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中国テック事情:ヤフーは中国で何をし、何をしなかったのか
Michael Macor/San Francisco Chronicle via AP
Yahoo’s decades-long China controversy and the responsibility of tech companies

中国テック事情:ヤフーは中国で何をし、何をしなかったのか

2000年代初頭、米ヤフーはユーザー情報を中国政府に渡していたことが発覚したとき、この件で捕まった中国人を救済するとして基金を創設した。だが、使途が不透明であるとして当事者から訴えられており、いまだ決着はついていない。 by Zeyi Yang2024.01.22

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国のテック企業が中国政府のインターネット統制に加担しているかどうかは、長年にわたる論争の的だ。しかし、アップルがローカルユーザーデータの管理を中国政府に譲り渡したりマイクロソフトが人工知能(AI)研究において中国軍が運営する大学と提携していたことが発覚したりするずっと前から、ヤフーは中国で活動していた。

2000年代初頭、ヤフーは中国で人気の検索エンジンと電子メールサービスを運営していた。同社はユーザー情報を中国政府に共有していたことが発覚した最初のテック企業の一つである。これは多数の中国国民の投獄に繋がった。それに続く注目と2人の政治犯の家族によって起こされたヤフーに対する訴訟は、同社にとって大きな痛手となった。

これらはすべてはるか昔の出来事のように思える。だが、本誌のアイリーン・グオ記者は、このヤフーの動きの影響は現在でも非常に大きいことを見い出した。

当時、この訴訟を解決して汚名を返上するために、ヤフーは同様の状況下にある人々の救済を目的とした「ヤフー基本的人権基金(YHRF)」を設立した。この動きによってヤフーは当初、十分好意的な注目を集めたが、少なくとも新しい訴訟によって訴えられているところによれば、YHRFは失敗に終わった。この訴訟は6人の中国人元政治犯によって起こされたもので、彼らはYHRFの援助を受けたが、その過程でありとあらゆる問題を抱えていた。彼らの主張によれば、彼らのようなサイバー反体制派に対しては基金のわずか一部しか使われず、数百万ドルが無駄に使われたという。

この基金がどのように管理され、ヤフーがそれに対して何をしたか(あるいはしなかったか)に関する新情報を含むアイリーン記者の調査の詳細は、こちらで読むことができる。

今日はこの裏話を少しお伝えしたい。 

MITテクノロジーレビューの特集・調査担当上級記者であるアイリーンがこの件を知ったのは、現在ヤフーとYHRFに関係のある他の被告を訴えている人々の代理人である弁護士、タイムズ・ワンのツイッターのスレッドがきっかけだった。ワン弁護士は、かつての巨大テック企業であるヤフーと、同社が基金運営を委託していた組織に対し、しばしば一人で、どのようにして何年も闘い続けたか述べていた。

「特に私が注目したのは、こんなことが起こっているなんて聞いたこともなかったことです」。アイリーン記者は、ヤフーが中国保安当局にユーザー情報を渡していたことについてこう語る。「このようなことが起こっているのに、私たちがそれについてこれ以上話さないということが、私にはクレイジーに思えました」。

そこから、彼女は何千ページもの法定文書に目を通し、重要な情報の開示を裁判所に要求し、何が間違っていたのか、原告と話して、彼らの生活がどのような影響を受けたのかを知ろうとした

基金の資金の用途に疑問を抱いていたのは、アイリーン記者だけではなかったことがわかった。「ヤフーの株主は、ヤフーからより多くの情報、透明性、責任を得ようと、何年にもわたって幾度も提案をしていました」と彼女は言う。「その中には、ニューヨーク市の会計監査役も含まれます。同市の複数の機関がヤフーに投資していたためです」(ヤフーはこれらの提案のすべてではないにせよ、その多くに反対した)。

特に私が驚いたのは、これだけの努力がなされてもなお、この基金が信じられないほど不透明のままであることだ。基金の総額(1730万ドル)は、設立から8年後の2016年にフォーリン・ポリシー(Foreign Policy)が調査をするまで明らかにされなかった。そのうちいくらが現在も残っているのか、またYHRFが支援した反体制派の中国人が誰か、何人いるのかでさえ公にされていない。真の人道的目的のために設立された基金であれば、その運営は間違いなくもっと精査されるべきだ。

ヤフーと同基金を管理していた人々の責任を追及しようとした訴訟の中で、今回の訴訟は最も進展している、とアイリーン記者は言う。提訴から6年経った2024年は、ついに裁判が開かれるかもしれない。その過程で、より多くの関連情報がようやく公開される可能性がある。(ヤフーのコミュニケーション統括責任者であるソナ・ムーンはアイリーンに対し、この訴訟は「ヤフーによる人権侵害を意味するものではありません」と語り、「この訴訟は、ヤフーの現在のビジネスや所有権とはまったく無関係です。私たちは、私たちが活動するあらゆる場所において、人権を尊重し擁護する義務を真剣に受け止めています」と付け加えた。)

自分たちが受けられると信じていた援助を拒否されたという原告たちにとって、この訴訟は待望の結末をもたらすかもしれない。しかし、ヤフーのアカウントを持っていなかったり、同社の全盛期を覚えていない人を含む、他のすべての人にとっても本件は重要である

現在のテック業界においてヤフーはさほど力を持たないにせよ、同社が引き起こした混乱からは、テック企業があまりにも頻繁に引き起こす損害を修正することがいかに難しいかという重要な教訓が得られる。

2008年にヤフーがこの人道支援基金を発表した際、これはハイテク企業が責任を持ち、人道支援の重要性を遵守している例として称賛された。「ヤフーに関するさまざまな言説が、ほとんど即座に変わりました。ヤフーは基本的人権の先駆者として称賛されました」とアイリーン記者は言う。

しかし、それ以降の展開を見ていると、体裁が良いだけでは不十分であることがわかる。「私が得た知見のひとつは、テック企業にとって、危機管理コミュニケーションや広報戦略を成功させることで補償をするのは実に簡単だということです。しかし、私たちの集団的記憶は短いのです」とアイリーン記者は言う。「しかし、そうであってはならないのです。このようなことの結果は、長く影響が残るものであり、場合によっては人々のその後の人生を死ぬまで左右するのですから」。

多くのテック企業は現在でも中国で大きな存在感を維持しており、中国のユーザー情報を現地で処理している。これらの企業は、政府からの識別情報の引き渡し要請には確実に応じるだろうが、その行動が中国政府のネット上の言論統制にどれだけつながったかは必ずしも定かではない。

現在も続いているヤフーの物語からわかることが一つあるとすれば、それは、中国や他の地域の独裁主義的な政権下で、テック企業がユーザーに損害を与えた行為を暴くには何年もかかり、その責任を追及するにはさらに時間がかかるということだ

「ジャーナリストとして私が考える教訓は、ヤフー基本的人権基金のような構想を振り返ることは常に価値があるということです」とアイリーンは述べる。「そして、メディアの注目と集合的記憶が離れていったときに何が起こるのかを理解しようとすることもです」。

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MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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