KADOKAWA Technology Review
×
未来に蘇生の希望を託す、
人体冷凍保存ビジネスの現在
Alessandro Gandolfi
生物工学/医療 Insider Online限定
Why the sci-fi dream of cryonics never died

未来に蘇生の希望を託す、
人体冷凍保存ビジネスの現在

人体を冷凍保存し、未来に蘇生させるというアイデアは、何十年も消えずに残っている。実現の目処が立っていないにもかかわらず、希望が捨て去られることなく、さらに大きくなっているのはなぜだろうか。 by Laurie Clarke2022.10.17

2016年のことだ。アーロン・ドレイクは、米国アリゾナ州から中国東部の山東省済南市にある銀豊生物工学グループ(Yinfeng Biological Group)へ向かった。ドレイクは到着するとすぐに、多数の博士と医学博士を含む1000人を超えるスタッフが臍帯血の幹細胞の研究などに取り組む、最先端バイオテクノロジーの拠点へ案内された。その研究所は、遺伝子検査からオーダーメイドのがん治療まで、ヒト細胞の研究を専門としていた。

だが、別の計画もそこには存在していた。円筒形のステンレス製タンクに、最終的に液体窒素に浸された死体を収容するという計画だ。タンクはまだ設置されていなかったが、銀豊はこの新しいプロジェクトを軌道に乗せるために約700万ドル投資しており、ドレイクにその手助けをしてほしいと考えていたのだ。ドレイクは、中国が初めて蘇生を目的とした人体冷凍保存(クライオニクス)に乗り出す際の指導役として雇われた大物だった。

それまで7年間、アルコー延命財団(Alcor Life Extension Foundation)で医療対応責任者を務めていたドレイクにとって、ちょっとした環境の変化だった。アルコー延命財団は長年にわたって人体冷凍保存のリーダーだったが、小規模な非営利団体に過ぎなかった。1976年以来、会員たちの体や脳を凍結し、いつの日か蘇生させることを目的に活動してきた。

アルコー延命財団、そして人体冷凍保存は概して、主流派の支持を得ることなく、長い間存続していた。人体冷凍保存は通常、科学界から敬遠されているが、『2001年宇宙の旅』のようなSF映画に登場することで有名だ。人体冷凍保存の信奉者は、将来のある時点で、医学の進歩によって蘇生が可能になり、この世でまた生きられるという夢を持ち続けてきた。何十年もの間、関連テクノロジー分野での興味をそそるような小さな発展や、米・大リーグの名選手テッド・ウィリアムズのような有名人の遺体が冷凍保存されることで、その希望は生き続けてきた。現在、200人近い死亡患者がアルコー延命財団の極低温槽の中でマイナス196℃で凍結されている。その中には、「想定される蘇生」と最終的な「社会復帰」を目標に数万ドルを支払った一握りの有名人も含まれている。

しかし、最近の銀豊の関与は、人体冷凍保存の新時代の到来を示唆している。銀豊は、豊富な資金源、政府の支援、および科学スタッフを擁しており、人体冷凍保存の消費者へのアピールを拡大し、長い間論争を巻き起こしてきた人体蘇生理論に新たな信憑性をもたらすことに焦点を当てた、数少ない新しい研究所の1つだ。ドレイクが銀豊生物工学グループの子会社で冷凍保存プログラムを監督する山東銀豊生命科学研究院の研究主任に就任してからちょうど1年後、同研究院で最初の冷 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. A tiny new open-source AI model performs as well as powerful big ones 720億パラメーターでも「GPT-4o超え」、Ai2のオープンモデル
  2. The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
  3. Geoffrey Hinton, AI pioneer and figurehead of doomerism, wins Nobel Prize in Physics ジェフリー・ヒントン、 ノーベル物理学賞を受賞
  4. Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者は11月発表予定です。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る