次世代太陽電池、洋上風力、蓄電池は送電網をどう変えるか?
すでに再生可能エネルギーの導入は始まっているが、研究所やスタートアップ企業がもたらすさらなる進歩が、技術をさらに前進させる。その前進によって、気候変動の目標を達成することはできるのだろうか。 by Casey Crownhart2022.11.22
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
太陽光発電、風力発電、蓄電池といったテクノロジーは、すでに大規模な展開が始まっている。だが、気候目標を達成するためにはさらに改良を重ね、価格をもっと下げていく必要がある。そこで、エネルギー分野で次に来そうなものをちょっと覗いてみるとしよう。
ヒア・カムズ・ザ・サン(ほら、太陽が昇ってきたよ)
2022年に初めて、太陽光発電と風力発電が世界の発電量全体の10%以上を占めるようになったが、太陽光発電産業はまだ成長し続ける必要がある。 一部のアナリストによると、2030年頃までに太陽光発電所の年間建設量を現在の4倍にする必要があるとのことだ。
太陽電池の主流はシリコンだが、企業や研究者たちはほかの選択肢を模索し続けている。特に、太陽電池業界で話題に事欠かないのが、ペロブスカイトと呼ばれる種類の材料についてだ。
ペロブスカイトは、取り込んだ太陽エネルギーを電気に変換する効率の高さから期待されている。シリコン太陽光パネルは、これまで40年の時間をかけて、ゆっくりと、しかし確実に25%を超えるまで効率を高めてきた。一方ペロブスカイトは、10年かからずに同じレベルにまで到達し、今では常にシリコンをしのいでいるという状況だ(この素晴らしいグラフをご覧に入れよう)。
とはいえ、良いことばかりではなない。ペロブスカイト材料は耐久性に大きな課題を抱えている。ペロブスカイトの取材をしていると、こんな昔話を何度も聞いた。ペロブスカイトで作った太陽電池はあっという間に崩れてしまう。研究者は、性能測定のために電池を作った場所から試験場まで駆け足で移動しなければならず、そのために良いランニングシューズが必要だったそうだ。
ペロブスカイトの寿命は飛躍的に延びた。とはいえ、屋外で20年の耐久性を発揮するシリコン太陽光パネルに対抗するには、まだまだと言わざるを得ない。
MITテクノロジーレビューの「35歳未満のイノベーター」の2022年の1人に選ばれた西湖大学のルイ・ワング教授は、ペロブスカイトの耐久性問題の解決に取り組む研究者の一人だ。ワング教授は、ペロブスカイトの寿命を延ばすことのできる添加剤を開発している。
変革の風
すべてを太陽光発電に頼ることはできない。風力発電は、送電網を整備する上で欠かせない電力源の一つだ。
風力タービンは陸上に建設するだけでなく、水深が深すぎなければ沖合に建設することも可能だ。しかしこの数年間で、複数の企業がより大きな夢を抱き始めた。 世界初の商業規模の浮体式洋上風力発電所の建設だ。
スコットランドやポルトガルでは現在、浮体式風力発電機が稼働しており、韓国では数年後に完成予定の大規模プロジェクトが進行中だ。
米国も洋上風力発電に本腰を入れつつある。バイデン政権は、2035年までに15ギガワットの浮体式洋上風力発電を現実のものとし、その設置や維持管理にかかるコストを70%まで削減するという目標を掲げている。そして12月には、カリフォルニア州が洋上風力発電向けに、2つの主要な海域を入札にかける予定だ。
海に浮かぶ巨大な構造物を建設して発電することは、相当困難なことだ。今のところ、浮体式タービンの設置、維持にかかるコストは極めて大きいとされている。また、沿岸地域の地元住民を巻き込むことも難しく、カリフォルニア州で過去に行われた浮体式洋上風力発電のプロジェクトでは、この点がネックとなった。
風が吹かないなら充電すればいい
風が吹いていようがいまいが、太陽が照っていようがいまいが、私たちは照明を点けたいし、冷蔵庫を動かし続けたい。そこで再生可能エネルギーによる送電網を構築する上で重要な要素となるのが、風力発電や太陽光発電のような間欠性電源の釣り合いを保つことである。
地熱発電や水力発電、原子力発電はいずれも天候に左右されないため、解決策の一部となるかもしれない。ところが次第に、風力発電や太陽光発電の出力変動に対しては、蓄電池が大きな役割を果たすと考えられるようになってきたのだ。IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)によると、2030年までに世界で必要とされる送電網向け蓄電池(グリッド・ストレージ)は、これまでに設置された量の40倍以上になると予想されている。
現在、送電網で使われている蓄電池の大半はリチウムイオン電池だ。これは、携帯電話やノート・パソコン、電気自動車が使っているものと同様のものだ。
リチウムイオン電池は、持ち運びを想定しているので軽量でなければならない。 送電網用の蓄電池は設置してしまえばその場から動かす必要はない。この点が、グリッド・ストレージの新たな可能性を広げている。かさ張って重い代替品であれば安価で入手でき、リチウムやニッケル、コバルトなどといった素材で予想される供給制限の回避にも貢献できるかもしれない。
MITテクノロジーレビューが選んだ「2022年の世界を変えるテクノロジー10」の1つ、送電網の鉄フロー電池は、次世代のエネルギー貯蔵の要件を満たす可能性がある。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。