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きっかけはTIkiTok、私はいかにして「カラス沼」にハマったか
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How to befriend a crow

きっかけはTIkiTok、私はいかにして「カラス沼」にハマったか

ティックトックの「おすすめ」に従ってカラスに興味を持った記者は、たくさんの動画を見た挙句に、実際に自分もカラスと友だちになりたいと考えるに至った。 by Abby Ohlheiser2023.01.03

ニコル・スタインクは、上の子が学校へ行ったあと、カラスたちとかくれんぼをして遊ぶ。バージニア州アレクサンドリアにある自宅アパートのバルコニーから1日2回、カラスの一家に餌付けをしているのだ(大抵はピーナッツだが、クルミやカシューナッツも大好物である)。餌がなくなると、カラスたちはスタインクが近隣を散歩しているのを探しにやってくる。一羽のカラスが彼女を見つけると、仲間に呼びかけ、彼女を取り囲んで騒ぐのだ。

この光景は、周囲の人を怖がらせることもあるという。「死が訪れていると連想する人もいます。カラスは黒猫と同じで、不吉の象徴なのです」。

スタインクのカラスは不吉の象徴ではない。そのうちの一羽はワッフルズと名付けられた。そしてこの鳥たちは、マイナーではあるもののティックトック(TikTok)のスターでもある。それもこれも、このソーシャルプラットフォームで過去2年間に爆発的な人気を集めた、小規模ながらも極めて活動的なニッチ層である#CrowTok の存在があったからこそだ。

@tangobirdというアカウント名で投稿しているスタインクは、子どものころから時折、カラスに餌を与えてきた。現在は、6羽ほどのカラスの一家に餌付けをしている。メンバーはワッフルズ、ドクとドッティ、そして2羽の子どもであるドクトックだ(ちなみに18万7000人いるスタインクのティックトックフォロワーが命名した)。

@tangobird


だが、#CrowTokは単に鳥についてだけ扱っている訳ではない。カラス、カササギ、ワタリガラスといったカラス科の鳥たちが、人間とどのような関係を築いているのかについて、取り上げていることも少なくない。このジャンルの複数のクリエイターたちによると、もっともバズった動画の多くは、カラス科の鳥たちが人間の友だちにプレゼントを贈るシーンだという(もちろん、これは可能性の話であり、絶対ではないそうだ。すべてのカラスがプレゼントで感謝を伝える訳ではない)。

「飼っている猫のために、鳥の鳴き声目当てでフォローしてくるフォロワーもいます。鳥好きの人で、野鳥観察が目的の人もいます。私の娘と同じ10代くらいの子が、プレゼントをあげる様子が好きでフォローしたりもします」とスタインクは語る。「カラスは、不吉というイメージさえ払拭できれば、興味を持たずにはいられない鳥なのです」。

ティックトックのアルゴリズムの誘導によって、自分の「おすすめ」ページにカラスの動画が何カ月も表示され続けたことがきっかけとなって、私は6月に#CrowTokにハマることとなった。そして、半ダースほどのカラス系ティックトッカーのアカウントをフォローし始めた。庭を訪れ、人間を観察し、車のかたわらを飛ぶといった、カラスが人間の友だちに関心を寄せている様子に引き込まれたのだ。さらには友人たちにも、カラス仲間にならないかと声をかけてみた。結果は上々だった。ある友人が、さっそく一緒に公園に行って、カラスを探してみようと誘ってくれたのだ。

そんな私の、半分妄執ともいえる新たな興味は、こんな疑問につながった。それは、カラス科の野鳥と関係を築くことに興味を抱く人間には何らかの傾向があるのだろうか、というものだ。私は、ジェニー・オデルが2019年の著書『何もしない(原題:How to Do Nothing)』の中で、近所のカラス「クロウ」と「クロウソン」に餌付けをする話を書いていたことを思い出していた。アテンション・エコノミーの支配からの脱却について記している本だが、もしかしたら私は、瞑想的な行為としてカラスに餌をやりたいのかもしれないと思い至った。

この考えを裏付けるかのように、#CrowTokのクリエイターであるクリスティ・マクマナマンは、私にこう語ってくれた。「カラスは信じられないほど周囲の環境に気を配り、人間を観察する術を知っています。そんなところが、とても心地よく感じるのです」。マクマナマンは、カナダのノバスコシア州ハリファックス周辺で、何羽ものカラスに餌を与えている。彼女のアカウントである@crowdsofcrowsのフォロワーは約12万5000人にのぼる。彼女の活動は2016年、あるクライアントの家の外で毎日待っているカラスを目撃したことから始まった。今では、カラスの一家が道路沿いを低く滑空することを覚え、マクマナマンが近所を運転していると車のすぐ後ろをついてくるようになった。この習慣は、マクマナマンから最後のおやつ一粒をもらおうという決死の努力から始まったものだが、今ではいくらかの意図的な訓練によって強化されている。

@crowdsofcrows

それから私は、さらにたくさんの動画を見て、カラスの沼に深くハマっていった。そしてカラスの行動が、家族や地域によって異なることを知った。#CrowTokの制作者たちは、閲覧者にカラスとの関係を伝えるとともに、その関係性がいかに特有のものであるかを記録しているのだ。

カラス科の鳥は世界におよそ50種ほど存在するが、それぞれが異なる行動様式を持っている。コーネル大学の鳥類学者で35年間カラスの研究をしているケビン・マクゴーワン博士によると、カラス科だけが知的な鳥という訳ではないが、彼らは総じて、人間の心に深く訴えかける種類の賢さをもっているという。なぜなら、人間が得意としていることのいくつかは、カラス科の鳥もまた得意とするところだからだ。

2020年に学術誌サイエンス(Science)に掲載された研究によると、カラスは自分の思考を持っていることが分かった。カラスは個々の人間の顔を認識し、その顔を友好度合いや危険性と関連付け、その知識を仲間に伝えることができる。

「カラスの社会システムは、私が知る他のどんな動物のものよりも、西洋文明に似ています」とマクゴーワン博士は言う。米国のカラスは、「家族がいて、守るべき領域を持っていますが、同時に気を配っている近所付き合いもあります。」そしてカラスは、よく知らない、より大規模なカラスの集団とも交流を持つ。その様子は、人間が身近な人間関係を超えて地域社会と関わりを持つのと似たようなものだ。

しかし、警戒心も強い。「カラスは、おそらく他のどの鳥よりも、個々の人間に注意を払っています」とマクゴーワン博士は付け加える。当初、それは自分たちの身を守るための行動だった。歴史的に見ると、米国に生息するカラスは、特に東海岸においては、害鳥として射殺されていた。人間がカラスに餌をやるようになったのは、比較的最近のことだ。

マクゴーワン博士が1990年代にカラスの研究を始めたとき、最初はカラスに嫌われていたという。彼が木に登って、巣の中を覗き込んでいたからだ。カラスはマクゴーワン博士の顔や車、日課を覚えた。「カラスたちが通りを走っている僕の車を追いかけてきて、群がってくるんです」。

コーネル大学のキャンパスで、特に熱心なカラスが遠くからマクゴーワン博士を見つけ、わざわざ飛んできて鳴き叫んだことから、彼はこのままではいけないと考えるようになった。「カラスに好かれたいと思ったのです」とマクゴーワン博士は語る。「そこで、カラスにピーナッツを投げてやることにしました」。もちろん、最初は遠くからだ。マクゴーワン博士のことを知っているカラスでさえ、最初は餌を求めて彼に近づくことを極端に警戒していた。しかし、この作戦はやがて功を奏した。「ある友人が言うには、カラスたちは、『まさか、木登り男がピーナッツをくれる人だなんて』という、ある種の認知的不協和を起こしたに違いないとのことです」と彼は振り返る。今では、カラスたちはマクゴーワン博士の車を追いかけ、道を歩く時はつきまとうようになった。おやつを持っているかもしれないと知っているからだ。

取材の際、スタインクは、カラスに餌をやるには何をしたらいいのかを私に手ほどきしてくれた。彼女が言うには、まずはカラスを見つけ出すことが必要だ。その点については、私はすでにクリアしていた。近所の人が、周辺に住むカラスの一家について教えてくれたからだ。その一家は、我が家の裏の路地にある大きな木によく出没していた。次に、おやつを置いて、決めた餌場までおびき寄せてみる、とのことだった。そこで私は、猫用のドライフードを出してみた。

数週間が過ぎ、私は自宅の裏口からルーフデッキを覗き込み、新たな友だちになるかもしれないカラスたちの反応を見ようとしていた。しかし、彼らは訪れなかった。その後、1週間ほど雨が続いた。私は、カラスたちが記事の締め切りを気にも留めていないように思えて、いら立ちを感じ始めた。

「カラスには食べ物の好みがあるのです」とスタインクは説明する。「カラス専用のちょっとしたブッフェ台のように、いろいろな食べ物を並べておくと、どれかは必ず気に入ってくれますよ」。ドッティはスクランブルエッグが一番のお気に入りだそうだ。スタインクが出会ったカラスのほとんどは、生焼けのハンバーガーパテに夢中になる。スタインクは私に、無塩のピーナツやカシューナッツを用意するよう勧めた。これはカラスにとってごちそうなのだろう。

しかし、私が直面していた本当の問題は、食べ物ではなかったかもしれない。私がカラスに興味を持ったのは、ティックトックのアルゴリズムによって「おすすめ」された動画がきっかけだった。私は、自らの新たな興味を探る手法としてオンライン・コンテンツに頼り、カラスとの親交を急速に深めるよう自分にプレッシャーをかけてしまった。だが、オデルとカラスとの関係性が示すように、カラスと友だちになる真の秘訣は、「忍耐」と「習慣」という、動画の閲覧数を稼ぐこととは対極にあるものなのだ。

カラスは、餌が安全で毎日置いてあることから、餌付けする人が脅威でないことを学習するようになる。カラスは人間の友だちにプレゼントを持ってくることで有名になった。しかし現実には、カラス科の鳥たちの友となることは、より大きな責任を伴う。

マクゴーワン博士は、何十年にもわたって人間に対してカラスに餌をやるように勧めてきた。しかし、やり方によっては間違った方向に進んでしまう可能性もあると警告する。「何が起こるかというと、人間が餌をやることに夢中になりすぎてしまうということです。そうすると、カラスが厄介者になってしまうのです」。餌を多く出し過ぎると、常にカラスが近所に出没する状態となってしまうのだ。カラスが互いにコミュニケーションをとっているように、カラスが好きな人間側も、自分たちの習慣が周囲の人間にどのような影響を与えるかを知っておく必要がある。

スタインク自身は、将来アパートを引き払った場合に起こることを想定して、今から準備を進めている。

「この話をすると涙が出そうです。カラスたちは何年も食べ物を求めてバルコニーに現れ続けるでしょう。今ほど頻繁には来なくなるかもしれませんが、必ず様子を見に来るはずです」。そのための対策も考えた。今では、スタインクのアパートに住む他の友人たちも、カラスと仲良くなろうと試みている。このアパートのカラス愛好会が協力して管理できるよう、近くに餌場を設置しようとしているのだ。

私は先日、猫用ドライフードを処分して、餌台と無塩ピーナッツの袋を購入した。近所の木に住むカラスたちが気づいてくれることを願っている。

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アビー・オルハイザー [Abby Ohlheiser]米国版 デジタル・カルチャー担当上級編集者
インターネット・カルチャーを中心に取材。前職は、ワシントン・ポスト紙でデジタルライフを取材し、アトランティック・ワイヤー紙でスタッフ・ライター務めた。
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