KADOKAWA Technology Review
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ハンドル握らぬ「運転手」、
ロボタクシー・ドライバー
という仕事
Courtesy of Baidu
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A day in the life of a Chinese robotaxi driver

ハンドル握らぬ「運転手」、
ロボタクシー・ドライバー
という仕事

大手テック企業や自動車メーカーは完全自律自動車の実用化に向けてしのぎを削っているが、まだ完全な無人自動車は珍しい。中国・バイドゥの自動運転車部門で19カ月にわたってロボタクシーの「ドライバー」として働く男性が、仕事の内容や自身の今後について語った。 by Zeyi Yang2022.08.15

リウ・ヤンは現在の仕事を始めた時、再び自分の車を運転するのは難しいだろうと感じた。「気づいたら助手席に乗ってしまうのです。自分で運転している時は、車が勝手にブレーキをかけてくれると思ってしまうでしょう」とリウは言う。リウは北京育ちの33歳。2021年1月に中国の巨大テクノロジー企業であるバイドゥに、ロボタクシー運転手として入社した。

米国のサンフランシスコやアリゾナ州フェニックス、深センのような街に住んでいれば、自動運転車が街を走り回っている光景はめずらしくないかもしれない。しかし、ロボタクシーはいまだに「運転されている」ことがしばしばある。例えば中国政府は、人間が自動運転車に乗車しているよう求めている。たとえ車の動きをコントロールしていなくても、だ。リウはバイドゥで働く、そのようなたくさんの「ドライバー」の1人だ。この業界での呼び方で言えば「セーフティ・オペレーター」ということになる。

ロボタクシーのセーフティ・オペレーターは、この時代にのみ存在する職業だと言える。セーフティ・オペレーターという仕事は、(ほとんどの場合、コントロールされた環境下においては)ドライバーは必要ないが、完全に人間の手を離れても大丈夫だと政府を納得させるにはまだ足りない程度に発展したテクノロジーの結果だからだ。現在、米国、欧州、中国の自動運転車企業は、商用利用できる自動運転技術の発展を競っている。バイドゥの自動運転車部門であるアポロ(Apollo)を含む多くの企業は、公道におけるオンデマンド・ロボタクシーの試験運転を開始しているが、いまだにさまざまな制約の下で運用する必要がある。

リウは人事の准学士号を持っているが、現在の仕事に関連した専門教育は受けていない。しかし、運転が好きで、前職では上司の運転手を務めていた。自動運転技術のことを聞いた時、興味を持ったリウはネット上で関連する仕事を調べて応募した。短い髪、温かい笑顔、そして特徴的な北京語を話すリウは現在、週5日、北京のシャオガン公園で「運転」をしている。シャオガン公園は8.5平方キロメートルもの広さがあり、以前は発電所だったが、2022年の冬季オリンピックで競技会場として使われた後、観光客向けの施設へと変貌を遂げた。シャオガン公園がロボタクシーの試験運転エリアに定められているため、リウの車は公園から出られない。乗客は主にそこで働く従業員か、週末に訪れる観光客ということになる。

ただ、この仕事は数年以内になくなる可能性が高いことから、リウは次のステップを考える必要がある。セーフティ・オペレーターとしての19カ月間、リウはロボタクシー・モデルと政策の変化をいくども経験してきた。2021年4月、バイドゥはシャオガン公園内に限り、セーフティ・オペレーターを運転席ではなく助手席に座らせる許可を得た。そのため、リウの立場はわずかに変わり、ハンドルを握っての運転に別れを告げることになった。今年7月21日、バイドゥは2023年に運行開始予定の、ハンドルを取り外せる新しいロボタクシー・モデルを発表した。

MITテクノロジーレビューは今年6月、リウ・ヤンへのインタビューを実施した。どうやってこの仕事に就いたか、日常生活はどのようなものか、近々なくなると想定される職業にはどのような将来が待ち受けているかなど、話を聞 …

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