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街中に溶け込む監視カメラ、
「反骨の街」マルセイユにも
Gabrielle Voinot
コネクティビティ Insider Online限定
Marseille’s battle against the surveillance state

街中に溶け込む監視カメラ、
「反骨の街」マルセイユにも

フランス第二の都市であり、反骨的な港町であるマルセイユの街中に、急ピッチで監視カメラが設置されている。その一方で、当局のこうした動きに異を唱える団体の活動も活発化している。 by Fleur Macdonald2022.06.20

マルセイユ中央駅に向かう途中でエダ・ナノは、アベイユ通りにある街燈のようなものを指さした。長いスタンドが上に向かって湾曲し、白いドームが暗い球体を覆っている。しかしこの洗練された都市設備は、街燈ではない。この狭い通りを360度見渡すことができる、ビデオカメラなのだ。

39歳の技術者であるナノは、マルセイユ住民に、自分たちが監視されていることをもっと意識してもらいたいと考えている。彼女は「テクノポリス」という、ビデオ監視の増加を地図化する活動を組織している団体の一員だ。マルセイユ市内には1600台ものカメラがあり、見つけるのも大変なほどだ。これらのカメラの中には50台のスマートカメラが含まれており、不審な行動を検知して報告するように設計されているとナノは言う。だが、彼女はそれがどこにあり、どのように使われているのかは分からない。

世界中で、ビデオカメラは都市生活の一部として受け入れられるようになっている。中国の多くの都市には現在、ビデオカメラ・ネットワークが密に張り巡らされている。ロンドンやニューデリーもそれに近い状況だ。

現在、フランスがこうした都市に追いつこうとしている。バタクランのパリ同時多発テロ事件があった2015年以来、パリにおけるカメラの数は4倍になった。警察はこれらのカメラを使って、パンデミックにおけるロックダウン施策を実施し、「黄色いベスト運動」のような抗議活動を監視してきた。昨年採択された新しい全国治安法では、抗議活動時やデモ行進時に、警察がドローンを使ってビデオ監視することが認められた。

ナノにとって、監視強化の不気味さは、個人的な体験とも共鳴する。彼女はアルバニアで、異なる政治体制の間で揺れ動く1990年代に育った。 父親は政治家であり、当時の与党に対立していた。「私たちにとってとても困難な時期でした。私たち皆が監視されていたからです」とナノは言う。彼女の家族は、当局が自宅の壁に盗聴器を仕掛けているのではないかと疑っていた。しかしフランスにおいてでさえも、自由というものは脆いものである。「この5年間、フランスは非常事態の中にありました」と彼女は言う。「私たちの自由がどんどん制限されていくのを目のあたりにしてきました」。

懸念は国中に広がっている。しかし、フランス第二の都市であるマルセイユでは、この監視体制の施行は特別強い抵抗に遭っている。この騒がしく反骨的な地中海の町は、現代フランスを貫くいくつかの断層線上に位置している。マルセイユは流行のバーやアーティストのスタジオ、スタートアップの拠点として有名だが、ドラッグや貧困、犯罪でも悪名高い。欧州で最も多様な民族が住む都市でありながら、極右的な地域であるプロヴァンス・アルプ・コート・ダジュールの一角に位置する。マルセイユの反発する態度は、A7高速道路を走るときに通りかかる「人生とは反抗である(La vie est (re)belle)」という落書きに象徴されるのかもしれない。

このために、マルセイユは監視技術の興味深い実験場となっている。2021年9月にエマニュエル・マクロン大統領がマルセイユを訪れ、500台の追加の防犯カメラを市当局に提供することを発表した。それらのカメラは、マルセイユの中でも移民が多く、暴力やギャング活動の代名詞となっている地域に設置されることになる。マクロン大統領は法と秩序を重んじるような口調でこう言った。「マルセイユで成功できないようなら、フランス中で成功させることはできません」。

同大統領の発表は、マルセイユが公共空間におけるカメラへの依存度を高めていることを示す一連の流れのうち、最新のものである。

活動家たちは反発しており、既存の監視システムは行き過ぎであり、性能不足であると主張している。彼らのメッセージは反響を生んでいるようだ。2020年にマルセイユは、ビデオ監視装置の一時停止を公約に掲げた新市政体制を選出した。しかし、マルセイユ住民は成功したのだろうか、それとも彼らはただ上昇気流に逆らっているだけなのだろうか?

運動家・活動家のネットワークであるテクノポリスは、デジタル権利擁護団体である 「ネットの円積問題(La Quadrature du Net)」が他の団体と協力して立ち上げたもので、2019年にスタートした。フェリックス・トレゲール博士はフランス国立科学研究センター(CNRS)のインターネット・社会センターの准研究員であり、このキャンペーンを支える一人であった。 トレゲール博士はフランスのメディアで新監視プロジェクトに関する記事を目にすることが多くなったが、あまりの無批判さに衝撃を受けたと言う。「マルセイユ議会のプレスリリースを単にそのまま焼き直したものでした」。

トレゲール博士を行動に駆り立てたのは、2017年のルモンド紙の記事だ。その記事は、150万ユーロ(約2.1億円)の投資を欧州連合、マルセイユ市、ブーシュ・デュ・ローヌ地方から受けた「ビッグデータによる公共平穏プロジェクト」について発表していた。このプロジェクトは、現地警察、消防、病院、ビデオカメラのデータを人工知能(AI)で解析し、治安リスクをよりしっかりと把握し、予測することを目的としている。

ルモンド紙の記事では、プライバシー保護、データ漏洩の可能性、偏向のリスクにはほとんど焦点が当てられていなかった。こうしたリスクは、北アフリカ系住民が多いマルセイユでは特に懸念されていることである。トレ …

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