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AI企業幹部が集う米議会の非公開会合、何が議論されるのか?
Drew Angerer/Getty Images
What to know about Congress’s inaugural AI meeting

AI企業幹部が集う米議会の非公開会合、何が議論されるのか?

米連邦議会はAI政策について議論する非公開のフォーラムを開催する。オープンAIやグーグルのCEOも招待されているというこのフォーラムでは、AIのリスクや機会、関連する法律の策定についての議論される予定だ。 by Tate Ryan-Mosley2023.09.14

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国議会は審議を再開し、人工知能(AI)に本格的に取り組んでいる。9月13日のチャック・シューマー上院院内総務による初のAIインサイト・フォーラム(AI Insight Forum)を皮切りに、今後数週間のうちにAI規制に関するさまざまな計画や立場について耳にすることになるだろう。今回、そして今後予定されているフォーラムでは、AI分野のトップが集まり、このテクノロジーの進歩がもたらすリスクと機会について、そして議会がリスクに対応し機会を捉えるための法案をどのように作成するかについて議論する。

今回の記事では、このフォーラムの正確な姿と、フォーラムから何が生まれるのかを解説する。 フォーラムは一般や報道陣には非公開で開催される。そこで、招待状を受け取ったハギング・フェイス(Hugging Face)の関係者に、議論に臨むにあたっての期待と優先事項について話を伺った。

AIインサイト・フォーラムとは何か

シューマー上院院内総務は6月末、「SAFEイノベーション・フレームワーク」と呼ばれるAI法制化構想の一環として、初めてこのフォーラムについて発表した。シューマー上院院内総務は9月5日の議場での発言で、「AIに対して議会はどのように対応できるのか開かれた形で議論し、どこから始め、どのような質問をし、どのようにSAFE AIイノベーションの基盤を構築するのか議論する」予定だと述べた。

念のために説明しておくが、SAFEイノベーション・フレームワークは立法案ではなく、AI規制に関してシューマー上院院内総務が示した優先事項群である。この優先事項群には、イノベーションの促進、米国のテック業界支援、AIが労働者にもたらす影響の理解、セキュリティ・リスクの軽減などがある。9月13日の会合は9回予定されているセッションの1回目だ。その後の会議では、「知財問題、労働力問題、プライバシー、セキュリティ、協力連携など多くの」トピックを取り上げる予定だと、シューマー上院院内総務は述べた。

誰が招待され、誰がされないのか

1回目のフォーラムの招待者リストが2週間前に公開され、話題となった。アクシオス(Axios)が最初に報じたそのリストには22名が名を連ねており、オープンAIの最高経営責任者(CEO)であるサム・アルトマン、マイクロソフトの元CEOであるビル・ゲイツ、アルファベット(グーグル)のCEOであるサンダー・ピチャイ、エヌビディアのCEOであるジェンスン・フアン、パランティア(Palantir)のCEOであるアレックス・カープ、XのCEOであるイーロン・マスク、メタのCEOであるマーク・ザッカーバーグなど、出席を予定しているテック企業幹部の名が多数あった。

米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO:American Federation of Labor and Congress of Industrial Organizations)のリズ・シューラー会長やAI説明責任分野の研究者であるデブ・ラジなど、市民団体やAI倫理の研究者も招待者リストに入っていたが、AIで利益を得ようとしている経営者に偏っているとして、観測筋や著名テック政策関係者は批判した。

これほど多くのテック系リーダーが名を連ねていることは、業界を安心させようとする政治的シグナルかもしれない。テック企業は今のところ、AI政策に大きな力と影響力を持つ立場にある。

フォーラムから何を得られるのか

これらのフォーラムがどのような結果をもたらすのか。非公開であることを考慮すると、具体的な会話内容や議会への影響について、完全に把握することはできないかもしれない。このフォーラムは、AI分野のリーダーたちがAIやその規制に関する疑問について議員を教育するリスニング・セッションになると予想されている。9月5日にシューマー上院院内総務は、「もちろん、実際の立法作業は委員会でされますが、AIフォーラムは培養地となり、この目標到達のために理解しなければならない事実を伝え、課題を与えてくれるでしょう」と述べている。

フォーラムは機密扱いとされているが、もし議論された内容について何らかの情報が得られたら、7月に取り上げた米国のAI規制に関するいくつかの潜在的なテーマに耳を傾けるつもりだ。そのテーマは、米国のテック業界育成、AIと「民主主義の価値」との整合性、通信品位法230条とオンライン言論に関する既存の疑問への対処(あるいは無視)だ。

招待者はどのような準備をしているのか

オープンソースをベースにしたAI開発ツールを構築しているハギング・フェイスのイレーネ・ソライマン政策担当部長とは何通かメールをやり取りした。ハギング・フェイスのクレム・デラングCEOは、9月13日のフォーラムに向かう22人のうちの1人だ。ソライマン部長が言うところの「消防ホース」のような状況の変化を考えて、ハギング・フェイスは出来うる限りの準備をしていると述べた。

「キャピトル・ヒル(米連邦議会)の優先順位を把握するために、最近の規制案を吟味しています」とソライマン部長は言い、機械学習チームや研究開発チームと協力して準備を進めていると付け加えた。

ハギング・フェイスは政治的優先事項として、「NIST(米国国立標準技術研究所:National Institute of Standards and Technology)による優れた研究や、NAIRR(国家AI研究リソース:National Artificial Intelligence Research Resource)への資金提供など、より多くの研究インフラ」を奨励し、「オープンソース・コミュニティの活動が保護され、より安全なAIシステムへの貢献が認められるようにしたい」と考えている。

もちろん、他の企業も独自の戦略や課題を持って議会に働きかけるだろう。どのような結果がもたらされるのかを見守っていかなければならない。本誌のメリッサ・ヘイッキラ記者(AI担当)もこの件を取り上げる予定なので、続報を待ってほしい。

テック政策関連の気になるニュース

テック政策関連の注目研究

グーグルは自社の広告ポリシーのせいで再び苦境に立たされている。 「憎悪と過激主義に対する世界プロジェクト(GPAHE)」が発表した報告書によると、ドイツ、ブルガリア、イタリア、フランス、オランダの極右、人種差別主義者、反移民団体など、世界中の過激派グループが購入した広告から、グーグルが利益を得ていたことが分かったという(グーグル広告が、AIが生成したコンテンツ・ファームをどう宣伝し、そこからどう利益を得ているかについて最近記事を書いた)。

報告書によると、「グーグルは2019年から2023年にかけて極右団体による177の広告を掲載。違反団体と見なして削除するまでの間に、広告は全体で5500万から6300万回表示された」という。グーグルはその広告によって6万2000〜8万5000ユーロの収入を得ていたとGPAHEは報告している。グーグルにとっては取るに足らない金額かもしれないが、それでも有害なインセンティブ・モデルであることが示されている。また、GPAHEはこの調査結果は包括的なものではないと指摘している。

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テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。
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