メタのメタバース「足」追加で普及なるか? 20万円超ヘッドセットも
フェイスブックが「メタ」に社名を変更してから1年。メタはメタバースの普及に必死だ。高級VRゴーグルの発売、アバターへの「足」の追加などの新展開が発表された。 by Tanya Basu2022.10.14
10月11日に開催されたメタのVR(実質現実)/AR(拡張現実)開発者向け年次カンファレンス「メタ・コネクト(Meta Connect)」の基調講演の目玉は、「メタ・クエスト・プロ(Meta Quest Pro)」だった。この最新VRゴーグルは、1499.99ドル(日本では22万6800円)という途方もない価格で販売される。従来バージョンの「メタ・クエスト2(Meta Quest 2)」の399.99ドル(日本では5万9400円から)と比較するとあまりにも高い。メタ・クエスト2も決して安い買い物ではないが、それでも数百ドルに収まっている。
「メタバースは誰もが利用できる『次世代のソーシャル・プラットフォーム』を目指している」というイベント中でなされた同社の主張と、この価格設定は明らかに矛盾している。たとえVRゴーグルに1500ドルもの大金をはたける幸運な人だとしても、本当に買いたいと思うだろうか。
これこそが、メタが取り組んでいる問題だ。VRゴーグルの価格こそ急激に上がったが、その他のメタの大きな動きのほとんどは、メタバースを誰もが気軽に使えるようにすることだ。つまり、メタバースを一般の人が実際に使いたいと思えるものにすることである。
メタのメタバースの歩みは、決して順調ではなかった。創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が「人類のデジタル生活の未来」だと信じた方向へ会社の方針を転換することを印象づけるため、フェイスブックからメタに社名を変更してから1年。しかし社名変更以来、メタはちょっとした問題や失態に悩まされている。鳴り物入りで登場したザッカーバーグCEOのアバターはミーム化し、メタの従業員がメタバースに興味を示していないと思わせる記事が掲載され、バーチャルな世界で痴漢をされたという訴えも上がっている。
現在のメタは、次々とアップデートを実施して、人々が何に興味を持つのか見極めようという戦略をとっている。言わば「試行錯誤」の段階だ。
今回のメタ・コネクトでは、メタ・クエスト・プロのほかにも、メタのメタバースであるVRソーシャルメディア・プラットフォーム「ホライズン・ワールド(Horizon Worlds)」をモバイル機器やPCユーザーに解放することが発表された。その狙いは、VRゴーグルを使わずともバーチャル世界にアクセスできるようにすることだ。
この動きは注目に値するものだ。VRゴーグルが思うように普及していないことを、メタが暗に認めているからだ。メタバースを実際に体感、あるいは理解する人の数が少なければ、メタの製品の普及など期待できない。メタがバーチャル世界を消費者が気軽に使えるプラットフォームとして(メッセンジャーやインスタグラムのように)解放すれば、1499.99ドルよりもはるかに少ない399.99ドルでさえ払いたいと思わない人々にも、新しい世界を体験する手段を提供できる。
もう1つ、期待はずれの体験もメタバースの普及を妨げている要因だ。ホライゾン・ワールドのアバターは下半身がなく、胴体が宙に浮いている状態で、ユーザーの不興を買ってきたが、今回のイベントでは改善が発表された。メタのアンドリュー・ボズワース最高技術責任者(CTO)は以前、インスタグラム上で質問を募集し、全身を動かせるアバターを実現するのは困難だと回答していた。人間の動きをVR上で再現する(VRトラッキング)には、実生活における人間の目や手の動きを把握する必要があり、「足の動きを正確に再現するのは極めて困難で、既存のVRゴーグルでは物理的な観点から根本的に不可能」だとしていた。
"legs are hard" says Meta's Mark Zuckerberg of avatars… But they're on the case… pic.twitter.com/mwSDagmrGm
— Zoe Kleinman (@zsk) October 11, 2022
だが、ザッカーバーグCEO(のアバター)はメタ・コネクトで、人工知能(AI)を使ってメタバース内での足の動きを精密に再現すると発表した。アバターは歩いたり、走ったりするだけでなく、デジタルなズボンを履けるようにもなる(メタバースのアパレル市場にはザッカーバーグCEO本人が以前から興味を示している。ロブロックス(Roblox)は、現在かなりの市場シェアを獲得している)。実現すれば、ユーザーがメタバース上での動き方を考えたり、どのように自分を表現するかを決めたりするうえで、大きな一歩となるだろう。
しかし足が動かせるようになったり、VRゴーグルを装着せずにメタバース内を歩き回れるようになったりしても、肝心な問題は解決しない。メタのメタバースは人々が実際にお金を払って利用するサービスになり得るのだろうか。注目したいのは、メタの従業員ですら自社のビジョンに対して懐疑的なことだ。ある従業員などはメタが今までにこうしたプロジェクトに費やした金額を考えると「吐き気がします」とさえ言っているのだ。
無料で共有可能な、リンクをクリックすれば使えるメタバースは、数百ドルを費やせない人々に対して閉ざされていた世界を開くことになる。メタバースという空間の民主化に向けた、大きな動きになる。アニメ化している上司と会話するのが、とてもクールだというメタの主張を人々が受け入れるかもしれない。もっと視野を広げれば、メタバースは実際に人々が生活する次世代ネット空間になる可能性がある。
だが、逆の可能性もある。リンクをクリックしてメタバースに飛び込んでみたら、全身が動く状態にはなったものの、結局、地に足がついていないという感想を消費者は抱くかもしれない。
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- ターニャ・バス [Tanya Basu]米国版 「人間とテクノロジー」担当上級記者
- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。