KADOKAWA Technology Review
×
【4/24開催】生成AIで自動運転はどう変わるか?イベント参加受付中
オミクロン株、研究者が考える今後の見通しは?
Drew Angerer/Getty Images
We won’t know how bad omicron is for another month

オミクロン株、研究者が考える今後の見通しは?

新型コロナウイルスのオミクロン株については、発見からまだ間がないため、わかっていないことが多い。スイスのベルン大学の研究者たちが、ワクチンの有効性や、ウイルスの深刻さの度合いについて語った。 by Antonio Regalado2021.12.03

アフリカ南部での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン変異株の発見は、ウイルスの遺伝子を解析することで、ウイルスのゲノムにおける危険な変化を早期に警告できるようになったことを示している。

オミクロン株には30以上の変異がある。その一部はこれまでの他の変異株でも見られたもので、ウイルスの感染速度を速めるものと考えられている。そのほかの変異はまだその意味が理解されていないため、警戒を要するものだ。懸念されるのは、オミクロン株にひときわ厄介な適応が山ほど含まれている可能性だ。そのため、今週になって数カ国の政府が、アフリカ発の航空機の乗り入れを禁止する渡航障壁を設けた。

こうした措置を講じているものの、オミクロン株が本当に深刻な問題かどうかを研究者が判断するにはまだ時間がかかりそうだ。「今、肝に銘じておく必要がある本当に重要なことは、私たちが解明しようとしていることの大半について、まだ十分なデータが揃っていないということです」。遺伝子情報データベース・サイト「ネクストストレイン(Nextstrain)」の運営に関わるベルン大学の分子疫学者、エマ・ホドクロフト博士はこう話す。

科学者は何を調べていて、その答えはいつ出るのか。以下で説明しよう。アルファ株やデルタ株などの過去の変異株から考えると、オミクロン株の特性が明らかになるには、およそ1カ月かかると予想される。

なお、この記事に記した研究の見通しは、11月30日にベルン大学の専門家らを招いて開かれたツイッター・スペース(Twitter Spaces)でのディスカッションで紹介されたものだ。

ワクチンはまだ有効なのか?

モデルナ(Moderna)のステファン・バンセルCEO(最高経営責任者)が、フィナンシャル・タイムズ紙の取材で述べた「オミクロン株に対してはワクチンの効果が低下するおそれがある」との発言は、株式市場を震撼させた。バンセルCEOはワクチンの効果が「大きく低下する」と予想しており、科学者が「これはまずいことになった」と言っていたと付け加えた。

現在のワクチンがオミクロン株に対してどの程度の効果があるかを実際に調べるため、世界中の研究者たちが、新型コロナに感染した旅行者の体内からオミクロン株を分離しようと競い合っている。研究者たちは、研究室内の細胞でオミクロン株のウイルスを培養し、ワクチン接種済みの人から採取した血漿に曝す。そして、ワクチン接種済みの人の抗体がどれだけ効果的にウイルスを阻止するかを測定するわけだ。オミクロン株の遺伝子情報を利用して変異体のスパイク遺伝子だけが含まれた「疑似ウイルス」を作成し、同様の試験を実施しようと計画する研究機関もある。

「私たちが求める答えを見つけるうえで重要な問いは、ワクチン接種によって得られた抗体には、依然として(ウイルスを)中和する力があるのか? ということです」。ベルン大学のウイルス学者であるフォルカー・ティール教授は言う。「阻止の度合いに応じて、このワクチンがまだ有効なのか、あるいはあまり有効でないのかを判断できます」。

アルファ株など、過去の変異株の場合、モデルナやバイオンテック(BioNTech)などの企業は1カ月以内に研究室での試験結果を発表している。

もしオミクロン株がワクチンをすり抜けるとすれば、新しい変異株の遺伝子構造の変化を反映させるため、モデルナやバイオンテックなどの企業はメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを初めて設計し直す必要に迫られるだろう。年を追うごとにワクチンの再設計が当たり前になり、将来的にはインフルエンザ同様、冬が訪れる前に、年に一度の予防接種を受けることになるかもしれない。

オミクロン株は従来株より感染しやすいのか?

この新しい変異株は、ヨハネスブルクが所在する南アフリカのハウテン州で感染が拡大し、今や20カ国以上で発見されている。研究者たちは、オミクロン株の感染が他の変異株よりも急速に拡大する可能性を懸念している。

研究室でウイルスの伝播を試験するのは難しいため、実験は現実の世界で起こることになる。研究者たちは、シーケンシング・テストを利用して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例のどれくらいの割合がオミクロン株によるものかを追跡調査しようとしている。オミクロン株による感染の割合が増え始めて、さまざまな国で同様の増加が見られるとすれば、オミクロン株が従来株より伝播が速いことの証拠になる。

同様の現象は、2020年に英国で出現したアルファ変異株のときに起こった。2020年12月には、アルファ株の蔓延によって英国の症例数が増加し、数カ月後には欧州や米国でも症例数の大半をアルファ株が占めるようになった。その後、アルファ株はデルタ株に取って代わられた。アルファ、デルタ、いずれの変異株も、出現してから症例の大半を占めるようになるまで約4カ月かかった。オミクロン株がこの例にならえば、2022年の3月か4月までに感染のほとんどを占めるようになるだろう。

「変異株の置き換わりが起これば、伝播の優位性を強く示唆しています」とベルン大学のティール教授は話す。「しかし、ある1カ所でしか置き換わらなければ、単に偶発的な事象である可能性があります」。ティール教授は、南アフリカにおけるオミクロン株による感染の増加だけでは、この変異株の伝播性が従来株より強い証拠にはならないと話す。

従来株より感染力が高いことの確固たる証拠を得るまでには、1カ月以上かかる可能性がある。新たに感染した人の体内で他人を感染させるのに十分な量までウイルスが増殖するのに、およそ5日から6日はかかるからだ。オミクロン株の伝播速度が従来株より速いかどうかを判断するには、研究者が感染と拡散の周期を複数回観察する必要がある。

古いサンプルを解析することで研究者が時系列を過去に遡れば、このような研究を加速できる。すでにナイジェリアの医師は、同国に保存されている新型コロナウイルスのサンプルからオミクロン株を発見したと発表している。それが初期のデータポイントになるかもしれない。

変化しているのは新型コロナウイルスだけではない。パンデミックが進行している舞台である人間社会も変化している。ほぼ全国民がワクチンを接種している国をはじめ、さまざまな異なるワクチンを使用している国、大半の住民がすでに新型コロナウイルスに感染している地域、中国やニュージーランドのように「新型コロナウイルス感染者ゼロ」の国など、これからオミクロン株が置かれる条件は過去のどの変異株よりも多様だ。つまりオミクロン株は、ある地域では定着するが、別の地域では消失するかもしれない。

オミクロン株は従来の株より重篤な症状を引き起こすのか?

当初、一部の南アフリカの医師は、オミクロン株が引き起こす症状は軽度であるようだと発言していた。だが、その後、病院のベッドがいっぱいになったと報じられている。現時点では、オミクロン株がより重篤な症状を引き起こすかどうかはわかっていない。

オミクロン株が発見されて間もないため、大半の感染者は発症から1~2週間しか経っていない。問題は、新型コロナウイルス感染症が重症化したり、死亡につながったりするまでには2~3週間かかることが多いことだ。「重篤化の可能性について語るのは時期尚早です。今のところ、何とも言えません」。ベルン大学の疫学者であるクリスチャン・アルトハウス博士は話す。

マウスやサルなどの実験動物をオミクロン株に曝すことで、重篤化の度合いを測定することは可能だ。だが、最終的な答えは、医師の観察、病院の記録、死亡者数など、実世界の人々のデータから得られるだろう。

オミクロン株が重い症状を引き起こすのか、別の症状を引き起こすのかという問いの答えが出るまでには、おそらくあと2カ月から3カ月程度はかかるはずだ。

研究者たちは、オミクロン株に関する不確実性とワクチンの有効性が低下する可能性を考慮して、隔離や社会的距離の確保、マスクの着用などの重要性を再認識するよう一般市民に呼びかけている。こうした方策は、あらゆる変異株の感染拡大を阻止する効果があるからだ。「これらの感染対策が効かない変異株はありません」(ティール教授)。

オミクロン株は、これから起こることの予兆だともティール教授は言う。「これから数カ月あるいは数年にわたって、厳しい状況が続くでしょう。新たな変異株がいくつも出現することを覚悟する必要があります。しかし、株式市場は、新たな変異株が出現するたびに恐怖にかられて反応するべきではありません。それが、私たちが対処していかなければならない未来だからです」。

人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #28 「自動運転2.0  生成AIで実現する次世代自律車両」開催のご案内
  2. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
  4. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #28 「自動運転2.0  生成AIで実現する次世代自律車両」開催のご案内
  2. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
  4. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る