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自動運転・ドローンが消え、
グーグルが去った街
キーサイド2.0のビジョン
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Toronto wants to kill the smart city forever

自動運転・ドローンが消え、
グーグルが去った街
キーサイド2.0のビジョン

グーグルの兄弟会社であるサイドウォーク・ラボが計画した「スマートシティ」が頓挫した街は今、まったく新しい計画「キーサイド2.0」を進めている。コンセプトは、市民が住みたくなる街づくりだ。 by Karrie Jacobs2022.07.12

オンタリオ湖に面するトロント市は2月、ウォーターフロント地区の新しい開発計画を発表した。それは熱意ある都市計画の専門家であれば誰でも思い描くであろう、ウィッシュ・リストようなものだった。800戸の手頃な価格の住宅、約8100平方メートルの森、屋上農園、先住民族文化に重点を置いた新しい芸術施設、そして二酸化炭素排出ゼロ達成の約束など目白押しだ。

都市の中心部に手頃な価格でエコな生活が営める楽園を作る、という考えは立派なものだ。しかしほんの数年前、今回と同じ約4万9000平方メートルのキーサイド(Quayside)地区に、今回とはまったく異なる構想で都会のユートピアを作る計画があった。キーサイドは、アルファベット(グーグルの親会社)の都市イノベーション部門であるサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)が、スマートシティを概念実証する場となるはずだった。

高架になっているガーディナー高速道路とオンタリオ湖に挟まれた、いくつかの平屋建ての商業施設と使われていない1基の穀物サイロが建っているだけのキーサイド地区の開発は、それほど難しくないはずだった。しかし2017年10月、湖畔約810万平方メートルの再開発を監督している政府機関、ウォーターフロント・トロント(Waterfront Toronto)公社が、複数の開発計画案の中からサイドウォーク・ラボの構想が選ばれたと発表すると、すぐさま論争が巻き起こった。

サイドウォーク・ラボの壮大な計画は、華やかな新技術で埋め尽くされていた。トロント市の何気ない一角は、自動運転タクシー、暖房付きの歩道、自動ごみ収集に加えて、道路の横断から公園のベンチの利用に至るまでの住民のあらゆる行動をモニターする広範囲かつ幾重にも設置されたデジタル機器によって最適化された、都市体験のハブになるはずだった。

サイドウォーク・ラボの計画がもし成功していたら、キーサイドはさまざまな地域の新しい都市開発モデルを確立するための概念実証となっていただろう。中国やペルシャ湾岸諸国で取り入れられているセンサーだらけのスマートシティ・モデルが、より民主的な社会でも成り立つことを示せたかもしれない。しかし、2年半にわたる「インターネットを根底とする」地域を作るサイドウォーク・ラボの取り組みは、誰もがそこに住みたくなるような理由を示すことができなかった。

2020年5月にサイドウォーク・ラボは計画を打ち切った。理由は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる、前例のない経済的な不確実性」だった。しかし経済的な問題は、トロント市内にデータ・リッチな街を作るという9億ドルのビジョンに対する、長年の論争の最後に出てきた要因に過ぎない。

市民が新規の開発計画に対して反対するのはよくあることだし、ユートピアはさまざまな理由で失敗に終わるものだ。しかし、トロント市におけるサイドウォーク・ラボのビジョンに対する反対意見は、よくある建造物の保存や、提案された建物の高さ、建物間の密度や様式に関するものではなかった。このプロジェクトの「テクノロジー・ファースト」というアプローチが、多くの人を敵に回してしまったのだ。トロント市民のプライバシーに対する懸念を十分真剣に受け止めていないように思われてしまったことが、中止となった主な要因である可能性は高い。

カナダは米国と比べ、民間部門が公道や公共交通を管理をすることへの抵抗感はとても強い。人々の日常的な行動のデータを、企業が収集することに対しても然りだ。

「米国で重視されるのは生命、自由、そして幸福の追求です」。マース・ディスカバリー・ディストリクト(MaRS Discovery District)でパートナーシップ・ソリューションを担当するアレックス・ライアン副理事長は言う。同団体は、官民からの資金提供によって設立されたトロント市のNPO法人で、北米最大の都市イノベーション・ハブとされる。「カナダで重視されるのは平和、秩序、そして良い政府です。カナダ人は民間企業がやってきて、政府から自分たちを守ってくれることなどは期待していません。なぜなら、政府に高い信頼を寄せているからです」。

サイドウォーク・ラボの非常にトップダウン色が強いアプローチは、トロント市民の文化を理解することに失敗したと言えるだろう。このプロジェクトについて私がインタビューしたほとんどの人が、同社の態度を表現する際に「尊大」や「傲慢」といった言葉を使っていた。両方使っていた人もいたほどだ。

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