性を持てると思います。日本は国土が狭いので、なかなかグリーン水素を作れないかもしれませんが、日本の技術をどう海外に展開し資源を確保していくのかも考えておく必要があります。

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元田光一 [Koichi Motoda]日本版 ライター
サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。
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